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第三十七話「背中を預ける理由」

 戦況は、悪化していた。


 帝国軍。


 飛行艇による制空。


 精度の高い砲撃。


 そして。


 ワイバーン部隊の統制。


 教国が帝国に大敗してから戦局は大きく変わった。


 大陸まで押し返していた教国と王国だったが、


 飛行艇とワイバーンを使った帝国に歯が立たたず


 王国の領土まで帝国に押し返されていた。


 教国は王国と共に戦ってくれているが、


 主力部隊は既に壊滅。


 最後の一人になろうが、神のために猛進する教国軍は


 今や王国では、最後の頼みの綱になっていた。


「押し込まれてる……!」


「教国側が持たない!」


 怒号が飛び交う。


 王国と教国。


 連合してもなお。


 帝国に押されている。


 一歩。


 また一歩と。


 後退していた。


(……まずい)


 俺は空を睨んだ。


 余裕がない。


 その時だった。


「伝令!」


「西方、民間区域に帝国軍侵入!」


「対象地域……フィオラ村付近!」


 一瞬。


 空気が止まる。


(フィオラ村……あそこは)


 前線ではない。


 だが。


(ウェナスの故郷だ…そして…今…)


 ウェナスがいる。


 今回、彼女は親の看病のために。


 故郷へ戻っていた。


「……は? フィオラ村だと…?」


 ユークスが固まる。


 次の瞬間。


「ふざけんな……!」


「なんであそこが戦場になるんだよ……!」


 怒りが爆発する。


「俺が行く」


 止める間もなく。


 飛び出した。


「待て!」


 クロノスの声は、届かない。


(……単独はまずい)


 分かっている。


 それでも。


 俺は周りにいるワイバーン部隊に声をあげた。


「俺に続け!」


「おうよ!」


 数人の竜騎兵が反応する。


 その中で一際気合いの入ったガイアスの声が聞えた。


 俺たちはユークスを、追った。


 フィオラ村。


 そこは、戦場だった。


 炎。


 崩れる家。


 悲鳴。


 逃げ惑う人々。


 その中で。


「ウェナス!!」


 ユークスが叫ぶ。


 瓦礫の中。


 崩れかけた建物。


 その下に。


 ウェナスの姿。


 動けない。


 足が挟まれている。


「……ユークス……!」


 安堵と、恐怖。


「待ってろ!」


 ユークスがワイバーンから飛び降り、


 崩れかけた家に飛び込む。


 そこは。


 結婚の挨拶の際に訪れた見慣れた場所。


 その瞬間。


 建物が軋む。


 崩れる。


(間に合え――!)


 ユークスは崩れ落ちた瓦礫を払いのけ、ウェナスを掴む。


 力いっぱいウェナスを引き寄せた。


 そして。


 直後。


 崩落。


 間一髪だった。


 二人は外へ転がり落ちる。


「大丈夫か!」


「……うん……」


 ウェナスが頷く。


 だが。


 その視線は。


 崩れた家へ。


「……あの中に…まだ…お父さんと、お母さんが……」


 言葉が、止まる。


 瓦礫の下。


 埋もれている。


 ユークスは、歯を食いしばった。


(……くそ)


 助けたい。


 だが。


 時間がない。


 空気が変わった。


 ユークスとウェナスの上に黒い影が降りる。


 帝国ワイバーン部隊のエルンスト。


 無表情。


 ただ、彼は見ていた。


「……戦場で情けは無用だ」


 低く言う。


 ユークスが立ち上がる。


 前に出る。


「行け」


 短く言う。


「でも――」


「いいから行け!」


 怒鳴る。


 ウェナスは、迷った。


 だが。


 走る。


 涙をこらえて。


 合図を出すとユークスのワイバーンが空から舞い降りた。


 すぐにユークスはワイバーンに騎乗し、


 ユークスがエルンストに突っ込む。


 そしてエルンストのワイバーンとぶつかる。


 だが。


 そこには大きな差があった。


 押される。


 完全に。


 エルンストの速さと重さにユークスはついていけなかった。


 そして、エルンストの槍がユークスのワイバーンに直撃。

 

 その衝撃でユークスはワイバーンから放り出される。


 落下したユークスは瓦礫の山へと落下した。


 すると、そこへ。


 クロノス一行が到着。


 そして、すぐにエルンストとクロノスは空中で接敵した。


 視線が交差する。


 その瞬間。


 “鍵”が反応する。


「――っ!」


 鍵の共鳴。


 空気が歪む。


 初めて対の鍵が揃った瞬間。


「……やはり、お前か」


 エルンストが呟く。


 その時。


 空が沈む。


 エルンストに続き、遥か上空から現れた圧倒的な存在。


 ゼフィラ帝国敵将、ヴァルター。


「……見つけた」


 目を見開いたヴァルターは。


 俺を完全に捉えていた。


(来る――)


 瞬間。


 距離が消える。


「下がれ!!」


 突如ガイアスの怒鳴り声が聞こえた。


 そして、重い衝撃が走る。


 死んだかと思った刹那。


 その位置にいたのは。


 ガイアス。


 ガイアスは防御魔法を短い時間で発動していたが。


 受けきれていないようだ。


 ヴァルターが右手に持つ剣の先端がガイアスの左肩に突き刺さっている。


「ぐっ……!」


「お前……何やってる」


「助けてんだろ」


 短く。


「全部守ろうとすんな」


「お前は神でも、俺は英雄でもねえ…」


 一拍。


「ただな…目の前はしっかり見ろ」


 俺は、理解する。


 ヴァルターとエルンストの隙が、今この瞬間だけ生まれていたのを。


(……今、ここだ!)


「――行くぞ、ヴェントラ!」


 風が吹く。


 ヴェントラの高速ターンで一気にエルンストの間合いに入る。

 

 そして、エルンストの後方に回り、


 俺は雷撃(サンダー)を放った。


 稲妻はエルンストのワイバーンの右翼に直撃。


 態勢が崩れる。


 そして、エルンストが、落下した。


 すると、落下したエルンストを目の端で確認したヴァルターは。


 ヴァルターの視線の対象が変わった。


 俺からエルンストへ。


 その瞬間を無駄にはしない。


 俺たちは即座に動いた。


 ユークスの救出へ。


「今だ!」


 俺は必死に叫んだ。


 離れた場所に控えていた別の隊の者がユークスを回収。


 そして全員で離脱。


 空を抜ける。


 背後では。


 瓦礫の下に残されたものがあった。


 守れなかった命。


 それが。


 胸に残る。


――竜騎兵団格納庫に帰還


 沈黙。


「……助かったよ」


 俺はついガイアスに呟いていた。


 ガイアスは、肩をすくめる。


「別に」


 一拍。


「お前が死ぬと面倒だからな」


 そして。


「……あと」


 少しだけ視線を逸らす。


「お前のこと、嫌いじゃねえし」


 それだけ。


 それだけで。


 十分だった。


 俺は、何も言わない。


 でも。


 分かる。


 この背中は。


 預けられる。


 そう思えた。


 そして。


 ユークスとウェナスも無事のようだ。


 ただ、故郷のことを思うと迂闊には話しかけらなかった。

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