二度目のザナドゥへ向けて
さて、もう六月……月日が経つのは早いぜ。
濃密な毎日のおかげで、忙しくもあり充実している。
四大……いや、もう五大商会か。五大商会となったアレキサンドライト商会だが、俺に何か影響あるかといえば特にない。
忙しいのか、サンドローネやリヒターが顔を覗かせることが少なくなったくらいだ。
今日も、俺は欠伸をしながら出社……事務所に入り、窓を開ける。
『ほるるる』
「おー、ありがとよ」
二階の窓から、伝書オウルのバニラが新聞を渡してくれる。
新聞の契約形態を変え、早朝にバニラが新聞社まで新聞を取りに行くようになった。ついでに、足りない物とかの買い物も任せられる。
二階の窓辺を少し改造し、止まり木っぽい棒を取り付け、餌用の皿も置いた……鳥のくせに、餌皿から器用にエサを食うんだよなあ。
室内用の止まり木もあるし、普段は外の止まり木で休み、俺が買い物を頼んだり、早朝には新聞を届けてくれる。
押し付けられた感じで飼うことになった伝書オウルだが、意外にもかなり役立っている。
俺は餌皿に、伝書オウル用の練り団子を入れ、水皿にたっぷり水を入れると、犬猫みたいに口を寄せて器用に食べ始めた。
俺はコーヒーを淹れ、椅子に座って新聞を読む。
「お、夏の新製品か……へえ、冷風機。エアコンとは違うやつか。アレキサンドライト商会じゃないところから出るのか……」
ちなみに、エアコンは去年発売したアレキサンドライト商会の主力の一つだ。
今年も夏前の今、注文が殺到しているとか……涼しさが違うもんなあ。
「……ふむ」
夏か。
今年もあと一か月で夏になる。もちろん、一か月ほどバカンスでザナドゥに行く予定だ。
やりたいことのリストに、『パラセイル』や『スキューバダイビング』がある。他にもマリンスポーツは豊富にあるし、ザナドゥではモーターボートエンジンを使った大会が開かれるとか。
去年は飲み屋とプライベートビーチくらいしか行かなかったし、ザナドゥの観光とかもしたいな。
「よし。ゴーカート作ろうと思ったけど、海用のアクティビティ魔道具作るか」
◇◇◇◇◇◇
「おっさん、いるー?」
「おじさま、こんにちは」
「……おじさん、遊びにきた」
「やっほー、いるかしら?」
一階で作業をしていると、ロッソたち四人が遊びに来た。
俺は開発していた魔道具をテーブルに置き、汗をぬぐう。
「おう。いやー、暑くなってきた。夏も近いな」
「それそれ。おっさん、果実水飲ませて~」
ロッソが二階へ。
するとアオ、俺が作っていた魔道具を見て言う。
「……おじさん。何か作ってたの?」
「ああ。今年の夏もザナドゥに行くからな、今のうちに、使えそうな魔道具を作ってるんだ」
「まあ。ふふ、ザナドゥに行くということは、わたくしたちも一緒ですわね」
「そうだな。その件もあとで話そうと思ってたんだ」
「ね、ね、ゲントク。これはなに?」
ヴェルデが興味津々なのか聞いてくる。
「こいつは『ダイビングボンベ』だ。このボンベの中に『空気』が入っててな、このチューブを通って、レギュレーターを咥えて吸う」
ファーストステージとかセカンドステージとかあるけど、細かい仕組みは割愛。
親父と爺ちゃんと旅した時に、沖縄でダイビングやった経験が生きたぜ。
酸素ボンベ……中には酸素じゃなく、圧縮した空気でもなく、『空気』と彫った魔道具が設置してある。十ツ星の魔石なので、恐らく年単位で空気を放出するだろう。
「そして、このジャケットには小型化した水中スクーターが設置してある。着ればジャケットのスクリューが回転して、泳ぎを補佐してくれる。これは普通のフィン……足に着けるヒレみたいなヤツだな。一応、ラバーコブラの皮を使ったスーツも作ってみた。これらひとまとめにして、『ダイビングセット』っていう魔道具だ」
「「「おおおー」」」
酸素ボンベ、レギュレーター、フィン、スーツに、水中スクーター内蔵のジャケット……これがあれば、スキューバダイビングを楽しめるだろう。
ちなみに……最初間違えて酸素ボンベの魔石を『酸素』にして、吸った瞬間死にかけたのは内緒だ。試しに『空気』にしたら普通に吸えたのでよかったぜ。
「……おじさん。ダイビングってなに?」
「海に長時間潜って、海底の景色とかを楽しむ遊びだな。楽しいぞ」
「……私の魔法なら、水中で呼吸もできる」
「そ、そうなのか? まあ……せっかくだし、俺は自前の魔道具でやるよ」
「私も、一緒に遊んでいい?」
「もちろん。みんなで遊ぼうな」
「……うん」
アオは嬉しそうに微笑む……うんうん、可愛いやつめ。
すると、二階からロッソの声。
「ちょっと、なーにしてんの? みんな休憩しようよー」
とりあえず、ザナドゥに行くことについて、ちゃんと説明しないとな。
◇◇◇◇◇◇
全員で二階に行き、飲み物を飲みながらザナドゥに行くことについて説明した。
そしてロッソ、クッキーを食べながら言う。
「もちろん、今年もアタシたちザナドゥに行くよ。依頼も溜まってるだろうしね。おっさんが行くならアタシたちも行くし!!」
「そうですわね。それに、マリンスポーツ大会……面白そうですわ。それ、わたくしたちも参加できますの?」
「……遊びたい。おじさんと」
「う、海かぁ……」
と、ヴェルデが微妙な顔をしている……するとロッソが。
「そういやアンタ、泳げないんだっけ」
「う、うるさいわね。別にいいでしょ……ふん」
「あっはっは。ま、アンタは砂浜でゆっくりしてればいいわ。ね、おっさん」
「泳げないのか……でも一応、ヴェルデ用の『水中スクーター』も作るか」
「なにそれ?」
「ふふふ。ヴェルデ、きっと気に入りますわよ」
というわけで、ロッソたちもザナドゥに行くことが決定。
連結馬車もあるし、ヒコロクに引いてもらえば快適な旅ができる。
「さて、夏までにいろいろ作っておくか。向こうに行って遊ぶだけにしたいしな」
「ね、ね、他に何作るの?」
「そうだな……パラセイル用のモーターボートが欲しいな。さすがに向こうで船は買うしかないけど……ヒコロクに牽引してもらえば、連結馬車に引っ張ってもらえるかな。あとジェットスキーも欲しいな……あ、パラセイル用のパラシュートも作らないと。昔、親父とスカイダイビングやった時に仕組みは覚えたからなんとか」
「……何言ってるか全然わかんないわ」
「……私もわからない。でもおじさん、ヒコロクなら何でも引っ張れるよ」
くくく、急にやる気が出て来たぞ。
夏に向けて、バカンスの準備……今のうちに、ちゃんと準備しておかないとな。
「よーし、『鮮血の赤椿』!! おっさんと二度目のバカンスに行くぞー!!」
「「おー!!」」
「私は一回目だけどね。むー、なんかくやしいかも」
さて、ロッソたちは一緒に行くことになったし……バレンたちにも聞いてみるかね。