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第11話

 迫る黒いマナ重機の頭部、その少し上をマナライフルの弾丸が通過していく。そのすぐ隣で、ポールハンマーが地面を抉った。相手が発射する弾丸を1号機は盾で受け止め、マナライフルの照準を定める。狙いは操縦席、その下部にあるマナエンジン。1号機から発射された弾丸は目標に命中。だが、装甲に阻まれて直撃しない。2発、3発と同じ場所にマナライフルを打ち込だ。

 ドガァッという破裂音と共に、黒いマナ重機は火に包まれる。そして、周囲にはマナ人間が焼ける生臭い臭いが漂う。それを確認した1号機はゆっくりとマナライフルを下ろした。


 これで、9機から、10機にカウントが増える。戦場に来てから、これだけの数の黒いマナ重機を撃破してきた。

 まだ10機なのか、もう10機なのか、戦場全体から見たら、どちらといえるのだろうか。リクトたち試験部隊にとっては、もう10機であった。

 最初の3機までは余裕に撃破できていた。だが、高揚しすぎた気分と、身体の緊張が無駄に体力を削っていく。どこからどこからともなく飛来するマナライフルの弾丸が、否が応にも警戒を密にさせられる。

 いつどこから攻撃されるのか、いついかなる時にも命を奪わんとする弾丸に襲われるともわからない。度々入る本陣からの通信は「前進しろ」という命令だけ。焼けて荒れた大地を進むだけで、身体、精神ともに疲弊していく。


 リクト達はそれぞれが言葉を交わすことができないほど疲れきっていた。マナ重機は操縦者であるマナ人間のマナを消費して動く。動かす時間が増えるほど、負担は大きくなり、マナは失われていく。マナが尽きるということは、マナ人間の死に直結する。そんな状態の試験部隊の攻撃精度は落ち、先ほどの攻撃も外してしまっていた。

 リクトだけはマナの消費がなくまだ余力があった為に、攻撃を命中させることができたというだけである。


「疲れたな。休憩はできないか?」


 まだ正常な判断ができるリクトが全員に提案した。だが、返事はなかなか帰ってこない。肌で疲弊を感じることができた。このままの進軍は難しい。そう判断した。


「今は近くに敵影がない。大丈夫だと思う」


 ファストの声で各々のマナ重機は歩くのを止めて、その場に座らせた。通信から息を吐く音が聞こえる。ようやく安心できたのだろう。


「ぷはぁっ! 疲れたよー。こんなにしんどいの?」


 疲れからか弱弱しいサッドの声が聞こえてくる。その姿は見えないが、きっと操縦席で身体を投げ出してだらけているに違いない。


「くそっ! 情けねぇ」


 今度はセンドの声と、何かを叩く音が聞こえてくる。自分の弱さを嘆き、そのイラつきから操縦席のレバーを叩いているようだ。

 何も言わないファストも相当疲れていることだろう。

 初陣で誰も戦場を知らない状況、それでもここまで戦いぬいた。だが、未だに戦場の中にいて、戦わなければ生き延びれない。


「何か回復できるもの……そうだ、マナの木の実、あれなら疲れがとれるんじゃないか?」

「そうよ! それよ! なかなかやるじゃない、隊長!」


 サッドの声が元気になると同時に、カリッという殻を齧る音が聞こえる。

 その様子にリクトはほっと胸をなでおろす。今まで隊長らしいことができなかったために、こうして役立つことができた。そう思った。だが、何か様子がおかしい。サッドから殻を齧る音が途切れない。


「! サッド、あまり食べすぎちゃダメ。私たちでも食べ過ぎは毒」


 ファストの声に、齧る音が止まった。


「でも、まだまだ疲れてるよー」


 不満げな声が聞こえてくる。リクトには分からないが、マナの木の実だけではマナを回復できても、疲労を回復することはできないようだ。さらなる休憩の必要性を感じた。


「ファストとセンドは食べなくて大丈夫か?」


 リクトの呼びかけに通信から殻を齧る音が聞こえてくる。疲労もそうだが、みんな相当にまいっているようだ。肉体的にも精神的にも。


「あんたはどうなんだ? 隊長さん」


 センドから労わるというより、ただの疑問の言葉が投げかけられる。


「僕は……そうだな」


 リクトは顎を触りながら、考えてみた。そして、すぐに口を開いた。


「僕は大丈夫だ。まだ耐えられるよ」

「そう言う意味じゃない。疲れていないかどうかって事だ」


 少しイラついたセンドの声が聞こえる。その言葉に、自分が的外れなことを言っていることに、リクトは気付いた。自分ひとりが強がっていては、他の仲間が休むことに負い目を感じてしまう。心配りができていなかった。


