二度目のザナドゥ
四日後……連結馬車はザナドゥに到着した。
以前来た時よりも道幅が広くなり、さらに整地されているおかげか揺れもない。
道の両サイドにはヤシの木みたいなのが植えられ、正門にはアーチみたいなのが掛けられ、しかもガラストンネルみたいになっているのか水が循環していた。
「にゃああ……すごい。まえはこんなのなかったよね」
「わふ……きれい」
「がうう……」
「きゅううん……すごい」
一号車の展望台で、子供たちが並んで景色を見て感動していた。
正門でのチェックを終え、まずは不動産ギルドに向かってもらう。行く理由は、俺の別荘の鍵を取りに行くのだ。
「ほー、すげえな……これがザナドゥか」
サスケが展望台から街並みを見て感動していた。
ロッソたちはもう何度も来ているのか特に感動はないが、バレンやリーンドゥは意外にも初めてなのか景色を眺めている。ウングは静かだが、リーンドゥは興奮していた。
「すっごー!! くんくん……なんかいい匂いしない? おっちゃん、ここすごいね!!」
「リゾート地だからな。ちなみに、砂漠の国もこんな風にリゾートを目指してるぞ」
ザナドゥの街並みは、前と同じく賑わっている。
水着の人たちが歩き、キラキラした街並みはまさにリゾート観光地……軍とか兵士とか騎士もいる王国だけど、国王の方針でリゾート開発に力を入れてるから、王国っぽくない。
サンドローネ曰く国王も遊び人らしいけどな……どんな人なのかね。
そして、馬車は不動産ギルドへ到着。俺が降りると、ティガーさん、ドギーさんも降りて来た。
「ゲントクさん。私たちもご一緒してよろしいでしょうか……その、別荘の候補地を探してもらうので、ご挨拶はしておいた方がいいと思いまして」
ティガーさんの言う通りだ。
さっそく三人で不動産ギルドに入り、受付に向かう。すると、以前不動産を世話してくれたクリスティナさんが出て来てくれた。
「これはゲントク様。お久しぶりでございます」
「どうも。今年も別荘を使うんで、鍵を取りに来ました」
「はい。清掃はすでに済んでいますので、今日からご使用できますよ。と……そちらは?」
ティガーさん、ドギーさんが一礼。
「初めまして。私は、アメジスト獣人商会から来たティガーと申します」
「私は提携商会の『ドッグ香辛料商会』を経営しています、ドギーと申します」
お互いに一礼……そういやこの世界、名刺とかの文化はないんだよなあ。
名刺か……今の挨拶見て、名刺交換を思いだしてしまった。サンドローネに提案してみるかな。
「実は、保養地の視察に参りまして、ザナドゥに別荘を購入したいと考えております……商会の保養所として使う予定でして、規模の大きい別荘地を探しています」
「なるほど……でしたら、不動産ギルドにお任せください」
「ありがとうございます。本日はご挨拶ということで、後日また来ますので、ぜひともよろしくお願いいたします」
ティガーさん、ドギーさんはぺこりと頭を下げる。
屈強すぎる獣人戦士が、別荘地を買うために商業ギルドへ……異世界じゃないとこんな光景見れないな。
ちなみに、ドギーさんたち『ドッグ香辛料商会』も、アメジスト獣人商会の一部として、保養所の購入に関わるらしい。
クリスティナさんは、ティガーさんから最低条件を聞いてメモをする。
「わかりました。三十名ほどが宿泊可能な保養所ですね……資料を準備しておきますので、ご都合のいい日にお越しください」
「「ありがとうございます」」
ビジネスって感じ……俺、いない方がいいかな。
するとティガーさんが言う。
「ではゲントクさん。参りましょうか」
「あ、はい。じゃあクリスティナさん、今年もよろしくお願いします」
「はい。と、そうだ……ゲントクさん。今年から始まる『ザナドゥ・マリンスポーツ大会』のことはご存じですか?」
「まあ、当事者とは言わんですけど、いろいろ関わった案件ではありますし……ははは、楽しませてもらいますよ」
「そうですか。ゲントクさん、あなたの魔道具のおかげで、ザナドゥは観光地として更なる発展を遂げました。いち国民として感謝しています」
クリスティナさんは頭を下げた……いやもう、恥ずかしいんで勘弁してくれ!!
