第一回ザナドゥ・マリンスポーツ大会①
さて、俺は一時間で図面を仕上げ、それをイェランに見せた。
ちなみに、俺とイェランだけで船を作る。当日までどんな船なのかサンドローネたちにも内緒……だって、そっちの方が面白いしな。
イェランは、俺の見た図面を見てポカンとしている。
そして、俺を見て口をにんまり歪めて笑った。
「盲点だった……そっか、そういう方法もあるんだ」
「勝てばいいんだろ? だったら、これが一番だ」
イェランは手を差しだしたので、俺はその手をパンと叩く。
「いいね、これなら勝てるよ。素材はどうする?」
「頑強さはもちろんだけど、軽さも欲しいな……チタンゴーレムで骨組みして、プラティックワイバーンで外装を作るか」
「搭乗人数は二名でいい?」
「ああ。最低限でいい……ところで、なんで最大人数が十名までなんだ? レースなら軽い方が有利だろ」
「あのねー、魔導武器をわんさと積んだ船とか出てくるんだよ? 一位を取るために、他の船を全部沈めればいいなんて考えするでしょ。魔力持ちが多く乗れば、それだけ武器いっぱい搭載できるし」
「なるほどなあ……こっちも武器付けるか」
「いらないいらない。この船なら問題ないよ」
というわけで方針は決まった。
船の大まかな大きさなどの設計をイェランに任せ、俺は冒険者ギルドへ。
ちなみに、設計と造船は俺の家でやる。となると当然、サスケもいる。
「オッサン、バカンスなのに船作りとはな」
「ははは。まあ、遊び目的でザナドゥに来たけど……毎日食って飲んで遊んでばかりだから、多少は引き締めが必要かなと思ってもいた」
冒険者ギルドに必要な素材を発注……嬉しいことに、欲しい素材が全て入荷していた。
話を聞くと。
「いやあ、『鮮血の赤椿』と『殲滅の薔薇』が、塩漬けの依頼を全部こなしてくれたおかげなんだ。毎年、高レートの魔獣討伐をしてくれるから非常に助かってるよ」
「やっぱロッソたちのおかげか……」
受付のおっさんは嬉しそうに笑っていた。
素材はすぐに運べるとのことで、別荘の場所を教えて運んでもらう。
そしてもう一つ……考えることがあった。
「乗組員、どうすっかな」
「乗組員?」
「ああ。大会に出る操縦士だよ。俺は……まあ、出るしかないなあ」
今回の船、初めての物になるから、もしかしたら多少の危険もあるかもしれないんだよな……まあ、死ぬとまでは思わないけど、実験的な物だし、最初は俺が乗るのが筋だろう。
「イェランは、サンドローネに付く予定だし、リヒターも同じだ。サスケは純粋にバカンスだろ? 危険もあるし、手伝わせるのは……」
「水臭いな。オッサンとオレの仲だろ? それに、オッサンのボート、オレが一番上手く操縦できるの忘れたのか?」
そう、パラセーリングボート……サスケが一番うまく操縦できる。
本人もやる気になっているのか、俺に向かって親指を立てる。
「わかった。じゃあサスケ、操縦関係はお前に任せる」
「おう。って、オッサンは?」
「俺は魔石関連の発動担当だ。ザナドゥ初のマリンスポーツ大会、最後の競技を優勝で飾ろうぜ」
「ああ、楽しみだぜ」
サスケと拳をコツンと合わせる。
よーし、やる気出て来たぞ。船作り頑張るか!!
◇◇◇◇◇◇
素材が届き、イェランとサスケの三人で船作りを始めた。
「サスケ、そこのハンマー取って」
「おう、これだな」
イェランは外装の加工。
俺はチタンゴーレムの骨を加工し、骨組みを作っている。
この船……動画とかで構造を見たことがあるから作れる。でも、今更だが異世界で『こんな船』を作るなんて、想いもしなかった。
正直……不安もあるけど、面白い。
そんなことを考えながら骨組みを完成させ、俺は魔石の加工に取り掛かる。
「魔石、等級も関係ないんだな」
「うん。ルール無用だからね」
イェランが外装を取りつけながら言う。
イェランが仕事するのを久しぶりに見るけど、こいつやっぱ腕いいな。
「なんか、一緒に仕事するの久しぶりだね」
「ああ。アレキサンドライト商会に入ったばかりの頃が懐かしい」
「……ね、ゲントク」
「ん?」
魔石に慎重に文字を彫っていると、イェランが言う。
「アンタさ……たまにでいいから、アタシたちのいる工房に遊び来たら?」
「……ん?」
「一年いた古巣だし、そういうの自然だと思うけど」
「……あー、確かにな」
そういや、独立してから一度も、アレキサンドライト商会に行ってないな。
余計な仕事頼まれるかも、なんて考えたこともあったけど。
それに、辞めた職員が堂々と辞めた職場に行ったり、部外者お断りのバックヤードとか事務所に踏み込むようなのは嫌いなんだよな。非常識というか、なんというか。
でも、異世界じゃそういうのないみたいだ。
「たまには遊び来なよ。お土産持ってさ」
「……だな。今度行くよ」
「うん」
イェラン、なんだか嬉しそうに見えた……気のせい、かな?
