ちょっと嫌な予感はしていました
さて、半日ほどロッソたちとパラセーリングを楽しみ、お昼はマイルズさんたちの用意したバーベキューだ。ユキちゃんやスノウさんも合流し、みんなで楽しく遊んだ。
そして午後は、サスケに指導員を任せ、ロッソたちがスキューバダイビングを楽しんだ。
俺は、スノウさんとユキちゃんを乗せてボートで沖に出る。
「にゃあああ!! すごーい!!」
「綺麗……こんな速度で、ザナドゥの海を見れるなんて」
失敗だったのがリヒターを連れてくればよかったことだ……まあ機会はあるだろう。
別荘近くの沖では、普通の船外機付きボートが停泊している。そこにはブランシュがいたので近づく。
「おーい、スキューバダイビングはどうだ?」
「最高ですわ。アオは自分の魔法で潜っていますけど、まさかあんなに深く、海の底を満喫できるなんて。サスケさんのご指導もわかりやすいですし、早く交代したいですわ」
現在、ロッソが連チャンでスキューバダイビング中。アオは魔法によるアシストで普通の水着で海に潜り、ヴェルデとブランシュが交代でダイビングスーツを使っているようだ。
すると、サスケたちが浮上してきた。
「っぷはあ!! 海底って楽しい~!! あれ、おっさんじゃん」
水中ゴーグルを上げ、ロッソが顔を見せる。
そして、サスケにヴェルデと浮上。ボートに上がる。
「楽しんでるようだな」
「おう。へへ、クセになりそうだぜ」
「本当にそうね。ザナドゥの海……こんなに綺麗だなんて」
「……私、水中で呼吸できるけど、遊ぶために潜るなんてしたことなかった。ザナドゥの海、初めて潜ったけど……もっと早く潜ればよかった」
みんな満足しているようだ。
すると、ロッソが俺のボートに乗るスノウさんに言う。
「ね、スノウさんもどう? ユキは……厳しいかな?」
「……大丈夫。私が魔法でサポートする」
「アオの魔法なら安心ですわね」
「そうね。じゃあスノウさん、私と交代で」
「えっと……ゲントクさん、いいんでしょうか?」
「ははは。楽しんできてください。ユキちゃんもいいかい?」
「にゃああ。うみ、みたい」
サスケたちはボートに上がり、サスケは「疲れた。オッサン、任せていいか?」と俺と交代する。
サスケの来ていたダイバースーツを着て、ユキちゃんは水着に、スノウさんも来ていた服を脱いで、その下に着ていた水着の上からスーツを着たんだが、ちょっと誤算。
「あ、あら? す、すみません……胸が少し」
「…………」
「「「「「…………」」」」」
「にゃあ」
まあ、胸がデカすぎでスーツが入らないってことはよくあるな。
俺とサスケは目を逸らし、アオは自分とスノウさんの胸を見比べ、ロッソたちは苦笑した。
まあ、スーツの前を開けて胸を解放することで落ち着いた……が、半脱ぎのダイバースーツ、猫獣人、巨乳、スタイル抜群、人妻属性と性癖が破壊されるようなスタイルへとスノウさんは変貌した……リヒター、いなくてよかったかも。鼻血噴き出して気絶していたかもしれん。
気を取り直し、アオはユキちゃんを撫でる。
「ユキ、魔法で包むね」
「つつむ?」
「うん。こうやって」
アオは親指と人差し指でリングを作り、ユキちゃんに向かってフッと吹く。すると、シャボン玉みたいな水の球がユキちゃんを包み込んだ。
「じゃ、先に行くね」
「にゃあう!! なにこれー」
アオは再び海に飛び込む。ユキちゃんを包んだ玉もふよふよと水の中へ。
俺はスノウさんに言う。
「じゃあ、行きますか。呼吸の仕方にコツがありましてね……」
「は、はい」
「スノウさんだいじょーぶ。アオもいるから平気平気!!」
とりあえず、レギュレータの使い方を説明し、俺とスノウさんは海に入って行った。
◇◇◇◇◇◇
相変わらず、海の中は綺麗だった。
スノウさん、軽く説明しただけでレギュレータの使い方をマスター……しかも、泳ぎもうまい。
『……おおう』
すげえ……ぴっちりしたダイバースーツの胸だけが解放されてるから、スイカが水の中で踊ってるように……って、ダメダメ、気にしちゃダメだ玄徳!!
海底近くに行くと、水の球にいるユキちゃん、普通に泳いでるアオがいた。
『おーい』
『あ、おじさん。スノウさんも』
『にゃああ、おかあさーん』
『ユキ、苦しくない?』
『にゃう。すごくたのしい!!』
ユキちゃん、水の球の中ではしゃいでいた。
軽く触れて見ると、ゴムのような感触がした。どういう魔法なんだろうか?
