25.御節介を、もう一度
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別れよう。
もう終わりにしよう。
その言葉を見た江ノ島君は、また腰を浮かせかけながら、
「静香──!」
「それは違うと思うよ古崎さん」
不意に口を挟んだウチを、二人は驚きの表情で凝視した。江ノ島君は気勢を殺がれたように、中途半端に宙に浮いていた腰を椅子に落とした。
古崎さんは古崎さんで、泣きはらした両目を剥いてウチを見ている。
二人の表情から窺われるに……十中八九、二人はウチの存在を忘れていたのだと思われる。
「ドウシテアナタガココニイマスカ」という表情で見られるのは、別に初めてでもないしね。
「それは、うん。やっぱり違うと思う」
ウチは繰り返した。古崎さんはまだ呆然とした表情のまま、それでも小さな声で、
「違うって……」
「それじゃあ、ダメなんだよ。古崎さんにとっても、江ノ島君にとっても」
ウチは二人のどちらの顔も見ることなく、自分の手元だけを見つめる。
「違うって……もうそれしかないじゃないですか。どうしようもないでしょう。私は……」
もうそれしかない。
どうしようもない。
ウチは、機械的に古崎さんの言葉を書き付けながら、答える。
「本当のところは、嫌なんでしょ? 古崎さん。江ノ島君と別れるのは。……江ノ島君だって、嬉しくはないでしょう? 例えここで二人が別れたところで、江ノ島君はやっぱり古崎さんの願い通りに幸せになってはくれないと思うよ」
ね? と江ノ島君を見る。江ノ島君は何も答えないけれど、その表情を見れば聞くまでもなかった。
「そんな……だって………」
古崎さんは声を震わせた。
「それじゃあ……それじゃあどうすればいいんですか! 私は、私がどうすれば江ノ島君は幸せになってくれるんですか!?」
古崎さんは叫んだ。悲痛な、心に差し込まれるような叫びだった。
そういう叫びを聞くことだって、ウチには初めてのことでもない。
――詰まるところ。
二人は二人とも、優しいんだと思う。
お互いにお互いを思いやって、思い合って、相手のことを想いすぎる。
そうして思いやり合った結果……哀しい終わりになってしまうことだって、あるんだろう。
お互いに、すれ違って。
すれ違い合って。
そして、お互いにすれ違ってしまっていることはわかっているのに。
やっぱり相手を思いやってしまうから、すれ違いでもよしとする。
相手が大切であるがために。
相手が幸せになれれば、自分のことは二の次だと。
でもそれは、哀しい。
ウチは嫌だ。
そもそもがウチのお節介に始まるわけで、ほとんど全部がウチのお節介なわけで。
その結果がすれ違いでは、申し訳が立たない。
誰にと言えば、誰だろう。まあ、二人に。
馬に蹴られて死なねばならない。
だからわかりやすく言うと、総じてウチのエゴなわけなんだけど。
こんな結末はイヤだなあ、という。
だからウチは口を挟む。
お節介を差し挟む。
「幸せになってほしい、とか、別れよう、とか、そういうのは一度全部置いといて、さ。一つ、教えてほしいというか、聞きたいことがあるんだけどさ」
古崎さんにも、江ノ島君にも。
お互いに、お互いへ、伝えてほしいことがある。
伝えてほしい気持ちがある。
「一番底の、根っこのところ。エゴでも何でもいいからさ、心の底で、二人は二人をどう思ってるの? 気遣いとか無用で、教えて」
心を、教えて。
「俺は」
先に口を開いたのは、江ノ島君だった。
固く、強い意志の籠もった声で。
心で。
「俺は今でも、静香が好きだ」
揺るぎない言葉だった。迷いない言葉だった。
古崎さんは、また泣いていた。ぼろぼろと涙が零れ、拭っても拭ってもとめどなく、頬を伝って顎から滴った。
「わ、わたっ……私は………」
嗚咽しながらも、それでも、古崎さんは答えた。
気遣いもなく、思いやりに隠すこともなく、心の底を。
本心を。
「私も、ケンちゃんが──大好き」
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