新しい連結馬車
さて、連結馬車に新しい号車が加わったが、加わったのは『大浴場車』だけじゃない。
長々と悪いが、俺もちょっと自慢したいので説明させてもらおう。
「ふぅぅ~……やっぱ展望車はいいねえ」
「そうね。煙草が吸えるのはここだけなのがね……まあ、いいけど」
俺はサンドローネと煙草を吸っていた。
一号車。一階はリビングルーム、二階は展望台だ。二階は喫煙所でもあり、こうして煙草を吸える。
『ほるるるる』
「ん? おお、エサはまだ先だぞ」
ちなみに、ここには止まり木を置いてある。
大福、白玉も旅行に連れて来たのに、伝書オウルのバニラだけ置いてきぼりというのはかわいそうとユキちゃんが言うので連れて来た。
サンドローネは立ち上がり、バニラを優しく撫でる。
「ふふ、かわいいわね」
「せっかくだ。ザナドゥにいる間、新聞社と契約してこいつに運んでもらうか……っと」
俺は灰皿に煙草を押し付け立ち上がる。
「少し散歩してくるわ」
「ええ。私はここで、のんびりさせてもらうわ」
俺はリビングへ。
そこには、イェランとリヒターがボードゲームで遊んでいた。
俺が考案したチェスだ。ちなみに俺は後で知ったことだが、サンドローネがチェスをエーデルシュタイン王家に献上し、貴族の間で流行しているとか……近く、大会も開催されるとか聞いた。マジかよ。
俺は集中している二人の邪魔をしないよう、二号車へ。
「二号車は……食堂車だ」
食堂車は、従来と変わっていない。
席の間を少し広くしたり、テーブルの位置を変えたり、バーカウンターを広くしたりと多少の改良はされている。いろいろ意見を取り入れ、改良は続いているようだ。
バーカウンターではシュバンがグラスを磨き、キッチンではマイルズさんが仕込みをしている。ちなみに今回、乗車人数が多いので、いろいろな料理を楽しめるよう、メニュー表を作り自由に注文できるようになっている。
そして、俺の考案した『お子様ランチ』……マイルズさんに作り方を教えたオムライスやハンバーグ、気に入ってくれるといいね。
そして三号車……ここは、俺の居住スペースだ。
一階に個室が四つ、二階に大部屋がひとつ。
三号車は男子車両、四号車は女子車両だ。
そして五号車……こちらは『鮮血の赤椿』車両だ。
前は、男女車両をそのまま使っていたが、今回から少し違う。
「ね、ね、すっごくいい部屋だね!!」
「……大部屋、ベッドルームとある」
「ふふ。小さいバーカウンターやふかふかのソファ、小さい本棚もありますわ」
「豪華ねえ。なんだか贅沢かも!!」
ロッソ、アオ、ブランシュ、ヴェルデはキャッキャと喜んでいる。
この車両は新しい車両、名付けて『個室車両』だ。
家族でひと車両使いたい、という意見を採用し作った特別車両だ。ひと家族五人を想定した車両で、一階はリビング、二階はベッドルームと別れている。一号車を改造したものだが、これは悪くないかもしれん……男女車両と違い、一つの車両がまるまる家みたいなもんだしな。
ちなみに、この車両を使うには四名以上の予約であること、そして割高料金を支払う必要がある。
六号車は『殲滅の薔薇』車両で、七号車はティガーさん一家、八号車はドギーさん一家、そしていよいよ九号車。
「おや、ドギーさん。あなたも風呂ですかな」
「ええ。ティガーさん。いやあ……まさか、馬車で風呂に入れるとは」
「ははは。上がったら、一杯どうです?」
「いいですねえ、お付き合いしましょう」
ドギーさん、ティガーさんが風呂に入って行った。
そう、九号車は大浴場車両。俺の希望で作られた特別製だ。
いやあ、やっぱシャワーじゃ満足できないしな。風呂は大事よ!!
