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ウェラテヌス隆盛記  作者: 浅羽 信幸
第四十一章
1661/1721

歪んだ議場 Ⅱ

「そのためにも、まずはこの場で、元老院の総意で以て第二次ハフモニ戦争の功労者を確定させなければならないでしょう」


 立ち上がろうとしたアスピデアウス派の男に手のひらを向ける。


 事前にべルティーナから聞いていたのだ。誰が反対しそうか。残ってはいるがマシディリに批判的な者は誰なのか。そのような者達の周囲のどこまでが説得に応じているのかも含めて。


「元老院の決定では、父上の追放は解かれていますが第二次ハフモニ戦争の功労者としての地位を明確に示した訳ではありません。だからこそ、余計な推論を生んでしまうのです。これは、誰にとっても良いことではありません」


 手を横に動かしながら、手のひらを閉じる。

 立ち上がろうとしていた初老の男も席に着いた。


 マシディリは男への追撃などせず、話の流れはそのままと言わんばかりに正中線を全員に向けるように足を動かす。


「第二次ハフモニ戦争。その第一功は、言うまでもありません。誰もが否定しないでしょう」

 

 郎、と声を張った。


 一拍。

 口を閉ざしたまま、口元を緩める。


 去来する表情は様々なモノ。

 期待。憤懣(ふんまん)。無。歓喜。侮蔑。落胆。悦楽。


 その全てを受け止めながら、マシディリは議場の中央に仁王立ちで止まった。


「第一功。サジェッツァ・アスピデアウス」


 半分ほどの表情が、驚愕へと変わる。

 表出している量に差はあるが、多くの者が想像した名でなかったことは確かだ。


「戦争一年目から元老院の若き期待の星として活躍を続け、独裁官にもなり、終戦までアレッシアを引っ張り続けました。アレッシアの持つ国力をそのまま継戦能力へと転換できたのもサジェッツァ様のお力。サジェッツァ様無くして数々の英雄の活躍はありません。マールバラ対策を早期に見抜いていたのもサジェッツァ様。


 第一功はサジェッツァ様以外あり得ません。


 一方でサジェッツァの罪は自身の繁栄をさらに長きにわたるモノと考え、己の利益に強欲になり過ぎたこと。

 このことも、忘れてはならないでしょう」



 静かに閉じ、右手を顔の横にあげる。

 人差し指を立てた状態で二度揺らした。



「次に第二功。こちらは、三人います。


 一人目は、タヴォラド・セルクラウス。

 インツィーアの大敗後にアレッシアを建て直し、継戦能力を作り上げるとともに継戦の意思を内外に示した強き独裁官です。タヴォラドの伯父上無くして、アレッシアの再起はありえなかったでしょう。


 ただし、タヴォラド様にも失策があります。自身を顧みずに悪評を受け容れすぎたと言う失策。己の欲を出さず、他者に利益を分配しすぎたがために影響力の低下を招いたと言う致命的な失策が」



 それがタヴォラドの次男スピリッテを追い込んだのも事実。

 伯父のことは尊敬しているが、その点は許せるものでは無いのも、否定できない事柄だ。

 息を吐き、眼光を再び強く戻す。



「二人目はマルテレス・オピーマ。

 雷神と言われ人では勝つことのできないと思われていたマールバラを人の領域まで落としたのは、間違いなく師匠が勝ったからこそ。インツィーアの大敗後に北方諸部族に対して武勇を示したのもアレッシア人の心に勇気を灯す行動です。


 タヴォラド様が内側を支え後方を改革したのなら、戦場に確変をもたらしたのはマルテレス様。熱き心をアレッシア人が失わなかったのは、マルテレス様のおかげです。


 マルテレス様に敗戦はあれども、第二次ハフモニ戦争中に失敗はありません! 


