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独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~  作者: さとう
第十五章 海の国ザナドゥ~二度目のバカンス~
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第一回ザナドゥ・マリンスポーツ大会②

 さて、船が完成した。

 魔石のチェック、別荘前のプライベートビーチでの始動確認、そして諸々の最終確認を終え、俺とイェランはハイタッチ。


「完成だね!! はぁ~……間に合ってよかったあ」

「楽勝だろ。サスケ、操縦はどうだ?」

「ああ、大丈夫だぜ。オッサンとオレのコンビなら優勝できるさ」

「よし……」


 船を浜に上げ、シートで覆って紐を巻く。

 あとは、このまま最終競技場のスタート地点に運んで、大会を待つだけだ。

 するとイェラン、ボートに巻いたシートを見て首を傾げた。


「なんで隠すの?」

「まあ、あんまり深い意味はないけど……こういうのって、当日お披露目が基本だろ?」

「「……???」」


 イェラン、サスケは同じ方向、同じ角度で首を傾げた……ああ、わかんないよね。うん、俺が勝手にそう思ってるだけだし!! うん、ごめんね!!

 というわけで、あとは運ぶだけ。


「とりあえず、パラセーリングボートで牽引して、自由競争のスタート地点まで行くか」

「うん。あたしも行くよ」

「オレも行くぜ」


 というわけで、三人でパラセーリングボートに乗り、大会用ボートを運ぶのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ボートをスタート地点まで運び、大会運営のスタッフに確認してもらう。そして、魔法的な処理をした参加番号のワッペンみたいなのをもらった。


「この『参加証』をボートで保管してください。当日、レース中に現在位置を確認することができます」

「……えーと」


 ピンとこないな。

 そう思っていると、スタッフさんが近くにあった大きなガラス板を指差した。


「あそこに、現在位置が表示されるんです。当日、どのボートが一着なのか、観客たちにもわかるようになっています」


 ガラス板を見る……デカいな。ガラスというかプラスチックみたいな材質だ。

 透明で、線がいくつも引いてある。

 スタッフさんが、ワッペンに魔力を注ぐと、ボードにマグネットみたいな赤い光が灯った。


「移動すると、この赤点が一緒に移動するんです。登録されている番号も表示されますよ。このボードが会場内にたくさんあるので、観客たちは当日、チームの順番を知ることができるんです」

「面白いな……アナログで、魔法を使ったディスプレイってところか」

「ちなみに、これは『魚座の魔女』ポワソン・ピスケス様の作り出した魔道具です」


 ポワソンか……なるほど、あの幼女エルフ、やるではないか。

 説明を受け、スタッフさんは「競技用ボートは、護衛がしっかり守るのでご安心ください」と言うのでそのまま置いてきた。サスケが「一応、こっちの知り合いのシノビにも注意させる」と言う……ってか、ザナドゥにも忍者いるのか。


「あとは、大会を待つのみ……か」

「だね。ゲントク、自信は?」

「ある。まあでも、何が起きるかわからないから不安……ってのもあるなあ」

「ははっ、まあオレは全力を尽くすぜ」

「よし。じゃあ、メシでも食いに行くか」


 こうして、全ての準備が整った。

 以前はクラーケン退治ってイベントあったけど、今回はマリンスポーツ大会……やれやれ、なんだかんだでイベントに愛されてるなあ、俺ってやつは。


 ◇◇◇◇◇◇


 数日後……いよいよ、第一回・ザナドゥマリンスポーツ大会の開催日となった。

 早朝、俺は欠伸をしてリビングへ。すでにサスケが起きて朝食を作っていた。

 

