準備完了!
「リヒター、ハンドルを右に」
「はい」
「よーし、アクセル踏んでくれ」
「わかりました」
ハンドルを切ると舵が動き、アクセルを踏むとスクリューが回転。
ブレーキを踏むと前部のスクリューが回転し、『第二アクセル』を踏むと後部中央に設置したスクリューが高速回転した。
現在、俺とリヒターは、パラセーリングボートの最終チェックをしていた。
「よーし、これで完了だ。ありがとな、リヒター」
「はい。ふう……完成ですね」
リヒターがボートから降りてくる。
まだ水辺で試走していないが、パラセーリングボートは完成した。
パラシュートも予備を含めて完成したし、強風を当ててのテストも終わった。
さらに、スキューバダイビングを楽しむための魔道具も完成したし、旅に必要な道具などの準備も終わった……つまり、いつでも海に行ける。
すると、会社の前に連結馬車がやってきた。
「おーいゲントク。持って来たよー」
「おーう、ありがとなイェラン」
イェランが、連結馬車を運んで来た。
公園の中に停車……ちょっと邪魔で申し訳ないが、勘弁してほしい。
イェランは、連結馬車を引いてきた馬を馬具から外し、一緒に来た御者に任せて俺たちの方へ。
「ゲントク、注文通りに作った新車両もくっつけてきたよ。ちょっと重量も増えたけど……」
「今回は、ヒコロクだけじゃなくヤタロウもいるから問題ない。どれ、見せてくれ」
連結馬車の新車両を見る。
最後部に、これまでより少し横幅の広い車両が連結されていた。
さっそく中に入る。
「おお、いいねいいね!!」
「ほお……これはこれは」
「ふふん、どうよ」
新車両……その名も、『大浴場車両』である。
その名の通り、大浴場だ。シャワー車両を外し、新たに作った。
男女別。定員は四名ずつだ。広さは六畳間くらいで、浴槽が一つに洗い場が三つずつだ。
「時間の関係で『サウナ車両』は間に合わなかったけど、連結馬車の新しい車両として売りに出せるね。今回も、アタシらでテストしてからの実装になるね」
「連結馬車、売れてんのか?」
「当然。アレキサンドライト商会も馬車組合に加盟してね、新型の馬車として、いろんな馬車商会で活躍してるよ」
馬車組合とは。
エーデルシュタイン王国で走る馬車の組合だ。まあ、バス業者みたいなもんだ。
エーデルシュタイン王国、敷地全体は恐らく北海道レベルの広さだ。しかもそれ全体が一つの大国で、相当数の種族が生活してる。
北海道レベルの敷地の国……何百万人いるんだろうな。俺には理解できん。
なので、敷地内の移動手段である馬車の商会だけでも、百以上はあるのだ。
「そういや、連結馬車……連結数は少ないけど、町中で走ってるの何度か見たことあるな」
「けっこう導入してる商会も増えてきたからね。ちなみに、ザナドゥではすでに走ってるよ」
「へぇ~」
と、連結馬車について喋っていると、子供たちがやってきた。
「「「「おじちゃーん!!」」」」
「ん? おお、ちびっこたち」
「にゃああ。おじちゃーん」
「がうう」
「きゅうん」
「わうー」
「おお、なんだなんだ」
子供たちが飛びついてきた。
そして、ユキちゃんが言う。
「おじちゃん。おじちゃんのおかげで、みんなとりょこうにいけるー」
「ははは、そりゃよかった」
「わうう、これにのるの?」
「がうう、でかい」
「きゅん、たのしみー」
子供たちは連結馬車を見て喜んでいた。
そして、子供たちは俺から降り、何やらゴソゴソやり始めた。
「にゃあ。おじちゃん、ありがとー」
「がうー、これ、かんしゃのしるし」
「ありがとー」
「わうう」
クロハちゃんが、一枚の紙を俺に渡してきた。
受け取ると……そこには、俺らしき似顔絵が書いてあった。
四人で書いたのか、『おじちゃん、ありがとう』と書かれてる。
「……おお」
「にゃあ。おじちゃん、いつもありがとー」
「がうー」
「きゅうん、ありがと」
「わうう、かんしゃ」
「あはは。ゲントク……ゲントク?」
「……ううう」
やべえ、目頭が……俺、こういうの弱いんだよ。
俺は似顔絵を受け取り、リヒターに言う。
「リヒター、いくらでも出す……エーデルシュタインで最高級の額縁、仕入れてくれ」
「は、はい」
「みんな、ありがとうな。ううう……俺、この世界に来て一番嬉しい」
俺は、この世界で最高のプレゼントを手に入れた。ううう、嬉しい!!
