昨日までの敵が今日の友になる時のストレスは半端ない
多分サブタイ通り
自分達を護る為とは言え、幼馴染が手を下した事によって、多数の人が死ぬ所を何度も目の当たりにした。
そればかりか、沢山の死体を死臭も込みで目の当たりにし続けて来たからだろう。
塚原と香澄は何処か窶れ、憔悴したかの様であった。
そんな2人に何と声を掛けるべきか?正樹が悩んでいると、塚原の方から口を開いて来た。
「なぁ……一体全体何がどうなってんだ?勇者召喚されたと思ったら、今度は魔女っぽい不気味なのにテレポートさせられて、気付いたら何にも無い殺風景なテントに入れられてる。なぁ、マジでどうなってんだよ?」
ちょっと泣きそうな様子の塚原に正樹はどう答えるべきか?迷ってしまう。
否、自分もどう言う状況なのか?解らない。
そう言った方が正しかった。
そんな正樹に今度は香澄が尋ねて来る。
「ねぇ……殺さないと駄目だったの?」
コレに関してだけは、正樹は断言出来た。
「あぁ、殺さなかったら俺達は死んでたか、死んでるのと変わらない状況に陥ってた」
「どう言う事?」
香澄が返って来た答えを否定せずにキチンと確認する様に問えば、正樹は自分の見てきた者を語る様に答える為。敢えて問い返した。
「碌でもない戦場での少年兵の育成ってどうやるか知ってるか?」
「え?」
「一言で言うならアメとムチ。更に酷い……いや、基本的に酷いのが当たり前でセットだったな。兎に角だ、人間扱いせずに動物みたいに扱う」
正樹の言葉に悍ましいモノを感じ、信じられないモノを目の当たりにしたかの如く見詰められると、正樹は制服の内ポケットに入れてた煙草の箱を手に取りながら続ける。
「最初に上下関係を徹底的に叩き込む。で、その際に徹底的に虐めるなり、罪悪感を植え付けるなりして反抗する気持ちを失わせると共に心をへし折る。時には麻薬を使ったりもしてな……」
正樹が人間の邪悪な面の片鱗を語れば、香澄は押し黙ってしまう。
そんな正樹に塚原が問う。
「お前もソレをしたのか?」
「いや、そう言うのが嫌いだから俺は少年兵を使いはしても、育成はしてねぇ……敵に少年兵が居た時は躊躇い無く撃ったけどな」
正直な答えが返って来ると、塚原は正樹に悍ましいモノを見る目を向けてしまう。
だが、正樹はソレが当然の反応だ。と、言う具合に気にする事無く話題を然りげ無く変えるようにして言葉を続けていく。
「さて、つーやんがさっき聞いた状況に関してだが……俺にもサッパリ解らん」
「なら、道を知らないのに俺達を外に脱出させる事が出来たのはどうしてだ?」
嘘は許さない。そんな想いの籠もった視線と共に問われると、正樹はどう答えるべきか?迷いながらも答えていく。
「それに関しては、この世界に俺が居た世界の軍隊が居て、俺の事を知ってる奴も居た。で、ソイツが俺に道案内してくれたって所だな」
「まーくんを知ってる人?もしかして、さっきの顔を隠した魔女みたいな人?」
香澄が正樹の言う知り合いと思わしき人物を挙げると、正樹は少し困った様子となりながら言う。
「ソイツが俺達に助け舟を出した理由は解らんし、状況も予想は立てられても合ってるのか?確かめる術も無い」
疑問を挙げれば、切りが無い。
だが……
何故、この世界に自分の居た世界の正規軍が居るのか?
何故、ペストマスクを被った知り合いが自分達に助け舟を出したのか?