◇◇◇◇◇◇
夕方になり、船の七割が完成……というか、俺ら早すぎる。
半日でここまで完成してしまった。自分の腕が怖いぜ!!
「おっさーん、ご飯……おお、なにこれ」
「……なにこれ?」
「まあ……」
「あんた、仕事しないんじゃなかったの?」
「こんばんは、ゲントクさん」
「にゃうう」
ロッソたちが来た。そしてそのすぐあとにバレンたちも来た。
「戻りました。ゲントクさん」
「おっちゃん!! ウチら、新しい別荘買ったよ!! おっちゃんも遊びに来てね!!」
「……明日には出て行く。世話になったな」
「おお、そうかそうか。っああ……イェラン、今日はしまいにして、メシ行くか」
「うん。これなら、明日にでも完成だね。仕事早いわ……」
「俺とお前なら当然だろ」
「ま、そうだね」
拳をコツンと合わせる。
さて、みんな揃ったしメシでも行きますかね。
◇◇◇◇◇◇
向かったのは、初めて入る大衆食堂だ。
大きな円卓に全員で座り、たくさんの料理や酒を注文して乾杯……今更だがすげえ面子だ。最強の冒険者が七人もいるし、今この瞬間テロリストが暴動起こしても軽く鎮圧できそうだ。
話題は、マリンスポーツ大会のことになる。
「え、おっさん、最終競技の自由競争出るの!?」
「ああ。サンドローネに依頼されてな……俺とイェランがボート作って、俺とサスケで乗る」
「……いいなあ。サスケ、変わって」
「わり、今回はダメだ。オレも楽しみにしてるからな」
「おじさま、危険はありませんの?」
「まあ、多少は」
「ふふ。どんな怪我をしても、わたくしが治しますのでご安心くださいませ」
「ありがとな、ブランシュ」
「それにしても……ザナドゥ、面白いことばかりね」
ヴェルデがそう言うと、ユキちゃんが俺の足を登って太ももに座った。
そのままユキちゃんを撫でながら言う。
「だなあ。今回は、事前準備全部してきたし、いきなり遊び全開だったからなあ」
「うんうん。バレンたちのおかげで、依頼も早く片付いたしね。バレン、ウング、リーンドゥには感謝しかないわ。ありがとうね」
ヴェルデがお礼を言う。ロッソたち三人は言いにくそうだしな……こういう気遣いできるのがヴェルデのいいところなんだよな。
バレンは微笑んで言う。
「気にしないで。拠点も手に入れたし、来年も協力するよ」
「……チッ、ザナドゥの冒険者共、もう少しやる気になればいいんだがな」
「仕方ないよー、ここ、遊ぶところだしね。冒険者もいっぱい遊びたいんじゃない?」
リーンドゥがケラケラ笑うと、アオが言う。
「でも……ダンジョン見つかった。少し確認しただけで、かなり広いダンジョンってことがわかった」
「だな。最初の調査はオレらでやるが、解放されれば冒険者連中も少しはやる気出すだろ。このダンジョン、砂漠と同じだ……恐らく、相当なレベルのダンジョンだぜ」
「……うん。解放されれば冒険者は集まる。人も増えるし、依頼も増える、冒険者たち、勝手に強くなると思う」
現在、冒険者ギルドで『海底ダンジョン行き』の船を出すことを検討するとかなんとか。仕事が早いなあ……別にいいけど。
ロッソはエールを飲んで言う。
「マリンスポーツ大会まで日がないし、明日明後日くらいで調査終わらせないとね」
「なら、パラセーリングボート使うか? 俺らは大会用の船作りあるし、海に出る暇がないからな」
「え、いいの?」
「それなら、オレが運転するぜ。船作りでオレは手伝えないからな」
「……サスケ、ありがとう」
「よーし!! じゃあ、二日間でダンジョン調査終えて、そのあとはマリンスポーツ大会!! 『鮮血の赤椿』、ダンジョン調査やるぞー!!」
「「「おおー!!」」」
「一つのダンジョン調査なら、七人でやればすぐ終わるね。ウング、リーンドゥ、ボクたちも頑張ろう」
「……ああ」
「おー!! なんかワクワクしてきたっ!!」
うんうん、若者たちのやる気が溢れるのはいいことだ。
俺はユキちゃんを撫でながら頷くのだった。
「にゃああ」
「うんうん。ユキちゃん、マリンスポーツ大会楽しみだな」
「にゃうう、たのしみ」
さて、マリンスポーツ大会までもう少し……ボート作り、頑張ろうかね。