そして十号車は物資車両……人数も多いし、メチャクチャ食べそうな連中が多いのでかなりの食材が入っている。ちなみに、二重構造になっており、車両の一部が冷蔵庫みたいになっている。ナマモノとかもちゃんと冷蔵、冷凍保存されている。
合計十車両。これが新しい連結馬車の全てである。
◇◇◇◇◇◇
「にゃああああー!!」
「わふうううう!!」
「おっと」
食堂車に戻ると、ユキちゃんとシアちゃんが走っていた。
俺に飛びついてきたので二人を抱っこ。
「こらこら。走ると危ないぞ」
「にゃうう。たのしいの」
「わうう。いっぱい遊べるの」
すると、スノウさんとベスさんがやって来た。
「こら。危ないから走らないって約束したでしょう」
「シアも、ダメよ」
「にゃあ」
「わふう」
俺は二人に子供を返す。
一応、連結馬車を繋ぐ通路に出ると外に出ることになる。格子があるから落ちないと思うけど、走ると危ないことに変わりないので、気を付けるように言っておいた。
二人は子供を抱っこしたまま自分たちの車両へ……ちなみに、クロハちゃんとリーサちゃんは風呂に行ったらしい。
俺はバーカウンターに座る。
「シュバン。軽めのカクテルと、おつまみくれ」
「はい、わかりました」
とりあえず、海まで四日あるし、のんびり行くとするか。
シュバンの作ったカクテルは、甘めのサワーみたいなカクテルだ。おつまみはスナック菓子。
いいね、昼から飲むにはちょうどいい。
「お、飲んでるねー」
「よ、おっさん」
「おお、イェランとサスケ。珍しい組み合わせだな」
「たまたま一緒になっただけだっつーの。な、サスケ」
「おう。喉乾いたから来たら、おっさんに会ったってわけだ」
二人は俺を挟むように座る。
それぞれ酒を注文する。
「なあ、サスケ。リヒターとイェランには頼んだけど、二人がいない時はお前に頼みたいことあるんだ」
「お、なんだ?」
「ふふふ……ボートの操縦だ」
サスケを誘ったのは思い付きだけど……サスケならボートを上手く操縦できるんじゃないかなってのもある。イェランもアレキサンドライト商会である以上、俺にばかり付き合うわけにいかないもんな。
「ボートの操縦って……最後部にくっついてるやつだよな」
「ああ、そうだ」
あ、言い忘れてた。
連結馬車は合計十両だけど、十一両目にパラセーリングボートが牽引している。
まあ、乗るわけじゃないし、引っ張ってるだけなのでカウントしてなかったぜ。
イェランは言う。
「サスケ。運転するのはアタシが教えてやるよ。へへ、楽しいぞ」
「お、おう……オレにできるかね」
「できるできる。俺もお前なら安心して任せられるわ」
と、ここで食堂車にロッソたち四人が入って来た。
今回は護衛というよりは同行者だ。なので、酒も飲める。
「おっさんたち、やっぱり飲んでるね。アタシらも一緒に飲む!!」
「……甘いの欲しい」
「シュバンさん。わたくし、ミルクを使ったカクテルをお願いしますわ」
「シュバン、私はいつものね」
「はい、かしこまりました」
テーブルに移動し、みんなで話をする。
「ね、おっさん。引っ張ってるボートってアタシらも乗れる?」
「もちろん。楽しい遊びも考えてるぜ」
「……わくわくする。でもロッソ、最初は依頼」
「そうですわよ。ザナドゥ冒険者ギルドの依頼を片付けてから休暇ですわ」
「ま、私らならすぐ終わるけどね!!」
「うー、わかってるし」
まあ、今回はバレンたちもいるし、すぐ終わるだろうな。
いろいろ確執はあるけど、砂漠の一件以来、露骨な敵対はなくなったし……俺がバレンたちを誘った意図を何となく察しているのか、喧嘩するようなこともない。
「あ、ヴェルデ。お前用に水中スクーター作ったぞ。ロッソたちのはもう俺の別荘にあるけど……ちょいと改良したから、海で試してくれ」
「ええ、いいわよ。ふふ、ワクワクするわね」
「おっさん。改良ってなにー?」
「ふふふ。魔石をちょっとな」
実は、『高速回転』の魔石を組み込んでみた。
もちろん普通に『回転』の魔石も組み込んでいる。ああ、色は緑色なので安心してくれ。
「ヴェルデので実験して問題なかったら、ロッソたちのも改造するよ」
「うー、わかった」
「……ヴェルデ。私が実験してもいいよ」
「イヤ。私がやるし」
この日は、海で何をするか、何をしたいかをみんなで話した。
途中でドギーさんやティガーさん一家も混ざり、サンドローネも合流……初日はみんなで飲み会となり、大いに楽しむのだった。