この2つの前者に関しては、自分で言うのもバカらしい予想が立っていた正樹は自身にバカげた気持ちになりながらも2人に語る。
「正規軍が居る理由に関しては恐らく……いや、バカげた予想だな。ゲートってラノベみたいな状況になって、対応する為に致し方無しに派兵してるなんてのは」
正樹が自身でもバカげた気持ちになりながら語れば、塚原は呆れてしまう。
「聞いた俺が言うのもアレだけど、流石にソレは無いだろ?」
「言った俺自身、バカげた事を言ってると思うさ。だが……」
其処で言葉を留めると、正樹は天幕の扉を開け、2人に外を見せ付ける様にしながら再び言葉を続けていく。
「この外の様子を見れば、ゲート?って言うバカげた予想もハズレに思えないだろ?」
正樹が見せた外の様子は2人を嫌でも納得させるには充分過ぎた。
多数の大きな天幕が並ぶ中を銃器で武装した兵達が行き交い、重苦しいマフラー音と共に車輌が行き交ってるのも聞こえてくる。
極めつけは、自分達の居る天幕の前に武装した憲兵が見張りに立っている事。
そうして視覚と聴覚を介して語り掛けられれば、2人は正樹の予想をバカに出来なくなってしまう。
そんな正樹に見張りの兵が訝しむと、正樹は見張りの憲兵に対し、憲兵の母国語で要望を挙げた。
「トイレに行きたい」
その要望に憲兵が答える事は無かった。
そんな憲兵の態度から自分が要注意人物として対応されている事を察すると、正樹は憲兵にもう1つの要望を投げた。
「なら、俺達を此処に連れてきた張本人に伝えてくれないか?俺に話があるんだろ?事と次第によっては、欲しい物をくれてやるってな……」
そうして伝言を頼むと、その憲兵は持っていた無線機を使って何処かへ報告をした。
そんな憲兵を他所に天幕内に戻ろうとすると、もう1人の憲兵が携えていた散弾銃を向けて来た。
正樹が降参と伝える様に両手を挙げると、正樹の要望を聞いていた憲兵が手錠を差し出すと共に告げる。
「お前を連れてこいとの事だ。トイレには寄ってやるから安心しろ」
「そりゃ、お優しい事で」
抵抗する事無く手錠で両の手を戒められると、正樹は2人を安心させる様に告げる。
「ちょっくら、話し合いをして来る。安心しろ、俺が死ぬ事はあるだろうが、お前等は殺される心配は無いから」
正樹の言葉に塚原は益々呆れてしまう。
「安心出来る要素無いぞ」
「大丈夫なの?」
香澄が不安そうに言うと、正樹は「大丈夫だ。直ぐに戻れるさ」そう返し、憲兵に連行されて行くのであった。
泥濘の中を歩き、途中にあった仮設トイレで見張られながら小便を済ませた正樹は指揮所であろう天幕に連れて行かれると、パイプ椅子に座らされた。
パイプ椅子に座らせた正樹を憲兵達が目の前にある机に手錠を繋がれて逃げられない様にすれば、話は始まる。
「マーク・クリヴィーレ中尉。こうして、君と向かい合うのは初めてだな」
そう言って来たのは大佐の階級章を付けた初老の男であった。
そんな彼を見ると、正樹は懐かしさを覚えながら口を開いた。
「セオドアス・アインソード大佐。未だ退役してなかったんだな」
「おや、私の事を知ってるのかね?」
「そりゃあ、俺は仮にもアンタの国の敵をしてたんだ。敵の将校ぐらい調べるのは当たり前だろ?特に情報部の将校なら尚更だ」
正樹がそう返せば、目の前の大佐……セオドアスは正樹が自分の部下を何人も殺して来た憎き怨敵である。そう納得すると、沸き立つ怒りを抑えながら相槌を打った。
「それは当然だな」
「それで?アンタは俺を自分の手で殺したいから呼んだのか?」
少しばかり挑発的に問うと、セオドアスは少し残念そうにしながら告げる。
「私としてはそうしたい所ではある。君に多数の部下を殺されてるからな……だが、残念ながらオブザーバーからの要望で君を殺すのは駄目なんだ」
オブザーバー。
その言葉が出ると、正樹はセオドアスの後ろに控える自分と二人の幼馴染を此処に転移させた魔女の方を見る。
オブザーバーである魔女は視線に気付くと、セオドアスへ釘を差す様に語り掛ける。
「大佐。彼が貴方達が望む情報を提供したら、彼を私に下さる約束をお忘れなきようお願い致します」
「解ってる。さて、早速だが君に教えて貰いたい事がある……コールティクは何処だ?」
コールティク。
その名前を聞くと、正樹は益々懐かしさを覚えながら言う。
「随分懐かしい名前を聞いたな」
「コールティクは前政権が崩壊する前に君と共に活動してた相棒なのは知ってる。コールティクの居場所を教えろとは言わん……奴の特徴、奴が懇意にしてる業者等を教えて貰えるなら、その手錠を外そう」
