第一回ザナドゥ・マリンスポーツ大会④
さて、大会二日目。
サスケは朝から「わり、こっちで知り合ったアズマ関連の店に行くわ」と出て行った……個人的に気になるな。大会終わったらザナドゥにあるアズマの店に俺も行くか。
というわけで、今日は一人……かと思ったが。
「おっさーん!! 遊びに来たっ!!」
「ふふ。今日からずーっと休暇ですわ」
「……おじさん。大会、行こう」
「ゲントク。行くわよ!! お~っほっほっほ!!」
騒がしい四人組……ロッソたち『鮮血の赤椿』だ。
それぞれ私服、武器とかも持っていない。
早朝、朝飯を食ってのんびり一服しているとロッソたちが上がってきた。
「おお、お前らか」
「あれー? おっさん、朝ごはん食べたの? せっかく大会会場で食べ歩きしたかったのに」
「いやあ、昨日やったんだわ。連チャンはこの年になるときつくてな……身体重いわ」
「ふふ。お腹のもたれなら、わたくしが治しますわ」
と、ブランシュが俺に回復魔法をかける……おお、他人にやってもらう回復ってなんかぽわぽわして気持ちいい……というか、お腹の重さが消え去ったぞ。
お腹だけじゃない。全体的なダルさが消えた……え、なんだこれ。
「はい、終わりですわ。怪我、病気は全て消えたと思いますわ」
「……え、マジで?」
「……ブランシュの『完全完治』は怪我と病気を完全に治療する」
アオが言う……って、マジなのか。
ヴェルデが補足する。
「ブランシュ、『完全完治』は魔力ごっそり使うから、一回使うと一か月は使えないんじゃなかったっけ……よかったの?」
「ええ。ふふ、お祭りでテンション上がってるのかもしれませんわね。それに、もう魔法はしばらく使いませんし、構いませんわ」
「……おじさん。ブランシュが『完全完治』使う相手は、気に入った人だけ」
「……お、おお」
隠れた病気も消え去ったようだ……いきなり奇跡レベルの魔法で身体を綺麗に治してくれるとは思わなかったぜ。
とりあえず立ち上がる。
「ここまでされちゃ、今日はお前らに付き合うしかないな。じゃあ、みんなで大会の観戦でもするか」
「うんうん!! そうしよそうしよ!! よーし、『鮮血の赤椿』、食べ歩きするぞー!!」
「「「おおー!!」」」
みんなテンション上がってるようだ。
体調不良も消えたし、さっそくお出かけするとしますかね。
◇◇◇◇◇◇
さて、まず向かったのは、カフェや土産物店があるザナドゥのメインストリート。
昨日は海沿いの大会会場で食べ歩きしたけど、こっちはこっちで賑わっている。
さて、ここで一つ、みんなの私服を見てみるか。
「ねえねえ、食べ歩きもいいけどさ、ショッピングも楽しもうよ!!」
ロッソは、赤いタンクトップ、ツインテールを解いてロングヘアを流していた。
なんか、ストリート系といえばいいのかな。短パンにサンダルだし、武器を持ってないスタイルだとただのオシャレな町村にしか見えない。
「いいですわね。ザナドゥのアクセサリー、気になりますわ」
ブランシュは想像通り、白いワンピースにロングスカート、白いサンダル、麦わら帽子だ。肩掛けの小さなカバンも白いし、誰がどう見ても貴族令嬢にしか見えない。
「……マグカップ欲しい」
アオは、半袖シャツに短パンだ。シャツが短く、へそ出しルックが似合ってる。
野球帽子みたいなのもすごく似合ってるな……可愛さより、カッコよさがある。
「そういやアオ、マグカップ集めてたわね」
ヴェルデは、ブランシュに似た感じのワンピースだが、シンプルさ重視だ。
緑色で、やや胸元が開いたワンピース。高貴さより庶民っぽさを出しているな。
うーん……この四人、めちゃくちゃ目立つな。
「ちなみに俺、半袖にハーフパンツ、サンダル、サングラスに麦わら帽子というスタイルだ」
「おっさん、何言ってんの?」
「ああすまん。クソどうでもいい情報がつい口から出ちまったぜ」
「……あ。あそこ」
と、アオが指差したところで煙が上がっていた。
近付くと……なんとまあ、驚いた。
「へいらっしゃい!! おお、こりゃ美人ぞろいだね。兄さん、羨ましいね!!」
「ははは、両手に花どころじゃなくてな。花束抱えて歩いてるようなもんだよ」
「はっはっは!! 違いねえ!!」
「ね、おじさん。これってなに?」
ロッソが、網の上で焼いているモノに興味を持った。
俺も驚きだ。だってこれ。
「こいつは『オクトポーデ』っていう魔獣さ。八本足で、クラーケンの亜種って言われてる。煮たり焼いたり、刺身で食うと絶品!! ウチでは足を串に刺して、網焼きして出してるぜ。どうだい?」
