独身おじさん、若者たちと遊ぶ
さて、水中スクーターを倉庫から出して点検した。
外装も魔石も問題ない。それぞれバレン、ウング、リーンドゥに渡す。
サスケには悪いが、別にお願いしたいことがあった。
「サスケ。お前は、ボートの操縦やってみないか?」
「ああ、あのでっかい船か。面白そうだな」
操縦は、イェラン、リヒターに任せるつもりだが、ここにサスケも加わった。
イェランは明日来るって言ったし、リヒターはサンドローネの仕事が落ち着くまでは来ない。なので、最初にサスケに頼むことにした。
ボートを砂浜から移動して海に浮かべる。牽引用のロープは近くの岩に巻いた。
すると、バレンたち三人が海から顔を出す。
「っぷは!! すごいね、この魔道具。まさか海底をスイスイ泳げるなんて」
「たんのしぃぃぃ!! これ、ブランシュたちが去年遊んだヤツなんだよね? あ~、ウチらも去年から海遊びすればよかったね!!」
「……美味そうな魚、大量に泳いでたぜ」
三人は海底を満喫したようだ。
俺は、ボートに乗る前にバーベキューコンロを出し、この日のために作った『水中銃』を持ってくる。
「おーいウング。美味そうな魚って聞こえたぞ、せっかくだし狩りしてみるか?」
「ほう、その筒みたいなヤツでか?」
「ああ。ちょっと潜ってくれ」
俺はウングと海に潜る。
そして、シンプルな形状の筒……水中銃を見せた。
銛がセットされた筒だ。ラバーコブラのゴムを引っ張って装填。引金を引くと、ゴムの弾力で銛が発射される仕組み。
(……お、いたいた。ウング、見てろ)
(おう)
水中で会話はできないので、視線だけで会話。
少し離れたところを優雅に泳ぐ、青いタイみたいな魚に照準を合わせ引金を引いた。
(よし!!)
銛が命中。青いタイの身体を貫通した。
海中で初めて使ってみたけど、かなりの勢いで飛んだ。
銛の後部に紐がくっついているので、水中銃を引っ張れば刺さった獲物も回収できる。
そのまま海面に戻り、魚を見せつける。
「っぷはあ!! こんな感じだ。どうよ、面白そうだろ?」
「……面白いじゃねぇか。へへ、狩りなら任せな」
ウングに水中銃を渡す。
まあ、言うまでもないが、泳いでるバレン、リーンドゥには気を付けてくれ……ここは異世界だからいいけど、水中銃って許可なく所持するの犯罪だからな!!
ウングはバレンとリーンドゥに「狩りしてくる」と言い、リーンドゥは一緒に海底へ、バレンはバーベキューコンロの準備を始めた。
さて、俺とサスケはボートの試運転といきますか。
◇◇◇◇◇◇
ボートに乗り込む前、サスケが言う。
「おっさん、なんかボートに乗り物が乗ってるぞ」
「え? あ、忘れてた」
ボートには、この日のために作った『水上バイク』が載せてあった。
見た目はまんま、日本の海で使う水上バイク。二人乗りで、アクセルを捻るとインペラが回転し水を吸い込み、後部から噴射されるシステムだ。
水上バイクの修理とかも何度もやったし、再現するのは難しくない。『回転』の魔石ってほんと便利だな……そのうち、黄金長方形の回転とかやっちゃうかも。ニョホホホホ。
「水上バイクは……ロッソたちに任せてみるか。とりあえず、ボートの試走といこう」
水上バイクを浜に降ろし、俺はボートにエンジンキーを差す。
エンジンがかかるわけじゃない。キーを回すことで、魔力の通り道が開くのだ。まあ、普通はいらないんだけど、防犯って意味と、乗り物にはキーを回して始動させるってロマンがあると思ってくれ。
まずは、俺が運転席に立つ。
「サスケ、まずは俺が運転するから、座っててくれ」
「おう。へへ、楽しみだぜ」
俺はゆっくりアクセルを踏み込むと、ボートが動き出す。
魔石の力で、後部に設置した二本のスクリューが回転している。速度は徐行……まあ、いきなり最高速度を出すわけにはいかない。
ゆっくり、魔力を増やしていくと、速度も上がって行く。
「よーし……少しスピード出すぞ」
魔力を増やすと、スクリューの回転も上がり、速度が上がって行く。
まだまだ魔力を注ぐ。プライベートビーチの入り江から出ると、広大な景色が広がった。
海……やっぱりすげえ。
ハンドル操作をしてみると、ちゃんと舵も利く。
「お、あれ見てくれおっさん」
「ん? おお」
サスケがビーチを指差すと、たくさんの船外機付きボートがすごい速度で走っていた。
蛇行運転したり、直線距離を競ったり、スラロームしたり……よく見ると、コースみたいなのもある。
それに、水上スクーターで走る個人もいる。なんだろう、マリンスポーツっぽい。
「そういや、大会がどうとか言ってたよな。あれがそうなのか?」
「らしいな……サスケも興味あるか?」
「まあ、見るのは面白そうだ。でも、おっさんのボートのが面白そうだぜ」
いいこと言いやがる。
さて、運転にも慣れて来た。俺は最後に『超アクセル』を試すことにした。
「サスケ、今から『高速回転』のアクセルを試す。めちゃくちゃスピード出るかもしれないから、しっかり掴まっててくれ」
「おう、へへ、ワクワクするな」
俺は、ハーネスを身体に巻き、運転席に取り付けたフックに固定……いや、吹っ飛ばされる可能性、マジであるんだよ。
そして、深呼吸し……意を決して『高速回転』のアクセルを踏んだ。
「──っ!!」
後部から、とんでもない爆発が起きた。
いや違う。回転が凄まじく、水飛沫が爆発のように見えるんだ。
そして、一気に加速。恐らく百キロ以上。やべえ。
「うぶおおおおおおおおおおおおおお!!」
アクセルを離し、急ブレーキ。
前に設置したスクリューが回転し、ボートが停止した。
俺の背中には冷たい汗……ダメだ、これ封印だ。
「す、すっげ……びっくりしたぜ」
「お、俺も……ははは。サスケ、これ絶対に踏むなよ」
「お、おう」
さて、ボートのテストは完了!!
