独身おじさん、仕方なく本気出す
コミカライズ版、本日配信開始です!!
あとがきに情報ありますので、よろしくお願いします!!
さて、クソめんどくさいことになりそうだったが……まあ、仕方ない。
リヒターを見ると、申し訳なさそうに言う。
「アレキサンドライト商会は、マリンスポーツ大会最後の種目である『自由競争』へ参加します」
「自由競争?」
「ええ。その名の通り、自由な競争です。各商会が持てる技術の粋を注ぎ込んで開発した、魔導ボートによる競争です。搭載する魔石は自由、ボートの形状も自由、武器を仕込むのも、レースでの妨害もありの、なんでもありのレースですね」
「そ、そんなレースあるのかよ……」
「ええ。一応、参加前に『死んでも文句言わない』という同意書が必要になりますが……」
サンドローネを見るとそっぽ向いた……コイツ、書きやがったな。
イェランも言う。
「まあそういうことで、競技に参加することになったんだ。で……今あるアレキサンドライト商会の魔導ボートは、販売メインのヤツしかなくてね。自由競技に出すような頑丈なやつはないんだよ。アタシの方で改良してもいいけど……時間がね」
「なるほどな」
サンドローネを見ると、またそっぽ向いた……こいつめ。
「おいサンドローネ。こっち見ろ」
「……申し訳ないとは思ってるわ」
「まあ、短気で売られた喧嘩は買ってボコボコにする主義のお前らしいよ。で……俺に、レースで勝てる魔導ボートを作ってほしいのか?」
「ええ……アナタなら、アイデアくらいあるでしょ?」
「……うーん」
要は、戦うためのボートってやつか。
戦艦とか思い出すな。大砲とか搭載して……ってか、戦艦とか詳しくねえぞ。
サンドローネは、俺をジッと見る。
「……アイデア、あるの?」
「とりあえず、その自由競争のレースとか、どんなボートで出場するのか、ルールとか確認したいな」
「それなら、コースを視察しに行きましょうか? 今なら、どのビーチでも視察することはできますよ」
リヒターに言われ、俺たちは近くのビーチへ視察へ向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
さて、ここから一番近いビーチは、俺の別荘から徒歩十五分ほどだ。
ビーチに到着……そういやここ、一年前にクラーケン退治の時に来たビーチだ。あの時は閑散としていたけど、今はもう人でいっぱい。
周りを見ると、白い建物がいくつかあり、食堂やカフェ、宿屋などがある。ビーチでは多くの人がシートを敷いて寝そべったり、海で泳いだりして夏を満喫していた。
別荘のプライベートビーチで楽しむのもいいけど、こういう人が多いところも悪くない。
例えば……。
「……ゲントク、水着の女の胸とかケツ見てんのバレバレだからね」
「男ってのは本当に……」
「う、うるさいな。男なんだし仕方ないだろ、なあリヒター」
「わ、私に言わないでください」
イェランとサンドローネには一瞬でバレた。
ってか、ハーフの獣人女性って魅力的なスタイル多すぎる。モデル体型……ううう、なんかこっちのビーチで一日過ごすとかもいいな。
「とにかく、こっちこっち」
イェランに案内され、一般開放されているビーチとは別の、マリンスポーツ大会専用ビーチへ。
砂浜に仕切りを設け、そこから先が大会専用ビーチらしい。
水中スクーターでのレースや、ボートレースなどを行うための施設があったり、巨大な観客席があった……すごいな、観客席、何百……いや、千人規模で座れそうだ。野球の客席を思いだす。
イェランが大会用のボートがある仮設の港を指差す。
「あそこが大会用ボートがあるところだよ。見学しよっか」
港に行くと……いやはや、驚いた。
「すっげえな……」
キワモノというか、ゴテゴテしたボートがいっぱいあった。
流線形で、先端にデカい突撃槍がくっついたボートとか、魔法の杖みたいなのが付いたボートとか、重装甲でスパイクだらけのボートが並んでいる。
これ、戦うためのボートとしか思えないだろ。相手に突撃して壊す前提だ。
「戦闘用ボートか……船外機、魔導ボートを発表して一年くらいなのに、ここまで進化してるとは」
きっかけがあれば化ける……みたいな言葉はよく聞く。
船は移動手段。それしかないこの世界で、速度を出したり、自由に動き回ることができるボートは画期的な発明だったのだろう。
俺のアイデアをもとに、この世界の人たちはここまで進化させた……なんだろう、世に送り出した息子が立派になり、その教えを受け継いだ子供が「こんにちは!」って挨拶に来たような……ごめん、自分で思ってて意味不明だわ。
感心していると、リヒターが言う。
「自由競争のルールは簡単です。ザナドゥのビーチを最南端から、最北端を目指す直線レースです。ビーチを横切るようなレースなので、どの海沿いにあるビーチからも観戦できます」
「んで、妨害あり、攻撃あり、とにかく一位になったチームが勝利だね」
聞いた話だと、ザナドゥのビーチは全長約百五十キロくらいあるらしい……どうなってんだマジで。
つまり、スタートし、百五十キロ先のゴール目指してひたすら直進。途中、妨害もアリ。
「……シンプルだけど面白そうだな」
「でしょ。発案者は国王陛下だって」
「……ハボリムか。あいつ、遊び人だって言ってたっけ」
「あれ、知ってんの?」
「飲み屋で会った。あいつ、ラスラヌフのこと恐れてたぞ」