「ああ、ちょっと疲れてるみたいだ。もう少し休憩が必要だな」


 なんだかんだ言っても、何かとこちらを気にかけてくれるセンドに、リクトの頬が緩んだ。少し和んだ時に、リクトははたと思いつく。


「ファストも休めよ。気を張りっぱなしはよくない」

「そんなことはできない。索敵を怠ったら、私たちは全滅……」


 ファストの声に緩んだ顔が引き締められる。自分たちは未だ、戦場の真っ只中にいるのだ。それを忘れそうになっていた。


「索敵は交代できないか? 僕なら代わりができる」


 リクトの言葉にファストは返事をしない。代わりにサッドからの通信が聞こえてくる。


「平気だよ。ファストはこういう事ができるように作られてるんだから」

「その通り。私は操縦できない分、こういうことは得意だから」


 操縦しないから疲れないなんてことはないはずだが、ここはファストの言葉に甘えようとリクトは思った。

 その矢先――


「敵機の反応! ……北西!」


 切羽詰まったファストの声に、緊張が走る。各々のマナ重機は立ち上がり、装備を構えなおした。

 その直後、ファストの言う通り、北西から銃弾が飛んでくる。飛来する方向さえわかれば、盾で防げるのだが、彼女たちの動きは遅い。マナエンジンの再稼働に時間がかかっているのだ。

 リクトは1号機を動かし、2号機の前まで飛び出し、盾を構える。守る場所は、操縦席とマナエンジン。この2つさえ守れれば、マナ重機はすぐに動かなくなることはない。

 1号機に当たる弾丸が操縦席を揺らす。どうやら、盾以外にも当たったようだが、操縦席からは確認できない。

 攻撃を凌ぎ、少し余裕が出てきた頃、2号機と3号機が武器を構えた。その様子はあまりにも鈍い。2人がまだ回復していないことが分かる。


「大丈夫か? ここは僕に任せて。センドはそこで盾を構えて身を守れ。サッドはこちらを援護してくれ、撃つだけで構わない」


 2号機は武器を構えようとするが、すぐに止めて盾に身を隠す。3号機は攻撃された方向に銃身を向けると、弾丸を発射する。そして、1号機は単独、北西へ向かった。


 マナライフルの射程はさほど長くない。少し移動するだけで、相手の姿が見えてくる。黒いマナ重機がライフルを構えてこちらに向かって歩いてきていた。


「数は2。1度引いて3機で戦うべき」

「ダメだ。あの2人には休憩が必要だ。それに、3号機の援護もある」


 そう言うリクトにファストはいい表情をしない。3号機の援護といっても、弾丸はほとんど飛んでこない。飛んできても敵機へのけん制にもなっていなかった。


「悪いな。ファストも疲れているだろうが、付き合ってくれ」


 そう言うと、リクトはレバーをガチャガチャと動かす。この1号機はやたらとレバーが多い。操縦することは困難ではあれ、他の量産されているマナ重機に比べてできることが多い。

 1号機は姿勢を低くして、全身を守れるように盾を構えた。その盾に隠れながら、マナライフルだけを外に出して敵機に狙いをつける。

 相手は2機。戦い抜くことは可能だったが、位置が悪い。1号機を挟むように敵機は近づきながらマナライフルを発射してくる。盾で全てを防ぐことは不可能。なら、1機ずつ相手にすればいい。

 敵機が1号機に向けて射撃をしてくる。


「ファスト! どこかに掴まっていろ!」


 それをぎりぎりまで引き付けると、1号機を地上を転がった。操縦席に凄まじい振動が襲う。座席に備え付けられているベルトが身体を固定してくれる。2人は踏ん張ってそれに耐える。元いた場所に弾丸が命中する。そこに1号機はすでにいない。盾で防いでいたら、風穴が開いていただろう。

