12.食べるのほんとに早いねえ
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かくかくしかじか。
途中でやってきた注文を挟みながら、ウチはエーカちゃんに一通りのことを話した。
エーカちゃんはまずやってきたカツカレーを食べながら一つの質問も挟まずに聞き、醤油ラーメンを啜りながら聞き、牛丼を食べながら聞いた。
水にも一切手をつけず。
食べるの早い。
ウチはまだ半分も食べてないんだけど。
アクションが素速いわけでもないし、しっかりもぐもぐしてるのに、エーカちゃんはもう三品目を食べ終えそうになっている。店員さんも料理を運んでくるたびに既に食べ終わっているエーカちゃんの尋常でない速さに目を剥いていた。
「成程。よくわかりました」
牛丼の器が空になり、やってきたステーキを前にしてエーカちゃんは一旦口元を優雅に拭いた。
「つまり総括すると、その江ノ島氏を現実に目覚めさせればいいのですね。こう、パチンと」
「んー、そうなんだけど、何か違うような」
「失礼、古崎嬢の言葉を聞かせて納得させたいというわけでしたね」
「そうそう、そんな感じ」
ウチはフォークにパスタを巻き付けながら頷いた。まきまき。
ふむう、とステーキにナイフを入れながらエーカちゃんはちょっと考え込む表情になった。
「やっぱり難しいかな?」
「んー……まあ簡単なことではありませんね」
ステーキナイフをタクトのように振り、エーカちゃんは言う。
そのままナイフをステーキへ下ろし、押さえもせず手首のスナップだけでサクサク切ってしまった。鮮やかだなあ。どうやってるんだろう。ある種の剣術を見ている感じだ。
「どうすればいいかな」
「ふむ……やはりさすがはアイ先輩です。ここで私に相談してみるというのは実に理にかなったチョイスです。胡散臭さにかけては私の右にでる者はいませんからね。胡散臭いといえばこの私。胡散臭さの第一人者を自負するこの私の手にかかればこの程度のことはいくらでも対処可能です。その胡散臭さたるや、人をして殺しても死なないのではないかと本気で思わせるほどのものなのです」
「ほうほう」
エーカちゃんはアイちゃんをアイ先輩と呼んでいる。
「ええ。既に幾千通りもの方策が、私のショッキングピンクの脳細胞でカーニバルを敢行しています」
それは……騒々しそうだね。
エーカちゃんはステーキを上品に口に運び、あまり上品でないことにもぐもぐと咀嚼しながら発言する。
「ほうでふね……ん、しかし残念ながら、アイ先輩には申し訳ありませんがさしもの私も一撃必殺的な方法を差し上げることはできません。人の意志というものは、さすがの私と言えどももなかなかに変え難い」
「そう……だよね」
「ですが先程も言った通り、何もないわけではありませんよ。そうですね……とりあえず思いつくところを列挙してみますか?」
「うん。聞かせて」
ふむ、と頷いてエーカちゃんはフォークとナイフを右手に揃えて置いた。いつの間にかステーキも綺麗に完食している。
「外装から取り入るという作戦です。何だかんだと言ったところで、やはり人間というものは外装によってその人の印象と言うものは大きく変わるものです。例えば装飾過剰な紫のフードに水晶玉を合わせたアヤシゲな占い師ファッション。例えばカラーコンタクトでも装備してアヤシゲなスーツケースを提げ何が楽しいのか常ににやにや笑っているミステリアスファッション。例えばどういう趣味なのかわからないけれど手や足に大量の輪を通したストレンジファッション――」
両腕の輪を鳴らしながら身振り手振りで説明するエーカちゃん。でもそこまで言ったところでふと動きを止めた。
「――とまあ、まだまだ思いつきますが、正直に言ってこういうのは工藤さんには……まあ、似合わないでしょうね」
「んん、そうかなあ」
案外行けそうな気もするけど。
エーカちゃんは首を振った。
「形から入る、というのは往々にして悪くない手段ですが、工藤さんの場合は相応しくないでしょう。そういうのは不要だと思います」
ふむ。
それはつまり。
ウチは素でそんな感じってことかな?
おやおや?
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