「おはよう、オッサン。朝飯軽いのにしておいたぜ。どうせ出店とかで食うしな」


 出てきたのは塩がゆ……しかも、昆布入り。

 量も茶碗一杯分くらい。スルスルっとお腹に入った。

 まだまだ食い足りないが、これからマリンスポーツ大会に行く。出店も多く出てるだろうし、そこで買って食うことは決めていた。

 お腹の準備運動だな……胃酸も出るし、いきなり脂っこい物を食って苦しむこともない。


「さて、一服したら行こうぜ。ロッソやバレンたちは?」

「あいつらは自分の別荘から行くみたいだな。サンドローネたちは特設会場の貴賓室みたいなところで観戦するってよ。ティガーさん、ドギーさん一家は……わからん」


 ロッソたち、昨日までダンジョン調査していたようだ。けっこう疲れてたみたいだし、もしかしたら今日は来ないかもしれないな。

 そういや、保養施設とかどうなったのかね。

 どこかで会うことがあったら聞いてみようかな。

 煙草を吸い、新聞を読んでいると、微妙に物足りなさがあった。


「まだ食い足りないな……」

『なあう』『ごろろ』

「出店で食えばいいさ。オレもけっこう物足りない」

「だな……よし、じゃあ行くか」


 サスケは、大福ときなこを交互に撫でていた。

 止まり木を見ると、バニラがスヤスヤと寝ている。新聞配達を終えると、こいつは二度寝に入るんだよな……用事があって声かけると起きるんだが。

 俺は、エサ皿に猫とバニラ用のエサを入れ、水をたっぷり用意しておく。


「じゃあ大福、きなこ、バニラ。留守番頼むぞ」

『なああ』『うにゃ』『ほるるる』

「じゃあ行こうぜ。へへ、なんだかワクワクするな」


 サスケも年相応って感じだな……さて、朝飯の続きといきますかね。


 ◇◇◇◇◇◇


 徒歩十五分のビーチには、大勢の観光客で溢れ……いや、ごった返していた。

 すごい。数が半端じゃない。


「すっげ……お、見ろよオッサン、あそこ」

「おお、あそこが貴賓室かな」


 ビーチから少し離れた、高床式住居みたいな建物があった。

 一面ガラス張り。あそこで試合を見れたら最高だな。

 するとサスケ、どこから手に入れたのかパンフレットを手にしている。


「えーと、ここは『第三ビーチ』だな。合計で二十のビーチに区画分けされて、それぞれの会場で試合するらしいぜ」

「に、二十……多いな」

「移動には、連結馬車が使われるらしい。全部アレキサンドライト商会製で、大会期間中はタダでフル稼働するらしいぜ。お、あそこ見ろよ」


 サスケに言われた方を見ると、開放的な四両ほどの連結馬車が、馬四頭に引かれ走っていた。

 ビーチ周りには多くの露店があり、さらに海を見るとボートがすごい速度で走っている。


「もう競技は始まってるみたいだな」

「ああ。朝一で国王陛下の挨拶とかあったみたいだぜ」


 ハボリムの挨拶か……聞いてないわ。

 俺、運動会の校長の話とか聞かないタイプだったし……悪いね。

 とりあえず、朝飯の続きといきますか……そう思っていると、サスケが。


「……お? ちょいオッサン、こっち来てくれ」

「ん?」


 サスケが何かを見つけ歩き出す。

 ビーチ手前の小さな花壇の前に、見覚えのある子供がしゃがんでグスグス泣いていた。


「り、リーサちゃんじゃないか」

「きゅうう……おじちゃああああん」


 リーサちゃん、俺を見つけると足にしがみついてきた。

 麦わら帽子から出ているキツネ耳がしおれ、尻尾も地面を擦っている。転んだのか、膝から血が出ていたし、ワンピースも少し汚れている。

 俺はリーサちゃんを撫でる。サスケはカバンから傷薬を出していた。


「リーサちゃん、一人でどうしたんだ?」

「きゅううううん……わからないの。きづいたら一人だったの。パパもママも、クロハもいないの」

「あらら……」


 確定。こりゃ迷子だわ。

 こんだけ広いし、こんな小さな子供がはぐれたら探すの大変だろう。

 リーサちゃんを近くのベンチに座らせ、サスケが傷の手当てをする。

 俺は、近くにあった出店で飲み物……お? なんだこれ。


「すんません、このぬいぐるみ……って、冷たっ!!」


 白い動物のぬいぐるみを売っている店があった。ぬいぐるみに触れるとすごく冷たい。

 店主のおじさんは言う。


「これはアイスウルフの毛で作ったぬいぐるみさ。ひんやりして気持ちいだろ?」

「いいなこれ……確かに、暑いザナドゥだと、モコモコのぬいぐるみはキツイ。でもこれなら……よし、おじさん、これください」

「まいどっ」


 飲み物、そしてキツネのぬいぐるみを買ってリーサちゃんの元へ。

 