「おいしそう!! アタシ食べる!!」
「……私も」
「わたくしも。でも、少し大きいですわ……ヴェルデ、半分こしません?」
「そうね。ゲントクは?」
「……食う。なあ店主さん、このオクトポーデ、どこで買える?」
「え? ああ、今年は豊漁でな、どこでも買えるぜ」
オクトポーデ、これタコだわ。
去年は見なかった。アズマの方でも見なかったな。
「これ、ザナドゥでしか食えないのか?」
「んなこたないぜ。でもまあ、アズマの方じゃほとんど獲れないな。代わりに、アズマじゃカニが豊富に獲れる。こっちじゃカニは少ないからな」
「……なるほど、なるほど」
タコ……これは、『アレ』しかないな。
まあもったいぶらなくてもいいや。そう、『タコ焼き』だ。
「……おじさん、何か思いついた顔してる」
「え? ああ、わかるか?」
「うん。おじさんだもん」
よくわからん理屈だが、俺は帰ったら『たこ焼き器』を作ろうと決めた。
◇◇◇◇◇◇
その後、みんなで食べ歩きしたり、いろいろなショップで買い物をした。
競技場じゃない町中の店。今日はどこも賑わっていて楽しい。
「おじさん、マグカップ」
「ん? おお、いいデザインだな」
アオは、雑貨屋で見つけた木製のマグカップを俺に見せる。
木彫りで、青い塗料で着色してある。伝統工芸品っぽいな。
俺は、海賊とかが酒場で使ってそうな、樽型のジョッキを見つけて思わず購入……これでエールを飲めば、海賊気分を味わえそう……まあそんなことないな。
「ロッソ、この髪留め、アンタに似合うんじゃない?」
「お、いいじゃん。じゃあ……ヴェルデはこれ」
「へえ、鳥の羽を模した髪飾り。いいセンスじゃない」
ヴェルデとロッソは、互いに似合う髪留めを探していた。
最初に会った頃とはマジ別人だな。こんなにも仲良くなるなんて。
そしてブランシュは、いろいろな帽子を手に、鏡の前で被っていた。近づくと俺に言う。
「おじさま、どれが似合うと思いますか?」
「そうだな……これかな」
俺は、白系の麦わら帽子を手に取った。
ブランシュが被ると、うん……白系はやっぱ似合うな。アオもウンウン頷く。
「ふふ、似合いますか?」
「ああ、貴族令嬢みたいだ」
「……おじさん。私にも選んで」
「ああ、いいぞ」
今思うけど……なんか、デートしてるみたいだ。
女の子四人、男……というかおっさん一人。危ない危ない、俺がロッソたちと同世代だったら、勘違いしてはしゃぐところだ。
まあ、子供たち四人と引率のおっさん、って感じかな。
買い物を終え、ひといき入れるためカフェに入る。
エアコンが効いた涼しい店内で、俺たちは飲み物を飲んだ。
「は~、休暇最高。おっさん、今日はいろいろありがとね」
「気にすんな。俺も楽しかったしな」
「ふふ、おじさまはやっぱり素敵ですわね」
「……同意」
「そうね。私たちが一番付き合いやすい男の人って感じ」
なんかベタ褒めだな……ちょい照れる。
まあ、ハーレムじゃないし、勘違いなんてしない。
「なあ、お前たちって冒険者だよな。まだ十代で若いけど、将来のこと考えてるか?」
「そうねー、アタシはあんま考えてない。身体動くまで冒険者やる予定だし、やめるころには故郷の村も自立できてると思う……バレンが、いろいろ親に言ってるみたいだしね」
そういや、バレンの実家が管理している領地に、ロッソの実家あるんだよな。
バレンは最初感心なかったみたいだけど、いろいろ言ってるみたいだ。
だからかな……ロッソの、バレンに対する憎しみっぽいのが薄まってるような。
「……私も同じ。冒険中に死ぬかもしれないし。もう戦う必要がなくなったら……やめる」
「わたくしもですわね。将来は治療院を開くことも考えていますわ」
「私は……家には戻れないし、冒険者の経験を活かして、冒険者ギルドで指導員とかいいかもね」
みんな、それぞれ考えてるんだなあ。
するとロッソ、俺の腕を掴んでニヤニヤする。
「おっさんのお嫁さんってのもあるかな~?」
「アホ。俺は生涯独身、結婚しないって決めてるんだよ」
「はいはい。ま、おっさんはそう言うと思った」
ロッソはすぐに離れた。そして、飲み物を飲み干して立ち上がる。
「よーし、今度は観光しに行こっか。おっさん、いろいろ知ってるんなら案内してよ!!」
「ああ、いいぞ。ところで競技は見なくていいのか?」
「……明日もある。今日はおじさんと観光」
「ふふ、そうですわね」
「じゃ、行きましょっか!!」
この日、俺たちはザナドゥの観光をするのだった。
スノウさんたちと観光しておいてよかったぜ。ちゃんと案内できたぞ!!