第三十話「空を裂く雷」
夜明け前。
空は、まだ暗い。
雲の上。
竜騎兵団は、静かに並んでいた。
息を潜める。
音を殺す。
風に溶けるように。
(……ここまでは計画通り)
視線を落とす。
雲の下。
ラグナス。
帝国の占領都市。
灯りが、点々と見える。
巡回。
見張り。
対空監視。
(配置は……想定通り)
事前の偵察。
諜報部からの情報。
全部、頭に入っている。
敵の対空戦力は、都市北側に集中。
南側は薄い。
理由は単純。
海からの侵攻を警戒している。
(だから、空は甘い)
そこを突く。
「全隊、配置完了」
通信。
「第1、第2小隊、高度維持」
「第3小隊、側面展開」
声が落ち着いている。
全員、分かっている。
この一手で。
戦況が動く。
(……行くぞ)
竜騎兵団隊長が手を上げる。
そして。
手が振り下ろされた。
「突入」
一瞬。
静寂が破れる。
ヴェントラが、翼を叩く。
空が裂ける。
全隊、一斉降下。
風が唸る。
雲を突き抜ける。
視界が開ける。
都市。
そして。
敵。
「敵影確認!」
「対空部隊、反応!」
遅い。
気づくのが。
(間に合わない)
「散開!」
叫ぶ。
隊が割れる。
空中で。
完璧に。
訓練通りに。
いや。
それ以上に。
動く。
矢のように。
敵陣へ突き刺さる。
帝国のワイバーン部隊が上がる。
黒い鱗。
速い。
だが。
(遅い)
こっちは。
最初から加速している。
「第1小隊、左翼抑えろ!」
「了解!」
交差。
すれ違いざまに。
槍が走る。
炎が弾ける。
空中で爆ぜる。
敵が崩れる。
その瞬間。
雷撃を放つ。
「――ッ!」
光。
音。
一瞬で。
敵を撃ち抜く。
陸軍時代の感覚。
位置。
距離。
動き。
全部、読める。
(……まだいける)
ヴェントラが応える。
加速。
風を切り裂く。
敵を引きつける。
わざと。
深く入り込む。
「クロノス、深入りしすぎだ!」
「いい!」
叫ぶ。
「引きつけろ!」
これが役割だ。
囮。
だが。
ただの囮じゃない。
主導権を握る囮だ。
――ラグナス地上部隊 アストレア王国陸軍および教国聖戦部隊連合軍
「来たぞ!」
「空だ!」
兵が叫ぶ。
見上げる。
空が、暴れている。
「竜騎兵団……!」
想定通り。
敵の主力が、上に引き上げられている。
「今だ!」
「前進!」
号令。
アストレア王国陸軍が走る。
市街地へ突入。
帝国兵と衝突。
剣。
魔導砲台。
攻撃魔法。
全てがぶつかる。
「押せ!」
「今しかない!」
上を見れば。
空が荒れている。
あれが。
時間を作っている。
(……頼むぞ)
聖戦部隊も、アストレア王国陸軍に続いて進む。
迷いなく。
一直線に。
遺構へ向かう。
「道を開けろ」
聖騎士が言う。
その目は。
空を見ている。
そして。
クロノスを。
「……降臨者」
小さく呟く。
興奮している。
明らかに。
「あれが」
「神に選ばれし者の戦いか」
空で雷が走る。
風が渦巻く。
ワイバーンが、応える。
それは。
ただの戦闘じゃない。
“意味”を持っている。
「……素晴らしい」
聖騎士の口元が、わずかに歪む。
「この戦は」
「正しい」
確信。
信仰が、さらに強くなった。
――ラグナス上空
空を駆ける。
敵を引きつける。
まだ足りない。
もっとだ。
「ヴェントラ!」
応える。
さらに加速。
敵をまとめて引き込む。
その瞬間。
雷を放つ。
一直線に。
敵陣を貫く。
崩れる。
隊列が乱れる。
(……今だ)
これで。
地上は通る。
成功だ。
だが。
まだ終わっていない。
空には。
まだ敵がいる。
戦いは続く。
風が唸る。
空が震える。
その中で。
俺は飛ぶ。
自分で選んだ戦いを。
最後までやり切るために。