「はい、リーサちゃん。冷たくて気持ちいいぞ」

「きゅう、きつね!! わあ、つめたい」

「飲み物も。こぼさないようにな」

「きゅうん。おじちゃん、おにいちゃん、ありがとー」


 リーサちゃんはぬいぐるみを抱きしめ、果肉を凍らせて氷代わりにした果実水を飲む……うまそう。俺もあとで飲むか。

 とりあえず、リーサちゃんをこのままにするわけにはいかないな。


「親御さん、オレが探してくるぜ」

「大丈夫か? ビーチはかなり広いけど」

「へへ、忘れたか? オレはシノビ、探し物は大得意……」


 サスケ、数歩下がる。

 人が交差してサスケが一瞬見えなくなった瞬間、もうそこにはいなかった。

 すげえ……忍者みたいだ。ってか忍者か。


「きゅうう」

「……よし。リーサちゃん、少しおじさんと散歩するか」

「きゅう、いく」


 抱っこではなく肩車をする。

 リーサちゃん、元気になったのか尻尾が揺れる……ちょっと首に当たってくすぐったい。

 あまり離れないよう、さっきのぬいぐるみを買った店の近くに行く。


「そういえばリーサちゃん。新しいおうちは買ったのかい?」

「うん。パパとママ、シアのパパとママで、おっきいおうちを買ったの。あっちの方にあるの」


 リーサちゃんが指差した方は、俺の別荘の反対側だ。

 なるほど……ちゃんと買えたんだな。

 と、思っていた時だった。


「おーい、オッサン」

「ん? お、サスケ……それと」

「ぱぱ、まま!!」


 ティガーさん、そしてルナールさんが駆け寄って来た。

 後ろにはリュコスさんにクロハちゃん。おお、ドギーさん一家にユキちゃん、スノウさんもいる。

 ティガーさん、両手を広げダッシュ……い、嫌な予感。


「オオオオオオオオオ!! リーサァァァァァッ!!」

「ぐぉえぇぇっ!?」

「パパぁぁぁ!!」


 なんとティガーさん、俺ごとリーサちゃんを抱きしめた。

 屈強な虎獣人の胸に、俺の顔がめり込む……なんつうパワー、頭が潰れるううううううう!!


「こら、ティガー!! ゲントクさんを潰すつもり!?」

「はっ……し、しまった!! ゲントクさん、大丈夫ですか!?」

「え、ええ……ゲホゲホ」

「ママああああ」


 ルナールさんはリーサちゃんを抱きしめた。うんうん、よかったよかった。

 そして、ケモミミチルドレンたちもリーサちゃんの元へ。


「にゃああ、リーサ」

「がうう、ぬいぐるみ……なにそれ?」

「わうう、つめたいね」

「おじさんにもらったの。ひんやりするの」


 さっそくぬいぐるみ自慢……とりあえず、追加で三つ買うべきかな。

 するとティガーさん、リュコスさんが俺とサスケに頭を下げた。


「ゲントクさん、サスケさん、リーサのこと、感謝します!!」

「本当に、ありがとうございます」

「いえいえ。無事でよかった」

「ああ、オレらは見つけただけだぜ」


 ふと思う。

 迷子……もしかしたら、他にもいるかもしれん。

 サンドローネに『迷子センター』の設置とか、拡声器での案内とか提案してみるか。

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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
関係者を誘拐するとか船を壊す妨害とかあるかと思ったんですが、無かった様で何より。
どんな乗り物か楽しみですねぇ~
どんな船なのか楽しみだ ジェットボートで超加速?水上飛行機で飛んでく?潜水艦で全部避けてく? 個人的にはシーブリーチャーみたいにイルカみたくバシャバシャジャンプしながら駆け抜けて欲しい!
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