 転がった為に、敵機の片方に近づくことができた。後は慎重に、個別に対処していけばいい。

 先ずは起き上がり、マナライフルを構えた。正面に捉えた敵機は照準を1号機に合わせるが、もう遅い。狙いを定めた1号機は先制してマナライフルを撃つ。その反動が操縦席を揺らした。

 狙う先はマナエンジン。ここを選んだのは理由がある。2発、3発とマナエンジンを撃ちぬいていくと、マナエンジンが暴走して発火し始める。1号機はさらにマナエンジンに弾丸を打ち込んでいく。

 過剰なマナを得たマナエンジンは発火を超える熱量を生み出していく。どんどんエネルギーを生み出すマナエンジンはいずれ容量を超える。

 瞬間、マナエンジンが爆発を起こす。激しい爆風は一帯に突風を起こし周囲をなぎ倒していく。

 こうなることを予測していた1号機は地面に張り付てその衝撃に耐える。操縦席は先ほどの回転並みに揺れ動くが、その際にしがみついていた為に、リクトたちはかろうじて踏ん張ることができた。

 1号機とは違い、この爆発を察知できなかった敵機は横倒しとなり、まともに動くことができなくなっていた。

 そこがチャンスとばかりに、リクトはレバーを動かして、1号機を走らせる。

 敵機が起き上がろうと上半身をあげるところに、1号機が飛び込みんで蹴りを放つ。再び地に倒れた敵機を踏みつけ、マナライフルを操縦席へと向けた。

 そして、マナライフルの先端を少しずらし、マナエンジンがある場所に向ける。

 3発、マナエンジンに弾丸を放つと、敵機の黒い装甲から赤い火が立ち上った。同時に焦げる臭いが生臭さと混ざり合って、リクトの鼻を突く。


「くっ……この臭いは慣れたくないな」


 リクトは腕で鼻と口を覆い、顔をしかめた。マナ重機が燃え、操縦していたマナ人間も焼け死んだようだ。


「そっちは大丈夫か?」

「随分と荒っぽかった。もう少しなんとかならなかった?」

「すまない。とっさにやったことだ。許してくれないか」


 燃え上がる敵機は爆発しないとはいえ、まだ危険があるとリクトは1号機を下がらせた。そして、深く呼吸をした。

 今回は主だった被弾がなかったが、あと一歩間違えれば大惨事になる場面が多かった。相手が2機という初めての戦闘、しかも、味方と距離を取る為に、過剰に接近しての戦いだった。リクトもどうすればいいかわからないことばかりで、博打を打つようなことをしてしまっていた。

 今になって、レバーを持つリクトの手が震えだす。


「おい! 爆発があったが、どうかしたのか!」


 通信からセンドの焦った声が聞こえてくる。

 戦闘に行った先で爆発が起これば、誰でも心配になるというもの。それは、サッドも同様だった。


「だ、大丈夫ー? なんかヤバげだったけど?」


 2人の慌てぶりに、リクトは少し笑いながら口を開けた。


「問題ない。すぐに戻るから安心してくれ」


 リクトの返答に前に座るファストが、全然大丈夫じゃないと、振り返って睨んでくる。その視線を無視して2機と合流する。


「今回は反省するべきことがあったな。休憩するなら、見張りを立てないといけなかった」


 リクトの気の抜けた言葉に、3人は溜息を吐くばかりだった。


「お前は隊長なんだから、もっと考えてもらわないと困る」

「でも、2機も倒したし、結果オーライじゃない?」


 イラつくセンドの声が聞こえてくる。それとは対照的なお気楽なサッドの声が被さってくる。


「これからは、今まで以上に索敵する」


 今回の責任を負うようなファストの声がリクトには心苦しかった。もっと、隊長としてしっかりしないとと、自責の念を感じた。


「みんな、まだ疲れているようだし、もう少し休憩しよう。今の2機を倒したし、しばらくは大丈夫さ」


 リクトは3人を励ますようにそう言った。

 戦争はまだまだ続くのだ、こんなところでやられてはならないと、リクトは心に刻んだ。

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