第一回ザナドゥ・マリンスポーツ大会⑤
さて、マリンスポーツ大会は順調に進んでいる。
大会期間中、出歩くこともあれば別荘でのんびり過ごすこともある。大福やきなこを撫でたり、バニラを解放して好きに飛ばせたり、プライベートビーチでのんびり過ごしたり……まあ、のんびり過ごした。
俺の参加する『自由競争』は最終日だ。
ボートはもう準備してあるし、サスケが「ボート、こっちで知り合ったシノビに警護任せたぜ」なんて言うから大丈夫そうだ。
最終競技は三日後……毎日出歩くのも疲れるので、今日も家でのんびりしている。
「ふぁぁぁ……」
『なぁご』『うにゃ』
大福、きなこが珍しく俺の寝転がっているソファに寄って来た。
二匹並んで香箱座りしているので、遠慮なく撫でる……かわいい。
『うなああ』
「ん? なんだ、毎日ゴロゴロしてデブるぞ、ってか? まあわかる……よし、じゃあ身体動かすか」
『ごろろろ』
「え? ああ、たこ焼き器作れって? そうだな……タコの存在を知ったし、やってみるか」
もちろん、俺はネコの言葉を知らない。
適当に思いついたことを言ってるだけだ。
というわけ、地下にある作業場へ。
素材置き場を漁る。
「……お、アイアンリザードの外殻残ってた。こいつを加工して、たこ焼き器の鉄板にするか」
アイアンリザードの外殻。
大きさは、幅三十センチ、長さは五十センチくらいかな。
この外殻の特徴は、銅に近い材質だ。銅と違うのは錆びないところ……あくまでアイアンリザードの外殻で、鉄じゃないからな。
それを磨いて、たこ焼きの穴を作るわけだが。
「綺麗な穴、どうすっかな……魔法でいけるか? あ、そうだ!!」
俺は素材置き場から、ピンポン玉ほどの大きさの『鉄』を取り出す。
「むっふっふ。ギガントタウルスの胃石……ちょうどあってよかった」
胃石。肉食魔獣は石を食べ、肉を食べた時に胃の中で石が肉を砕いて消化を助ける。
このギガントタウルスは、胃の中の石を鉄でコーティングする。そして、綺麗な真ん丸にして口から吐き出すのだ。なぜ真ん丸になるのかは不明。
まあ、鉄でコーティングしただけの石なので価値はない。以前アオが拾ったのをもらったのだ。
「こいつの大きさはちょうどいいな……よし」
俺は、魔導アーマーの腕部分だけを装着し、魔法でアイアンリザードの外殻を熱して柔らかくする。そこに、ギガントタウルスの胃石を押し込んで綺麗な半円の跡を付けた。
そのまま三十個ほど跡を付け、水で冷やす。
冷えると、そのままの形でしっかり半円が刻まれた。
「完成!! よし、昼飯はたこ焼きにしてみるか……材料買いにいくぞ」
せっかくなので、バーベキューコンロを出し、外で焼くことにした。
一人タコパ……せっかくだ、酒とかも用意しよう!!
