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第二十七話「正しさの重さ」

 作戦室の空気は、重かった。


 長机。


 王国の軍幹部。


 そして、その向かいに。


 ノクティア教国の部隊。


 使者ではない。


 武装した、聖戦部隊。


 白と黒の装束。


 鎧の上からでも分かる。


 あいつらは、戦うために来ている。


(……もう外交じゃないな)


 その中心に、一人。


 聖騎士。


 他の者とは違う。


 立っているだけで、空気が変わる。


「対象は、沿岸都市ラグナス」


 王国側の参謀が言う。


 地図が広げられる。


 赤く印がついた場所。


(……ラグナス)


 王国の都市。


 今は、帝国に占拠されている。


「敵は帝国陸軍部隊および補給拠点を構築中」


「加えて――」


 一瞬、言葉が止まる。


「古代遺構が確認されています」


「神を呼ぶ装置は既に失われてはいますが、古代の文献があそこには保管されている」


 その言葉に。


 教国側の空気が、変わる。


「かつての降臨地点の一つですね」


 聖騎士が口を開く。


 静かだ。


 だが、熱がある。


「重要度は極めて高い」


(……やっぱり来るか)


 ただの都市じゃない。


 “場所”だ。


 かつて神を呼ぶために使われていた。


 今。その機能が無くても教国には重要なこと。


「よって」


 聖騎士が一歩前に出る。


「作戦案を提示します」


 嫌な予感がする。


「都市外周を封鎖」


「続いて、内部への同時侵攻」


「そして」


 一拍。


「市街地ごと焼却します」


 はっきりと言った。


 迷いなく。


(……来たな)


「市街地を、ですか」


 王国側の誰かが言う。


 当然の反応だ。


「はい」


 即答。


「遺構は石造構造」


「高熱にも耐える」


「焼却による損壊はありません」


 理屈を添える。


「よって」


「周囲を一掃することが最も合理的です」


 完全に。


 計算の上で言っている。


「……民は」


 低い声。


 誰かが、絞り出す。


 分かっている。


 でも、聞くしかない。


「避難誘導は困難」


「戦闘区域内の者は」


「巻き込まれる可能性が高い」


 淡々と。


 感情はない。


(……ふざけるな)


 拳に力が入る。


 ラグナスは。


 王国の都市だ。


 人がいる。


 暮らしている。


 それを。


「神の降臨において」


 聖騎士が続ける。


「場所の純度は重要です」


「不純物は排除すべきです 帝国などもってのほかだ」


 言い方が、引っかかる。


 不純物。


 人を。


 そう呼んだ。


「中途半端な奪還は」


「後の失敗に繋がる」


「結果として、より多くの命が失われる」


 正論。


 逃げ場のない正論。


(……嘘じゃない)


 それが、重い。


 間違っていない。


 でも。


 受け入れられない。


「なお」


 聖騎士が続ける。


「降臨者の所在は確認されていますか」


 空気が、変わる。


(……またそれか)


「教えていただく必要はありません」


 続ける。


「ただ」


「降臨者の存在は、我らの士気に影響します」


 静かな声。


 だが、真剣だ。


「神に選ばれし者が、この戦に関わっている」


「それだけで、兵は迷いなく戦える」


 戦力ではない。


 象徴。


(……利用する気か)


「降臨者を戦場に出せとは言いません」


「だが」


「その存在を示していただければ」


「士気は大きく上がる」


 合理的。


 そして。


 危険だ。


「降臨者を、戦場の道具にするつもりはない」


 女王が言った。


 はっきりと。


 強い声で。


 一瞬。


 空気が揺れる。


 だが。


「だが――」


 ほんのわずか、間。


「最終的にどう動くかは、本人の意思に委ねる」


 その一言で。


 空気が、さらに重くなる。


(……俺に任せる、か)


 逃げ場がない。


 でも。


 縛られてもいない。


 選べる。


 だからこそ。


 重い。


 聖騎士が、わずかに目を細める。


「……理解しました」


 だが。


「降臨者に我々は逆らいません。 ご参加を強く望みますが」


「ご参加してくださない場合、我らの士気は下がる 戦果も約束できません」


「その場合」


「貴国が責任を負うことになります」


 突きつける。


 選択と、責任を。


(……これが)


 戦争か。


 拳を握る。


(俺は)


 何を選ぶ。


 守るのか。


 勝つのか。


 それとも。


 別の道を探すのか。


 その時。


 外から、鳴き声。


 ヴェントラだ。


 低い。


 警戒する声。


 窓の外を見る。


 ヴェントラが。


 教国の部隊を見ている。


 明らかに、様子がおかしい。


 翼をわずかに広げている。


 威嚇。


(……なんだ)


 理由は分からない。


 でも。


 はっきりしている。


 あいつは。


 こいつらを、嫌っている。


 作戦は、まだ決まっていない。


 だが。


 方向は見えた。


 犠牲を取るか。


 勝利を取るか。


 その二択。


(本当に、それだけか)


 違うはずだ。


 そう思いたい。


 そうじゃなければ。


 この戦争は。


 何のためにあるのか。


 分からなくなる。


 静かな部屋で。


 誰も、答えを出せなかった。

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