とにかく、シンプルなレースだな。
俺はニヤリと笑う……いいアイデアが降りて来たのだ。
そしてリヒターに確認。
「ルールはそれだけか? 禁則事項は?」
「ありません。何をしても構いません、そういうルールです」
一応、ルールブックをもらって確認……禁則事項の欄を見たが『なし』になっていた。
使う魔石も、船も、走り方も自由。ゴールすればいいだけの話。
「アイデアが出た。くくく、面白い船が作れそうだ」
「ふふふ、さすがゲントクね」
「その前に……サンドローネ」
「な、何よ」
俺はサンドローネに顔を寄せると、サンドローネは一歩引いた。
こいつ、やっぱ美人だな。
「貸し、一つだな」
「……何をすればいいの?」
「そうだなあ。一日、俺とリヒターとイェラン、あとロッソたち、バレンたち、ティガーさん、ドギーさん一家に奉仕してもらおうかな。部下の手を借りず、お前自身が手ぇ動かして汗流すんだ。バーベキューの支度したり、飲み物運んだり、雑用メインでやってもらおうかな」
「…………」
「お、お嬢」
「お、お姉様」
サンドローネは俺をジッと見てムスッとし……頷いた。
「いいわ。やってあげる。その代わり……」
「これはこれは、アレキサンドライト商会の会長さんじゃあないですか」
と、いきなり数人の年寄りたちが割り込んできた。
日焼けした健康的な老人だ。男三人、女二人と、みんな日焼けしている。
サンドローネは嫌そうな顔をする。
「……皆さん、お集りのようで。大会の準備ですか?」
「まあ、そうですな。ボートの調整を終えましてね、一週間後の自由競争が楽しみですよ」
「自身がおありのようで」
サンドローネは胸元から扇子を取り出すと開き、口元を隠す。
老人の一人……名前は後で知ったが、海の国ザナドゥでも古参の商会の商会長が言う。
「小娘が。よそからやってきて、我々の邪魔ばかりしおって……ラスラヌフ様の後ろ盾があろうと、このザナドゥで勝手な真似はさせんからな」
「ふふ。そのよそ者が作ったボートや魔道具を使って利益を出していることをお忘れですか? 私としては、全ての権利をアレキサンドライト商会だけで有し、あなた方の商会が日干しになるのを見て楽しむということもできるのですがねえ」
サンドローネはクスクス笑う……こっわ。
商会長……名前はボンバさんって後で知った……ボンバさんはサンドローネを睨みつける。
「言ってろ小娘が。忘れるなよ、自由競争で負けた場合、ザナドゥで保有しているアレキサンドライト商会の権利全て、我々『ザナドゥ商会組合』が譲り受けるからな」
「構いません。ふふ、私が苦労して生み出した商品や権利を奪い、我がものとする……ザナドゥの商会というのは、実に嫌らしいですわね。老いぼれ、自らの力で何も生み出せない化石のような商会」
「何ぃ……?」
「あなた方は、このザナドゥで古い商会を経営しているそうですね。ザナドゥの発展にあなた方の力が必要不可欠だったのは間違いない。でも……時代は変わります。それに適応せず、新たなものを生み出さず、過去の栄光を振りかざし、よそ者を排除する……いやだいやだ、本当に嫌ですわ」
「な、な……」
おいおいおいおい、なんで煽る!?
サンドローネ、この野郎……キレてんじゃね!?
「そういえば、私が負けた場合は『アレキサンドライト商会が保有するザナドゥでの権利』を差しだすと決めましたが、あなた方が負けた場合の条件は聞いていませんね」
「決まっている。お前がこの地で商売をする権利だ」
「それは、あなた方が決めることじゃありませんわね。私は国王陛下やラスラヌフ様の許可を得て商売しています。そうですね……これからのザナドゥ発展に、あなた方は不要です。私が勝利した場合、即刻商会の解体を……」
「なっ……」
ま、マジかよ。
リヒターを見ると首を振る……「止められません」と言っているように見えた。
イェランを見ると、なぜか嬉しそうにサンドローネを見てる。まるで「お姉様かっこいい」みたいな顔で。
だが、サンドローネは止まらない。
「ああ、もちろん私もそこまで非道ではありません」
サンドローネは、ボンバさん、そしてボンバさんの後ろにいる男女たちを指さす。
「あなた方五名のうち、一つだけ……一つの商会だけを解体してください。ふふ、どの商会を解体するかは、あなた方がしっかり話し合いをして決めてくださいね」
「「「「「…………」」」」」
え、えっぐ……なんだその笑顔。
仲間ウチで「どの商会を潰すか」なんて話し合いさせるつもりかよ。
「話は以上です。ああ、この賭けについては国王陛下、ラスラヌフ様にご報告しますので……では」
「き、貴様、そんなこと」
「リスクを負わず賭けをする……ワタシにもリスクはあるので、よろしくお願いしますね」
サンドローネは、華のような笑みを浮かべ歩き出す。
俺たちもその後を追うと、サンドローネは言う。
「ゲントク。一週間で船を完成させて。資材や魔石、作業員は手配するから」
「お、おう……とりあえず、イェランだけでいいよ。素材はこれから決める」
「わかったわ。イェラン、ゲントクの補佐をよろしくね」
「はい、お姉様!!」
こうして、俺の船作りが始まるのだった……これ、絶対に負けられない戦いだわ。
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