『おじさん、あっちの方に洞窟あったよ。行ってみない?』
『いいな。スノウさん、泳ぎはいけますか? 苦しくないですか?』
『大丈夫です。こう見えて、泳ぎは得意なんですよ』
『にゃああ』
というわけで、三人並んで泳ぎ出す。ユキちゃんを入れた風船も付いて来た。
アオに案内されて見えたのは……いやはや、驚いた。
『ど、洞窟ってか、建物じゃん……!! なんだこれ、遺跡か?』
『さっき見つけた。昔の建物っぽい』
『というか……この形状』
国会議事堂っぽい建物が海底にあった。
汚れがひどく、藻や海藻がびっしりくっついてる。魚の寝床なのか、窓の部分や隙間から魚が出入りしているようだ。
『なあアオ、これ、ダンジョンじゃないのか?』
『……え』
『海底ダンジョンってないのか? どう見ても、あれ入口っぽいけど』
『…………』
ダンジョンという発想はなかったのか、アオは俺を凝視し、入口っぽいところを見ている。
『確認してくる』
アオはジェット噴射のように議事堂へ。それから数分後、やや興奮して戻って来た。
『おじさんの言う通りだった!! あれ、ダンジョン!! 入口から少し進むと、空気のあるところに出たの。すごい、砂漠の国以来の、未発見ダンジョン!!』
『お、おお、興奮するなって。よかったな』
『ここ、覚えておかないと』
『船にブイ……水に浮かぶ目印ならあるぞ。浮かべておくか』
『うん!!』
『にゃああ。おおきいおさかなー』
と、ユキちゃんが指差した方を見ると、とんでもないサイズの鮫が泳いでいた。
『ぶっふううううううう!? ささささめええええええええ!?』
『まあ……あれはたしか、ノコギリシャークですね。何度か魚屋さんで見たことがあります。お肉は脂っぽいので、焼くとステーキみたいなお味だろか』
スノウさん落ち着きすぎ。ユキちゃんも「さめー」と喜んでるし。
するとアオ、人差し指を向けた。
『邪魔しないで』
指先から何かが発射され、五メートル以上ある鮫の口に侵入、ケツの辺りから出て行った。
水のレーザー……なんつう威力。サメはプカーッと浮き上がる。
俺たちも浮上……ボートに上がると、アオが言う。
「ロッソ、ブランシュ、ヴェルデ。海底にダンジョンあったよ」
「え、マジで!?」
「まあ……!!」
「ダンジョンって、海底にあるモノなの?」
三人は驚く。
スノウさんは、膜が割れて濡れたユキちゃんをタオルで拭いていた。
「おじさん、目印」
「ああ、ブイを浮かべておくよ」
一応作ったブイ、使うことになるとはな。
ブイを浮かべ、ロッソたちは海底の調査をするため一度戻ることにしたようだ。
俺たちも沖に戻ると……おや、久しぶりの顔があった。
「楽しんでいるようね、ゲントク」
「サンドローネか。リヒターに、イェランも……ははーん、お前もパラセーリングしたいんだろ?」
「……まあ、そうね。それもあるけど、別の理由もあるわ」
「ん?」
ロッソたちは「じゃ、探索の準備するから。おっさんまた!!」とダッシュで行ってしまった。ダンジョン調査……しかも海底にあるレアなダンジョンだし、興奮する気持ちもわかる。
海底にダンジョンか……もしかしたら、あの辺はもともと海に沈んでなかったのかもな。
「ちょっと、余計な思考しないで話を聞きなさい。ゲントク……あなたにお願いがあるの」
「…………え~?」
「イヤそうな声を出さないでちょうだい。あなたには、アイデアを出してもらうだけでいいわ」
サンドローネは、ウッドデッキにあるテーブルへ移動し、一枚のチラシを置いた。
そこには、『ザナドゥ・マリンスポーツ大会』の要項が書いてある。
「これがどうかしたのか?」
「……実は、アレキサンドライト商会は大会の運営で、競技には出ないんだけど……リヒター、説明」
「はい、お嬢」
「いや、そこまで言うなら自分で説明しろよ」
リヒターの説明。
アレキサンドライト商会は今や、水中スクーターに始まり、船外機付きボートなどで大儲け。ザナドゥで一番の商会として有名なんだが……ザナドゥに昔からある商会連中がケチをつけてきたらしい。
なんでも、「アレキサンドライト商会が大会に出ないのは、勝つ自信がないから、運営って理由にかこつけて逃げているから」って言われたとか。
商会連中は、「アレキサンドライト商会は確かに船外機ボートとか水中スクーターを作った。でも、今じゃ自分たちの方がこれを改良し、よりよく使える」とかなんとか。
それで、ザナドゥの商会連中が勝負をふっかけてきたそうだ。
「……もし、アレキサンドライト商会が負けたら、水中スクーターと船外機ボートの権利を全て、商会に渡せと言ってきました。現在、全ての権利はアレキサンドライト商会にありますので……これを渡すとなると、ゲントクさんへのロイヤリティ支払いがなくなります」
「なぬ」
「そ、それと……その」
リヒターは、言いにくそうにサンドローネを見る。
サンドローネは顔をしかめ、俺から目を逸らした……あ、察した。
「お前、喧嘩売られて買ったんだろ」
「…………」
こいつ、勝負を受けやがったな?
そういういちゃもんは無視すればいいのに、カッとなって勝負受けたんだな。
「……………………悪いと思ってるわ」
「……はぁぁぁぁぁぁ。それで、俺に何を?」
「……あのクソジジイ共を黙らせる魔道具を作ってほしい」
「…………」
こうして、俺のバカンスはまだ続くが……なんというか、やっぱり面倒ごとに巻き込まれるのだった。