サスケに運転を交代。アクセルを踏んでハンドル操作するだけなので、すぐに運転にも慣れた。
というか、悪目立ちしたせいか、俺たちのボートに船外機ボートが近づいてきた。
「おーい、あんたのそれ、なんだ? 新しい魔導ボートか?」
「あー、まあ、そんなもんだ」
「おいおい、規定に従わないと大会に出れないぜ」
「いやあ、これ趣味のやつなんでな」
「すっごいねー、どういう仕組み?」
「秘密だ。悪いな、そろそろ帰るんで」
うーん、海の人たちってフレンドリーだな。
適当に挨拶し、俺たちは入り江に戻る……すると、ロッソたちが手を振っていた。
砂浜にボートを上げ、俺とサスケは降りる。
すでに水着に着替えたロッソたち四人。シュバンとマイルズさんがバーベキューを焼き、バレンたち三人はいない……あ、海底か。ちょうど水上スクーターを持って上がって来た。
「おっさん!! 新しいボート楽しそうだね!!」
「ああ、実験は終了。明日はいよいよパラセーリングだぜ」
「楽しそう!! アタシたちも参加するから!!」
「……ロッソ。明日は冒険者ギルド」
「そうですわよ。お仕事を終えてからです」
「あう……そういやそうだった」
肩を落とすロッソ。すると、海から上がって来たバレンたちが言う。
「ロッソたち。冒険者ギルドで依頼があるなら、ボクらも協力するよ」
「……え、いいの?」
「うん。この水中スクーター、すごく楽しかった。貸してくれたお礼をしないとね」
「……バレン」
おお、ロッソとバレン……なんかいい感じなのか?
すると、アオがウングを見て言う。
「……ウング、それ何?」
「水中銃ってやつだ。オヤジから借りた。へへ、海での狩りも悪くねえ」
「……いいなあ」
「……貸してやるよ」
「いいの? ありがと」
ウングは、アオに水中銃を渡す……え、こっちもいい雰囲気?
まさかと思うと、リーンドゥとブランシュも。
「わお、バーベキュー美味しそう!! あ、ブランシュ、これありがとね」
「いえいえ……って、リーンドゥ、これ亀裂入ってますわ!!」
「あ、ごめん。取っ手のところ、強く握っちゃったかも」
「ああもう、あなたって子は……!!」
どうやら、水中スクーターの持ち手に亀裂が入ったようだ……あとで直すか。
なんとなくヴェルデを見る。
「何よ」
「ああいや、うん。安心しろ。お前のことはちゃんと面倒見るからな!!」
「意味不明。ってか、別にライバルとかいなくていいし!! それより、新しい水中スクーター、試させてよ!!」
おっとそうだった。
ちなみに、ヴェルデの水着は高貴なエメラルドグリーンのビキニにパレオを巻いたスタイルだ。うんうん、大人っぽくていいね。
と……バーベキューまでまだ少し時間あるな。
「ロッソ。ちょっといいか、水上バイクを試さないか?」
「え、なにそれ」
「そこにあるやつだ。ちょっと待ってろ」
俺は水上バイクを浮かべ、エンジンキーを差して捻る。
うん、ちゃんと浮かぶ。プラティックワイバーンの外殻は軽くて丈夫で水に浮かぶから理想的なんだよな。
魔力を注ぐと、水上バイクが走り出す……ちゃんと、水を吸い込んで噴射し、推進力となっている。
速度を上げると、けっこうな速さになった。
「いくぜ、モンキーターン!!」
なんちゃって。
俺は入り江を出てターンを決め、再び戻って来る……実は若いころ、けっこう乗ってたんだよな。
そのまま浜辺に戻り、水上バイクから降りた。
「こんな感じ」
「おっもしろそう!! 乗らせて乗らせてー!!」
「お、おう」
「……私もやりたい!!」
「楽しそうですわね!!」
「すごいな、ゲントクさんの魔道具!!」
「うちもやる~!!」
「……やらせろ!!」
と、ヴェルデ以外の六人が、目を輝かせて詰め寄って来た。
ああうん、順番な順番!!
「と、とりあえずロッソから。あとは交代でな」
こうして、本格的なバカンスが始まった。
それと、水上バイク……あと三台くらい作ればよかったなーと思った。