セオドアスの言う通り、コールティクなる人物は当時の相棒で戦友でもあった。
そんな人物を売れ。
そう要求されると、正樹はアッサリと言い放つ。
「そう言う事なら、アンタは腰から銃を抜いて俺を撃ち抜け。ソレで話は終わりだ」
当時の相棒であり、戦友を売る気は無い。
そう言い放てば、セオドアスは予想通り。そんな様子で言葉を続ける。
「コールティクは我が国に何らかのテロ。または戦争を起こそうとしている可能性が高い。君の祖国との長い冷戦が邪悪な独裁者の死によって終わったにも関わらずだ」
「アンタの国と俺の元祖国の面倒に関わる気は無い。好きにしろ」
「なら、せめて業者を教えろ」
「奴が懇意にする業者は無い。奴は基本的に死の商人を嫌ってるし、大半の死の商人は奴を嫌ってる」
正直に業者に関して答えると、セオドアスは正樹が嘘偽り無く答えていると察し、自分の予想を打ち明ける。
「そう言う事ならば、やはり客を選ばん商品の見本みたいな奴を利用する可能性が高い訳か……そうなると、コークスクリューか?」
とある死の商人の通称が挙がると、正樹は肯定する。
「奴はカネさえ払えば、どんな相手とだって取引する。恐らくはコークスクリューを利用してるか、し終えてるだろうな」
「なら、支払いに使う銀行は?」
「奴は銀行を使わない。使うのはハラワダーだ……俺が言えるのは其処までだ」
ハラワダー。地球にも古くからある信用取引。
それの専門業者を指す言葉を出せば、セオドアスは尋ねる。
「ならば、君が最も信頼してるハラワダーは?」
「ミルク売りだ。ミルク売りは世界中の何処へでも半日も掛からずに秘密厳守で確実に送金する。捜すんなら、ミルク売りを見張れ……で、奴のカネの流れを追えば、どっちかは見付けられる筈だ」
正樹が告げれば、セオドアスはそれだけ解れば充分。そう判断したのだろう。
憲兵に手錠を外すように命じた。
程なくして手錠が外されると、オブザーバー……もとい、魔女が正樹の向かいに座わり始めた。
正樹の向かいに座ると、魔女は日本語で言う。
「久しぶりね。こうして向かい合うのは貴方が笑顔でバンザイニュークして以来かしら?」
その言葉から正樹は魔女が何者か?理解すると、真意を問うた。
「お前の事を最も殺 したがってる男に何を望む?ソレ以前に何で助けた?」
目の前に座る魔女は正樹にとっての怨敵。殺したい奴リストのトップに座する永遠の魔女本人であった。
そんな魔女は問われた事に対し、当然の様に答える。
「助けた理由はその方が面白そうだから。望む事に関しては今は何も無いわ」
「一時休戦って事か?」
「私にも浮世の義理ってのがあるのよ」
「なら、迎えが来たら俺は直ぐに帰らせて貰う」
「なら、その前に貴方と共に召喚された者達の始末を要求するわ。貴方達を助けた者として当然の要求でしょ?」
状況が許されるならば、今直ぐにでも首をへし折って殺りたかった。
だが、2人の幼馴染と言う枷があるが故に正樹は殺意を抑え込んで要求する。
「お前の事だ。勇者達に発信器を付けてるんだろう?」
「えぇ、今は未だ王城に居る。どんな形であれ、この世界から居なくなってくれるならソレで構わない」
永遠の名を欲しいままにする魔女が告げれば、正樹は不愉快な気持ちになりながらも依頼に応じた。
「良いだろう。俺が始末して殺る。だから、武器を寄越せ」
「貴方ならそう言うと思った」
その言葉で益々不愉快になりながらも、2人の幼馴染を家に帰す為に致し方無い。
正樹が心の中で自分に言い聞かせると、魔女は尋ねる。
「私は貴方にとって最も殺したく、決して許せない存在。それなのに一時的とは言え、私の手を取るのは何故かしら?」
魔女から問われると、正樹は渋い面持ちで返した。
「察してるんだろ?それなのに態々答えろってのか?」
「えぇ、貴方の口から直接聞きたい」
魔女が要求すると、正樹は心底不愉快な気持ちになりながらも答えていく。
「俺は死人だ。だが、あの2人は生者で、真っ当に生きてる。勿論、一線も越えていない」
「だから、助けて元の世界へ帰すと?そんなの傲慢な自己満足じゃないかしら?」
自身の答えに魔女が批判的な言葉をぶつけると、正樹はさも当然の如く返す。
「自己満足で悪いか?お前等、魔女だって自己満足の為に手を差し伸べたり、生命を奪ったりしてんだ。それと何処が違う?」
正樹が開き直ったかの様に返すと、魔女は嗤い出した。
狂った様に歓喜に満ちた嗤い続ける魔女を尻目に席を立つと、正樹は憲兵と共に天幕から退室するのであった。




