13.マジックの経験あったり?
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ぴっ、とエーカちゃんは人差し指を立てた。
すっと細長くて綺麗な指だ。
「しかしツカミが重要なのは確かです。ツカミ。おわかりですか? ほらあの、お笑い芸人などの一発目ですよ。これから面白いことを始めるぞ、という期待感を持たせる前振りです」
へえ。知らなかったな。
会話の始まりで相手にいい印象を持ってもらう話し方かと思っていたよ。
「ツカミに関しては、やはり見た目が大きいでしょう。第一印象というのは百パーセント見た目ですからね。一目惚れというのはつまり顔に惚れたというわけであって人となりは全く関係がないのです。だから一目惚れということを踏まえた上で『あの子のどこに惹かれたの?』と訊かれればいつでもかつでも百回目の結婚記念日においても『顔』と即答しなければならないのです。ともあれしかし工藤さんは見た目で攻めるとやや空振りしそうな感がありますからね……これは、作戦の方向性を考える必要があります」
「方向性?」
ウチはまたフォークにスパゲティをたくさん巻き付け、一気に頬張った。うむー、鱈子鱈子。うまうま。
エーカちゃんは頷き、続ける。
「ヴィジュアル重視ではなく、トーク重視で攻めてみましょう」
「ほほう。トーク」
「やはりトークが面白くなければ、単なる一発屋芸人に堕ちますからね」
一発屋芸人か。
「面白い会話のできる人というのは、まあセンスもありますが、往々にして話のネタのストックが豊富なのです。さらには単なる知識のひけらかしに堕しない知識の軽妙な運用法を心得ているのです」
「ウチは……知識は心許ない、かな」
「この場合、知識というのは古崎さんの心です。古崎さんの思いを最大限掴み、ここぞというところで刺す」
「古崎さんの心……か」
「そうです。ですから、古崎さんの協力は不可欠ですね。今この場に古崎さんはいらっしゃいますか?」
「いや、いないよ」
多分、江ノ島君と一緒にいると思う。
「では詰めは古崎さんと練って下さい。私は方針をお伝えします。――まあ、簡単な話、手札を多く用意しておくのです」
「手札?」
エーカちゃんは頷き、制服の胸ポケットからトランプの束を取り出して手際良くシャッフルし、テーブルに置いた。
フルセットのトランプだ。
どうやって入ってたんだろう。
「強い手札に拘る必要はありません。針のような鋭さがあればいいのです。それもできるだけ多くですね。応用が利くようにパターン化もしない方がいいでしょう」
言いながら、置いた山札の上から一枚ずつ引いて、裏向きのまま横一列に並べていく。
五枚。
「一見バラバラであり、大したものであるように見えない札あっても、それぞれが自身の効果を最大限に発揮できるタイミングで開く」
左端から二番目の一枚を捲った。
ハートの2。
「要はタイミングと組み合わせ。抜かりない周到な準備」
左端から三番目の二枚目を捲った。
クローバーの2。
「相手の疑心を超越し、気を惹き続けるに十分な言葉」
三枚目を捲る。
スペードの2。
「示すのは明確な意志と、相手の信用を勝ち取る力」
四枚目。
ダイヤの2。
エーカちゃんは、ふふっと悪戯っぽく笑った。
「やりようによっては、いくらでも大きな力を引き出すことができるのです」
テーブルの上には四種の2が表になった。
大富豪で言えば革命。
ポーカーで言えば4カード。
エーカちゃんは並べたカードはそのままに山札を二つにわけ、 それぞれの端を向き合わせると、軽くカードを湾曲させ、弾いた。
パラララララ……と軽快な音とともに、二つの山札が噛み合わさっていく。
リフルシャッフル。
さらにはブリッジまで披露してカードを一つにまとめると、元の位置に山札を置いた。
それから再び山札から五枚引き、また同じように先の五枚に重ねて置く。
「さてさて。そろそろ具体的な話に移りましょう。存外この世の中には似たような状況が多いですから、それらを参考にしながら想定してみます。なに、今の時代は想像力過多な方々も数多くおられますから、その手の参考資料には事欠きません。もちろん言うまでもなく私のレインボーピンクな脳内図書館にも豊富に取り揃えられております。では、それらからチョイスし当意即妙のエーカちゃんアレンジを加えつつ私からはおよそ五つをお伝えさせていただきます。まずは先程言いましたツカミについて」
今度は右端の一枚を裏返した。
ハートの8。
「それから、どのようにして古崎嬢の言葉を伝えるか」
その隣の一枚を捲る。
ハートの9。
「次に、どうやってその江ノ島氏を信用させるか」
右から三番目。
ハートの10。
「加えて、現場における予定外に対する柔軟さを失わない心構え」
四枚目のカード。
ハートのジャック。
「そして最後の手。これは切り札となりますが、使うか使わないかは現場の判断にお任せします」
五枚目。最後のカード。
ハートのクイーン。
綺麗に揃った五枚を前にして、エーカちゃんはにっこりと微笑んだ。
「それでは、お聴き願いましょうか」
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