◇◇◇◇◇◇
さて、再び連結馬車に乗り、近くの宿にティガーさん、ドギーさん一家を降ろした。
サンドローネの名前で予約を取り、しばらくは別行動。
すると、サンドローネが。
「シアちゃん、いいかしら」
「わう?」
サンドローネは、エディーをシアちゃんの元へ。
「お姉さん、これからお仕事で忙しくて、エディーと遊ぶ時間があまりないの。シアちゃん、私の代わりに、エディーと遊んでくれるかしら」
「わふ!! いいの?」
「ええ。エディー、構ってあげられなくてごめんなさい。シアちゃんと仲良くしてね」
『オフゥ』
サンドローネはエディーを優しくなで、シアちゃんにお願いした。
そっか……サンドローネはこれから忙しいんだな。エディーも、シアちゃんに任せれば遊びまくれるだろう。
そして、馬車は俺の別荘へ到着した。
ここで、ボートを切り離し、プライベートビーチの浜辺まで移動させるんだが……想定外。
「……どうやって運べばいいんだ」
久しぶりの別荘……でも、プライベートビーチは別荘を突っ切る形なので、ボートのようなデカいものは運べない。以前運んだボートは小さかったので、横から行ける脇道を通って行けたけど。
すると、ロッソたちが降りて来た。
「おっさん、どうしたの?」
「いや……ボートをビーチまで運びたいんだが、どうしようか迷ってるんだ」
脇道の隣には岩場があり、とてもじゃないが運べない。
すると、リーンドゥが来た。
「なになに、これ運べばいいの? よっ……と」
「え」
なんと、リーンドゥがボートを持ち上げた。
すげえ……改造したボート、鉄とかで補強してるからかなりの重量があるし、小舟じゃないから持ち上げるなんてできると思わなかったんだが。
リーンドゥは、岩場まで普通にボートを担いで移動し、岩場をぴょんぴょん跳ねてプライベートビーチへ。そして、ボートを普通に浜辺に置いた。
「おっちゃーん、終わったよー!!」
「お、おお!! ありがとうな!!」
「気にしないでいいよ。ね、ね、ここおっちゃんの別荘だよね!! ねーねー、ウチら別荘買うまでここに泊まっていい?」
すると、ロッソとアオとブランシュがピクリと反応した。
「……おっさん、泊めるの?」
「……おじさん」
「……おじさま?」
「あ、ああ。まあ……泊めてもいいけど。お前らも泊まったし、いいよな?」
「ほら三人とも。ヤキモチ焼いてるのか知らないけど、ここじゃ喧嘩しないって決めたでしょ? ゲントク、私たちはロッソの別荘に行くから、今夜あたりご飯でもどう?」
「あ、ああ。そうするか」
「むー、まあいいや。じゃあおっさん、またね」
「……荷物置いたら来るから」
「おじさま。リーンドゥにいろいろ壊されないように。それと、わたくしたちの水中スクーター、使わせてもいいですわよ」
「私の水中スクーター、テストしに来るからね!!」
ロッソたちは連結馬車に乗って行ってしまった。
残されたのは、俺とサスケ、バレンとリーンドゥとウングだ。
「さて、お前たち。俺の別荘へようこそ!! 部屋は二階にあるから、一番大きな部屋以外は好きに使っていいぞ!!」
「ありがとうございます。ゲントクさん、お世話になります」
「やったー!! おっちゃん、ありがとね!!」
「ありがとよ。それと、日陰あるか? ヤタロウの寝床にしたい」
「へへ、にぎやかでいいな」
バレンたちは二階へ。
俺は一階のリビングに入り確認する。
「ん~、もう一年前かあ。すごい時間経過した気がするなあ……」
リビングは、一年前と同じだ。定期的に掃除をしているようなので汚れはゼロ。
テラスに出ると、ビーチパラソルがあったので開き、椅子に座って煙草に火を着ける。
ヤシの木っぽい木の下で、ヤタロウが寝そべっていた。
「ヤタロウ、お疲れ様さん。ゆっくり休んでくれ」
『オゥゥ……クァァ』
大きな欠伸をすると、そのまま寝てしまった。
俺は、ビーチにあるボートを眺める。
パラセーリングボート……いよいよ、パラセイルをやる時が来た。
「おっちゃん!! 見てみて、どうどう?」
と、ドタドタと階段を降りてリーンドゥが来た……水着で。
黄色い、しかもけっこう際どいビキニだ。ブランシュに負けず劣らずの巨乳で、しかもうっすらと腹筋が割れているのがまたいい。
「おお、水着か」
「うん!! ねえねえ、ロッソが『水中スクーター』とか言ってたけど、面白いんだよね!! 遊びたい!!」
「き、来て早々遊ぶのか……元気いっぱいだな」
「ねーねー遊ばせてよ。いいでしょ?」
「わかったわかった。確か、倉庫に入れてあるはずだ。置きっぱなしだし、軽く点検してからな」
「うん。おっちゃんも早く水着に着替えてよ!!」
「え、俺も?」
すると、バレンとサスケ、ウングが水着に着替えて二階から来た。
バレンはオレンジのハーフパンツに浮き輪、サスケは濃い緑のハーフパンツに麦わら帽子、ウングは紫のトランクスに、口元を隠すマフラーを巻いている。
「お前らもやる気満々だな……」
「へへ、若いからな。な、バレン」
「うん。その~……ボクも、水中スクーターに少し興味があって」
「……オレは別に」
「やれやれ。よーし、ちゃっちゃとメンテするから待ってろよ!!」
俺は海パンに着替え、若者たちに付き合うべく動き出すのだった。
二度目のバカンス。今年も楽しく遊びまくるぞ!!