 しかし、後年になっても熱が冷めず、冷徹な視線での判断が出来なかった片鱗は見えていました。カルド島では、冷淡とも取れる判断を下すべき場面で、温情を見せすぎていましたから」



 その温情が故に、スィーパスを見捨てられなかった。

 同じ親として、糾弾できる行動では無い。一方で、アレッシアの高官としては軽率だったと糾弾してしまう。弟子として、何故思いとどまってくれなかったのかと泣き叫びたいのも本音だ。



「最後は、最早言うまでも無いでしょう。


 エスピラ・ウェラテヌス。


 最初期にはカルド島を五千人のアレッシア兵で守り、勝利をアレッシアにもたらしました。翌年もサジェッツァ様の副官として従軍し、マールバラの軍制を解明しています。法務官就任後は言うまでも無いでしょう。


 エリポスに渡り、エリポス各国、特にマールバラの誘いを受けていたメガロバシラスの動きを封じました。マルハイマナも動けず、マフソレイオが支援を続けてくださったのも父上のおかげ。


 半島に帰ってきてからは防御陣地群を駆使してマールバラを釘付けにし、カルド島をモノにしました。カルド島の属州としての支配はまさに他の地域へのお手本です。第二次ハフモニ戦争中に父上が育て上げた者達は今やアレッシア軍の主力。


 私の贔屓目が許されるのなら、第二功を父上ただ一人にしたいほどです。


 しかしながら、父上にも失敗があります。動きを止めて来た父上ですが、動かさなければならなかったモノがありました。


 アレッシア元老院。

 追放の拒否や凱旋式の参加は、しなければなりませんでした。エスピラ・ウェラテヌスの内側にあった熱をしっかりと見せ、情に深くあらねばなりませんでした」



 ぐ、と拳を握る。

 何かに思いをはせているように見せながら、三秒。


 マシディリは、拳を下げながら再び口を開いた。



「祖父、タイリー・セルクラウスの言葉にこのようなモノがあります。


『指揮官とは、誰よりも情が深く冷淡であり、誰よりも自分に酔いながら自身の決断を疑い、誰よりも利を分配し己の利益に強欲でなくてはならない』


 お爺様は、確かに没落したウェラテヌスとしか婚姻が結べませんでした。

 しかしながら、お爺様の時代には内乱はほとんどありません。第一人者として、誰もがお爺様の事を認めていました。


 私は、先の四名とお爺様、全員と関りがございます!


 失敗を学び、良いところを取り、成功するのか。

 全員の悪いところを集め、大失敗をするのか。


 その評価は歴史が決めること。勝者であれば成功と讃えられ、敗者であれば失敗と貶される。どちらにもなり得ましょう。


 しかし、私の周りには人がいます。


 ヌンツィオ・テレンティウスはインツィーアの大敗後に唯一生き残った高官でした。批判はすさまじかったでしょう。重圧は計り知れるところではありません。しかし、最後までアレッシアのために戦い抜き、報われないと知りながらも決死に生き抜きました。

 その生き様を見た者は、受け継いだ者は確かにこの場に居ます。


 フィガロット・ナレティクスは建国五門の当主でありながら裏切りました。この裏切りは、未来永劫歴史書に残るでしょう。そして、排除すると言う決断も、中々できないもの。一からの再出発となりながらも建国五門としての格を保つことの難しさは私も良く知っているつもりです。

 それだけの力ある方が、我が愛息と婚姻関係を結んでくださいました。


 パラティゾ様、クーシフォス、アグニッシモ。私の所為で敬愛する者達を失ったのに、それでもなおアレッシアのためにとこの場に残ってくださっています。


 私には、第二次ハフモニ戦争の英雄が持ちえなかった仲間が多く居ます! 此処にいる皆さんも、派閥はそれぞれ違いました。一つではありません。しかし、今は、アレッシアのために一つになっている。


 私と皆さんは、今、同じ屋根の下にいるのです!


 これは大きな違いだ。

 サジェッツァ様もタヴォラド様もマルテレス様も父上もお爺様も持ちえなかった、一視同仁の力です。


 次の軍団を、アレッシア人がアレッシア人を討つ最後の軍団としましょう。


 私と、皆さんで」



 右手を顔の横へ。

 人差し指を立て、雄々しい顔を浮かべた。



「アレッシアに、栄光を」

「祖国に、永遠の繁栄を」


 多くの元老院議員が返す。


 意図を知って賛同した者。知らずに賛同した者。意図を知った上で保身のために賛同した者。

 理由はどれでも構わない。どうとでも言い逃れは出来るし、返した者に言い逃れはさせない。


 アレッシアの第一人者。

 祖父タイリー・セルクラウスが周囲から推戴され、父エスピラ・ウェラテヌスが晩年にようやく不完全ながら手にした称号。


 マシディリは、その地位を三十代にして自らの力で掌中に収めたのだった。

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