第二十一話「確かめるもの」
任務の通達は、静かだった。
「情報の裏を取る」
教官の声。
「対象は、先日の補給部隊の件」
「同様の動きが、別の地点でも確認されている」
「クロノス」
「お前が行け」
「……俺が?」
「違和感に気づいたのは、お前だけだ」
短い理由。
「現地で確認しろ」
「情報が正しいのか」
「それとも――」
「歪められているのか」
それ以上は言わない。
(……カイン)
頭に浮かぶ。
格納庫で出発の準備をする。
今回は単独任務だ。
いつも以上にしっかりしなければ。
準備をしていると。
「クロノス」
ユークスが来た。
「少し時間いいか」
「……ああ」
並んで歩く。
「昨日は悪かったな」
「何がだ?」
「急だったろ」
「別に」
少し笑う。
「らしいと思っただけだ」
「そうか」
短く頷く。
少し、間があく。
「……ウェナス、元気そうだったな」
「元気すぎるくらいだ」
珍しく、柔らかい声。
「昨日もな」
「戦争の話より、家の話ばっかりしてた」
「どこに住むとか」
「何を置くとか」
「……いいな、それ」
思わず言う。
「だろ」
少しだけ笑う。
「こんな状況でも」
「ちゃんと先のこと考えてる」
「強いよ、あいつは」
(……違うな)
強いんじゃない。
“選んでる”んだ。
「お前は?」
ユークスが聞く。
「何を選ぶ」
答えは、出ない。
「……まだ分からない」
「それでいい」
即答だった。
「分からないくても、自分なりに進め」
「止まるな なんてな 俺もだけど」
それだけ言って、去る。
背中は、変わらない。
でも。
少しだけ、遠く感じた。
格納庫を飛び立つ。
単独で飛んでいる。
ヴェントラの背。
今頼れるのはこいつだけ。
風が強い。
指定された地点に向かう。
(……見る)
今回の任務は、それだけだ。
敵を倒すことじゃない。
“確かめる”こと。
地上が見える。
補給路。
荷の流れ。
(……一致してる)
補給路の動き。
配置。
兵の数。
すべて、正確だった。
(カインの情報は、正しい)
だが。
(前回は、ズレていた)
偶然じゃない。
何かが引っかかる。
(……なんでだ)
帰還後。
呼び出されたのは、会議室だった。
重い空気。
上層部が揃っている。
「報告しろ」
「今回の補給部隊、情報通りでした」
「ズレは?」
「ありません」
ざわつく。
「……前回とは違うな」
誰かが呟く。
その言葉に、反応が広がる。
「情報の精度が安定していない」
「偶然とは思えん」
「誰かが調整している可能性は?」
沈黙。
「断定はできん」
「だが――」
「可能性としては十分ある」
そこで。
一人の幹部が口を開く。
「リュミエル連邦だ」
空気が変わる。
「……やはりか」
「奴らは中立を掲げているが」
「実態は違う」
「情報も武器も」
「両陣営に流している」
静かな説明。
だが、重い。
「戦争が続くほど」
「奴らは儲かる」
(……そういうことか)
腑に落ちる。
「今回の情報が正確だったのも」
「“使わせるため”だろう」
「戦局を均衡に保つためにな」
誰も否定しない。
「このままでは」
「戦争は長期化する」
「主導権を握られるぞ」
「……なら」
低い声。
「ノクティア教国に打診するか」
一瞬で空気が変わる。
「本気か?」
「あそこは過激すぎる」
「神のためなら、自爆すら厭わない」
「だが」
「均衡を壊すには、あれしかない」
静かな結論。
(均衡を壊す……)
その言葉が残る。
(連邦は均衡を作る)
(教国はそれを壊す)
世界が、見えてきた。
「クロノス」
呼ばれる。
「お前はどう見る」
いきなり振られる。
「……断定はできません」
「ですが」
「情報は“選ばれている”ように感じます」
言葉にする。
「必要な情報だけが、届いている」
静まる。
「……なるほど」
「引き続き、お前を使う」
「見極めろ」
「何が真実かを」
短い命令。
だが。
(……それが、俺の役割か)
外に出て自然と俺は厩舎へ向かった。
風が吹く。
(ユークスは未来を選んだ)
(連邦は利益を選ぶ)
(教国は信仰を選ぶ)
じゃあ。
(俺は)
何を選ぶ。
まだ分からない。
でも。
一つだけ分かる。
(見極める)
何が本当で。
何が作られたものか。
ヴェントラが鳴く。
その声は、迷いがなかった。




