飲み屋での出会い
さて、ロッソたちが戻って来ないし、子供たちも俺とばかり遊んでいるわけじゃない。
イェランはサンドローネの元へ行き、サスケはザナドゥにあるアズマ関連の店でちょっと手伝いを依頼されたとかでいない。
なので、今日は一人。よく考えると、みんな仕事とか付き添いで来てるんだよな……純粋にバカンスを楽しんでるのって俺だけか?
まあいい。俺はアロハにハーフパンツ、麦わら帽子、サングラスを装備。革の肩掛けカバンに財布などを入れ、サンダルを履いて別荘を出た。
「さ~て、飲みに行くかあ」
そう、昼間から飲みに行くのである。
向かうのは、別荘から近い歓楽街。日中はカフェとかで稼いでるイメージ多いけど、ここの裏通りには昼間からやってる居酒屋も多いのだ。
別荘を出て歩き歓楽街へ。そして、初見でピンときた居酒屋に入った。
「おおお、いいねいいね」
裏通りに入ってすぐ、シンプルな木造りの居酒屋だ。
カウンター席が四つ、テーブル席が三つだけの小さな居酒屋で、窓ガラスがなく簾みたいなもので外と仲を区別している。
店内ではクラシカルな音楽が流れ、観葉植物があり、壁には貝殻やサンゴみたいな飾りがしてある。絵も飾られている……すごいな、ザナドゥの海だろうか。
歓楽街なのに、どこか海の家っぽい居酒屋だ。カウンター席に一人だけおじさんが座ってる。
「よ、兄さん。昼間から飲むとは、なかなかわかってるな」
おお、話しかけてきた。
なんかこういう出会いもいいな。俺はニヤリと笑い、帽子を外してサングラスを頭に引っかけておじさんの隣に座った。
「まあな。一か月しか滞在しないんだ。やりたいこと、思ったことは全部やらないとな」
「いいね。じゃあ、新たな友に乾杯だ」
俺はキンキンに冷えたエールを注文し、おじさんと乾杯する。
「「乾杯!!」」
エールを一気に流し込む……くぅぅ、痺れるぅぅぅ!!
「「っぷはあああ!!」」
全く同じタイミングで飲み干し、空のジョッキを再び合わせた。
もちろんおかわり。さらにザナドゥの焼き魚、煮込みなどを注文した。
「玄徳だ。魔道具技師やってる」
「ゲントク……お前さんが? ああ、オレはハボリム。よろしくな」
「ああ。俺のこと知ってんのか?」
「知ってる。有名な魔道具技師だろ?」
ハボリム。年齢は俺と同じくらいかな。
アロハシャツの前を全開にしており、身体中に細かい入れ墨が入っている。皮膚は茶色く日焼けし、髪はもともと白いんだろうが、太陽光で痛んで見える。
短髪を逆立て、顎髭を生やしたイケメンって感じだな……しかも筋骨隆々だし。でも、なんだか仲良くなれる気がした。
「ハボリムは何の仕事してるんだ?」
「あ~、まあ、いろいろな」
「ほほう。言いたくないのか? まあいいや……でも、その日焼けからするに、外仕事か」
「ははは。そう見えるか? まあ、ハズレではねえな」
焼き魚うっま……ザナドゥの魚って年がら年中脂がすごい。
魚の煮込みもいい味出てるし、刺身は言わずもがな。
「すんません。雑酒あります?」
「はいはい。ありますよー」
ちなみに、店主は恰幅のいいおばちゃんだ。奥のキッチンにスキンヘッドの男性がタオル巻いているのが見える。旦那さんかな?
雑酒をもらうと、ハボリムもグラスをもらう。
「雑酒、魚に合うよな」
「わかるわかる。オレ、クソ暑い日に外で飲むキンキンに冷えたエールが大好きなんだが、こういう日陰の店で飲む雑酒もすげえ好きなんだよ」
「わかる!! ハボリム、お前『通』だな!!」
「ははは、そうか? じゃあ、もう一回乾杯するか」
「おう!!」
というわけで……出会いに乾杯!!
◇◇◇◇◇◇
さて、それから半日ほど酒を飲んで喋ると、いい感じに酔ってきた。
「がっはっは!! なあゲントクよぉ、まだいけんだろ?」
「あったぼうよ!! 今日は飲みまくる。おいハボリム、朝まで付き合えよ!!」
「当り前だ!! てめえ、途中で倒れたら承知しねえぞ!!」
「「がっはっはっは!!」」
肩を組んで笑い合う……やっぱ俺、同世代の男と飲むのが一番楽しい。
会計をし、次の店へ行く。けっこう食べたので酒メインでいこうと決め、二人で肩を組みながら裏通りを進む……すると、綺麗なバーが視界に入った。
ちなみに、もうすぐ夕方である。
「おいハボリム、次ここ入ろうぜぇ」
「いいな。ん? おいおいここ、オレの行きつけの一つだぜ? いいサービスあるんだよ」
「いいね。じゃあ入ろうぜぇ」
バー『ムーン・デイズ』という店に入った。
レンガ造りの小さな建物だ。横一列のカウンター席しかないバーで、壁はなんと水槽になっておりいろんな魚が泳いでいる。しかも、水槽内には『光』の魔石が沈んでおり、淡く発光しているのがまた綺麗だ。
カンター側の棚には酒がずらり。背後の水槽には魚がいっぱい泳いでいる。そして店内に流れる音楽はどこか、悲しそうな、落ち着く雰囲気だ。
そして、お客さんが一人……おお、水着の女性じゃん、って……あれ?
「ん? おお、ゲントクではないか」
「おま、ラスラヌフじゃん。ひっさしぶりだなあ」
「……酒臭い。おぬし、かなり飲んでおるの。ん? なんとまあ……そっちは」
「ああ、ハボリムだ。居酒屋で知り合ってな……って、どうした?」
ハボリムは急に緊張しているのか、目を見開いてラスラヌフを見ていた。
「ら、ラスラヌフ様……お久しぶりです」
「これこれ。わしはもうただの一般人じゃ。そんな口の利き方をせんでいい」
酔いが醒めたのか、ハボリムは深呼吸する。
「おい、どうしたんだよ」
「あ~……すまんゲントク。隠すつもりはないし、言ってもよかったんだが……なんか、お前と飲むのが楽しくてな、オレに関してあーだこーだ言うのは憚られた」
「ああ?」
すると、店に数名の騎士が入って来た。いきなりで驚いた。
騎士は女性、男性だ。入るなり俺を見て剣を抜こうとしたので仰天すると、ラスラヌフが手を向け、さらにハボリムも手を向ける。
騎士二人は時間停止したように止まり、そのまま一礼し膝をついた。え、なになにマジで。
そして、女性騎士が変なことを言った。
「陛下、また城を抜け出し、このような場へ……」
「あー、悪い悪い。今日の仕事は昨日のうちに終わってるし、別にいいだろ? それにザナドゥは観光国だ。視察も十分に大事な仕事だって」
「しかし、御身に何かあれば……せめて、護衛を連れて」
「いいって。堅苦しいのと一緒じゃ楽しめない。それに、オレぁ強いからな」
「……おい、ハボリム。まさかお前」
「無礼者!!」
と、男性騎士が怒鳴る。びっくりするとハボリムが出て制した。
そして、ラスラヌフが言う。
「こやつは、ハボリム・ハーフィンクス・ザナドゥ。この海の国ザナドゥの国王じゃよ」
「……マジで?」
「はっはっは。マジだ。悪いなゲントク、まあそんな肩書どうでもいい。飲もうぜ!!」
なんと、ハボリムはこの国の王様でした……えええ、マジで?