◇◇◇◇◇◇
さて、場所を居酒屋に変え、俺とリヒターとイェランは飲んでいた。
「いや~、超嬉しい。子供たちのプレゼントなんて初めてだぜ~」
額縁が手に入るまで、絵は会社の金庫に入れて厳重にしまっている。
俺は焼き魚を食べながら言う。
「とりあえず。海に行く準備は完了だ。あとは行って遊びまくるだけ」
「ゲントクさん。私は一応、お嬢と仕事もあるので……」
「あ、アタシは最初はヒマだし付き合うよ」
「よし。じゃあイェラン、俺の別荘に泊まれよ。飲み屋街も近いし、観光もできるぞ」
「いいね。って……アンタねえ。前も言ったけど、独身の女を家に誘うなっつーの!!」
「俺は気にしないけど」
「アタシがするの!! ったく……宿に泊まるからいい」
イェランはエールをぐびぐび飲む……俺は気にしないんだけどなあ。
「じゃあ、最初はスキューバダイビングからはじめて、リヒターが動けるようになったらパラセイルやるか。くくく、楽しみだぜ」
「ザナドゥかぁ。アタシ、初めてなんだよねえ」
「今年は、視察がメインですので、そこまで忙しいことはないかと……ゲントクさん、一応、ラスラヌフ様がいることも忘れないでくださいね」
「あ、そういやそうだった」
『水瓶座の魔女』ラスラヌフ。そういや、ザナドゥにいるんだっけ。
◇◇◇◇◇◇
数日後……会社の前には大勢が揃っていた。
「にゃああ!」
「ユキ、こっちにおいで」
「おっさーん!! 荷物おっけーだよー」
「……ヤタロウも繋いだぞ」
ロッソたち『鮮血の赤椿』が四名、バレンたち『殲滅の薔薇』が三名。
ユキちゃんにスノウさん、シュバンにマイルズざんと四名。
ティガーさん親子が五名。ドギーさん親子が三名。
そして、サンドローネにリヒター、イェランと三名……そして。
「いやー、すげえ数だな、おっさん」
「ああ。でも、多い方が楽しいだろ」
「だな。でも……オレも参加してよかったのか? 別に案内とかできねえけど」
「いいんだよ。一緒に遊ぼうぜ!!」
そして、サスケ。
前にリヒターたちと飲んでいた時、たまたま会ったので誘ったのだ。
仕事も忙しくないので、一か月の休暇を取ることにして一緒に行くことになった。
合計二十三名。連結馬車も数を増やしたので、みんな乗ることができる。
俺はヒコロクとヤタロウに近づいて撫でる。
「お前たち、連結馬車が増えて重量あるけど、頼むな」
『わうう』『おふう』
任せなベイビー……と、言っている気がした。
全ての準備が完了したので、俺が代表でみんなに言う。
「えー、これから海の国ザナドゥに行きます。ヒコロク、ヤタロウの速度から計算して、四日ほど車内で過ごしてもらいます。腹が減ったら食堂車へ、バーカウンターもあるので酒も飲めます。あと間食は売店で……大浴場もあるので、自由に使ってください。というわけで……皆さん、海の国ザナドゥに行くぞ!!」
「「「「「おおー!!」」」」」
さあて、二度目のザナドゥ、準備万端で行くぜ!!