17.ユーレイって、何だろうね
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結果を言えば、何とか江ノ島君はウチの話を聞いてくれる姿勢になってくれた。ただ、ウチは終始あわあわしながら話していたものだから、実のところどうして江ノ島君がウチの話を聞こうと思ってくれたのかはわからない。
ともあれ、結果オーライだ。うん。
「幽霊を信じるかと言いましたね」
喫茶店で、禁煙席に着くや否や江ノ島君はそう切り出した。
「あ、ええ。まあ」
口をついて出た言葉であって、そこまで深い意味を込めて言った言葉じゃなかったからウチは曖昧に反応してしまったが、江ノ島君はそんなことは気にも留めずに続けた。
「幽霊なんて信じません。死んだら人間そこで終わりです。モノになって灰になって、それで終わりです」
きっぱりと、江ノ島君は、そう言った。
……のだけれど。
不意に。
そう、唐突に。
『そう、思ってたんだけどね』と。
もう何年も前に出会ったとあるユーレイが、そんなことを言っていた記憶が、一瞬だけ重なった。
『彼』の、あの朧気な笑みが。
「それともあなたは、幽霊は存在すると言うのですか。自分は霊感があって、霊能力者で、静香の幽霊と交霊したんだ、とでも?」
「あー、えーっと」
畳みかけられて、ウチは言葉に詰まってしまう。江ノ島君はさらに勢いに任せて、といった感じでさらに思いを吐き出す。
「馬鹿にしないでください。幽霊が存在して、交霊できるだとか、そんなのは全部故人への冒涜です。静香を悪く言うなら俺はあんたを許しません」
江ノ島君の中で、何かに火がついてしまったらしい。多分、多分だけど、テレビ番組なんかでよく出てくる霊能力者みたいなのを思い出してるんだろう。
ウチもその感想には、大いに同意したいところだから。
「幽霊なんて存在しません。第一、これだけ科学の発達した現代で、幽霊? 宇宙人の方がまだしも信憑性がありますよ。馬鹿馬鹿しい」
「――存在しないことの証明は、誰にもできない」
ぽつり、と洩れたウチの呟きに、江ノ島君は言葉を止めて眉をひそめた。
「……何ですって?」
「あ、いえ、独り言です。すいません」
ウチは両手を振ってごまかした。実際、何か深い考えがあって言った言葉じゃない。
そもそもウチの言葉じゃない。
『彼』の言葉だ。
『彼』からの受け売りだ。
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