◇◇◇◇◇◇
さて、タコ……異世界での名前なんだっけ……まあタコでいいや。タコを買い、タコ焼きの材料も買った。
アレンジにと魚介もいっぱい買った。たまたまミニクラーケンが売っていたのでそれも買い、挽肉や野菜もいっぱい買った。
紅ショウガはない……あれってショウガと梅酢だっけ。無理かなあ。
まあいい。さっそく、調理をしようとした時だった。
「こんちわー!! おっちゃん、いるー?」
リーンドゥの声。
玄関に行くと、バレンにウング、リーンドゥがいた。
「おお、お前たちか。どうしたんだ?」
「別に、遊びに来ただけだよ。おっちゃん、町に出ないの? すっごく賑わってるのにー」
「おっさんにはキツイぜ。ながーい祭りが開催されても、毎日出歩いたりはしないのさ」
「ふーん。ねえ、ご飯行かない?」
リーンドゥのお誘い……嬉しいが、今は無理だ。
「悪い。今ちょっと昼飯の準備……あ、そうだ。よかったら実験に付き合ってくれないか?」
「……実験?」
ウングが言う。
とりあえず三人をリビングへ。果実水を出す。
「新しい料理を試す予定でな。今まさに作ろうとしていたところで、お前たちが来た」
「なるほど。ボクたち、運が良かったみたいですね」
「おっちゃんの料理、全部美味しいもんね~」
「……で、何作るんだ?」
「ふふふ、タコ焼きだ」
「「「…………???」」」
三人は首を傾げた……まあ、言葉じゃわからないよな。
◇◇◇◇◇◇
さて、三人は手伝ってくれることになった。
バレン、リーンドゥはバーベキューコンロで火の準備。
俺とウングは食材の仕込みだ。
「ぶつ切りでいいのか?」
「ああ。生地は俺がやるよ」
「……任せろ」
ウング、とんでもない速度で包丁を使う。
すげえ、手が高速でブレて見える。しかも包丁二刀流だと!? こいつできる……なんて、バトル漫画じゃあるまいし。
俺は小麦粉に卵を入れてかき混ぜて生地を作る。ちょっとだけ隠し味に、冷蔵庫で冷やしておいた魚貝の出し汁を加えて混ぜる。
外では準備ができたみたいだ。
「オヤジ、できたぜ」
「はやっ……おう、じゃあ外に行くか」
パラソルの下で、俺はテーブルに材料を並べる。
鉄板を見ると、いい感じに温まっていた。
「よし、じゃあ作るぞ。まず、鉄板に油を塗る」
町で買った塗装用のハケを切り、タコ焼き鉄板で使えるサイズに加工した。
油を塗り、生地を鉄板に流し込む……コツは、生地はひとつひとつの穴に入れるのではなく、プレート全体が埋まるぐらいにたっぷりと流し込む。
そこに、ぶつ切りのタコ、刻みネギ、天かすを入れる。
「……よし、ここからが見どころだ。いくぞ!!」
俺は、魔獣の骨を加工して作った串を手にし、タコ焼きの生地をひっくり返す。
コツは、一気にひっくり返すんじゃなく、半分ほどひっくり返すこと。そしてひっくり返し、綺麗な球体を作る。
「おおお~!! なんかすごいね!!」
「本当に、見たことのない調理法ですね……」
「……なんか、いい匂いするな」
ふふふ、生地に出汁を入れたのは正解だったぜ。
まずは、オーソドックスなタコ焼きだ。
焼き上がり、全て皿に移す……悔やまれるのは、この世界にマヨネーズがないことだ。ソース……うーん、さすがに無理だ。
仕方ないので、塩に出し汁などを用意した。
「さあ、食ってくれ!!」
「やたっ!! ん、あっふ、あふい!! あっつつつ!!」
「ほ、ん、っふぁ……あっついですね」
「……美味いな!!」
三人は口をホッホさせながらタコ焼きを食べる。
俺も一つ……ん、うまい!! 俺の知るタコ焼き……だが。
「……マヨネーズ、ソース、紅ショウガが欲しい」
も、物足りねえ。
塩……まあ美味いな。出し汁もいける。もしかしたら味噌とかも合うかも。
「おっちゃん、おかわりー!!」
「ん? って、もう食ったのか!?」
「あはは、すみません」
「……このタコだったか。うまいな」
「よーし、追加いくぞ。タコだけじゃなくて、エビとか肉とかいろいろ入れてみるか」
「あー!!」
と、後ろで聞き覚えるのある声。
振り返ると、ロッソたち四人、スノウさんにユキちゃんがいた。
「おっさん、なんか作ってるし!! いいないいいなー」
「ふふ、参加しますわ」
「……知らない料理!! たべる」
「あんたたち、食い意地……まあ、私も気になるけど」
「お手伝いしますね」
「にゃああ」
ロッソたちが参戦。こりゃ忙しくなるぞ。
「よし、みんな食ってけ!! 今日はみんなでタコパするぞ!!」
こうして、マリンスポーツ大会そっちのけで、タコ焼きパーティー……タコパを開催した。
三日後に自由競争があることも忘れ、俺は必死にタコ焼きを作るのだった。