16.テンパりまくってさあ大変
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「まあかく言うウチも洗濯し忘れたのですけどね。外に出てしばらくしてから思い出してしまいました」
ぺらぺらと、ウチの口は勝手に回る。
マズい。
かなりテンパってる。
背中を滝のように冷や汗が雪崩落ちてる。
てか何で洗濯の話してるんだろう。
ギリギリまでシュミレーションして、
怪しまれるといけない。
=無難な話題がベター。
=無難な話題といえばお天気の話。
=洗濯物(!?)
もう、ダメかもしれない。
「……俺は忙しいので失礼します」
相手にしない方がいいと思ったのだろう。江ノ島君はウチの横を抜けて立ち去ろうとする。平時ならウチもその判断に賛成するところだけれど、今度ばかりはそういうわけにはいかない。
ウチは慌てて江ノ島君の前に回り込んだ。
「……何ですか」
低い声で言う江ノ島君。今はもう苛立ちがはっきりと顔に出ている。
散々俎上に上げておきながらこれが初会話の江ノ島君。うわ、背ぇ高いなあ。
素朴に、ちょっと恐いなあ。
「んとですね、あなたに――そう、お話があるのです」
は? という顔をする。その虚をついて、ウチは続けた。
「変な宗教の勧誘とかじゃないんです。ただ、聞いて貰いたい話があると言うか、話を聞いてほしい人がいるというか……江ノ島・健輔君ですよね?」
「……そうですが。何で俺の名前を知ってるんですか。そもそもあなた誰ですか」
ん、ちょっと食い付いたかな?
「ウチは工藤・マユミといいます。江ノ島君に、聞いてもらいたい話があって」
あははと無理に笑ってみせる。
江ノ島君は、明らかに怪しんだ表情になった。
いけない、とそういう思いだけで、焦るウチの口は取り留めのないことをまき散らし始める。
「いやーウチ結構人見知りでして。スッゴく緊張して自分でも何言ってんだかって感じで。ええもう困っちゃいますね」
手汗ヤベェ。
「その、元はと言えばただのウチの御節介なんです。無理言ってお話ししようとしているだけで、結局はウチの自己満足にしかならないかもしれないとか思いもするんですけど、でもやっぱりできることはしたいなって思うんです。時間かあって手段があるのに行動しないのはただの怠慢だって、小学校のときの先生も言ってました」
ウチは一体何を言ってるんだろう。
怪しい宗教勧誘みたくならない? と訊くと、エーカちゃんは笑いながら、
『宗教勧誘やあの手のものには、正直に言わせてもらいますと、多かれ少なかれ利己心や狂気が混ざっているものです。ですが工藤さんはただありのままを語るだけですから、そういうものが混ざる心配はありません』
とか言ってくれたんだけど、これはやっぱりアウトなんじゃないだろうか。
キョドりすぎ。
「聞いてくださるだけでいいんです。ウチはお話しするだけです。少し時間をもらうだけです。でも大切な話なんです。話を聞いて、それでどう判断するかはお任せします。ので。ええ」
ああ、もう。膝が笑い出した。
大爆笑だ。
「と、とにかくも、聞いてもらえませんか?」
強引に締めて、ウチはまっすぐに江ノ島君の目を見た。
後ろ暗いことのない人間は相手の目をまっすぐ見ることができる、というのもエーカちゃんの言だ。あまりに見すぎるとかえって怪しまれるけれど、とも笑っていた。
せめて眉間あたりを見つめる気持ちで、と。
その功があったのかどうかは、わからないけれど。
「何の話ですか」
一応、というように江ノ島君はウチに向き直ってくれた。お、お、もう一息?
ウチはあらかじめ練っておいていた手札を確認する。もちろん、ここで使うべき札は決まっていた。ただ、これはやや危うい手なのだ。でもこの言い方しかウチには思いつかない。
ウチの後ろで俯き気味に立っている女の子のことを思いながら、ウチは声を励まして言った。
「古崎・静香さんのお話です」
聞いた途端、江ノ島君は何だか複雑な表情をした。
苛立ちが増したような。
不快感も上がってきたような。
困惑が深まったような。
そして。
どこか沈痛な、表情を。
「……静香は、何年も前に亡くなりました」
「その静香さんからのお話です」
江ノ島君は眉をひそめた。何を言っているのか、と。
ウチは、自分でも答えられない問いを、
「あなたは――」
江ノ島君に、掛けた。
「ユーレイって、信じますか」
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