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独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~  作者: さとう
第十四章 独身おじさんと四大商会

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アドライグゴッホ武商会・商会長バハムート

 さて、クレープスが帰り、ロッソたちが帰って数十分後。

 俺は、止まり木で大人しくしている伝書オウルを見た。


「くれる、って言われても……うちにはもう猫二匹いるんだがな」

『ほるるる』


 のんきに鳴きやがって……とはいえ、このまま放りだすのもな。

 頭がいいって聞いたけど、どうも俺の言葉を理解してるっぽい。伝書ってことは、手紙を運んだりできるのだろうか。

 やれやれ、ペットはもういらないんだがな。

 そう思っていると、事務所のドアがガンガンとノックされ、返事をする前に開いた。

 入って来たのは、二人の竜人。


「え、ちょ、なんだあんたら」

「失礼する」


 低音のハスキーボイスと共に入って来たのは、深紅の竜麟、赤い特注ローブ、枝分かれしたツノを持つ巨大な竜人、アドライグゴッホ武商会の商会長バハムートだった。

 入口が狭いのか、中腰で入って来る……部屋の天井が低いのか、やや不満そうに言う。


「人間の建物は小さくて敵わんな」

「……そりゃどうも。それで、何か用事か?」

「ふ。そう気を悪くするな。お前と話をしたいだけだ」


 バハムートはソファに座る……ソファがぎしぎしと軋んだ。

 座ってもツノが天井にぶつかりそうだ。

 すると、護衛の竜人が綺麗な装飾の施された箱を俺に手渡す。


「手土産だ。竜王国でも滅多に手に入らない『ドラゴンスフィア』という名酒だ。ワシの秘蔵酒の一本、お前にくれてやろう」

「あ、ありがとう……め、名酒」


 箱を開けると、綺麗なガラス瓶に東洋の龍みたいなのが巻き付いたボトルに、エメラルドグリーンの輝くような液体が入っていた。さ、酒……どんな味がするのかな。

 とりあえず、俺もバハムートの対面に座る……ここまでされて、客として迎えないわけにはいかない。

 

「それで、話って?」

「……スカウトだ」

「悪いけど、お前の商会に入るつもりはない。さっきも言ったけど、俺は自分の知識、技術を、誰かのために率先して使うようなことはしない。思い付きで、俺がしたい、やりたい、気になった人を助けたいときにだけ使う」

「ふ……そう言うだろうと思った。ショウマの武器に対する知識は浅かったが、お前はどうやら違うようだな」

「……あんたも、ショウマのこと知ってんのか?」


 一年くらいしかいなかったわりに、けっこう知名度あるんだな。

 バハムートは頷くと、後ろに控えていた護衛が木製の箱を開ける。

 そこには葉巻が入っていた。バハムートは咥えると、護衛がマッチで火を着ける。

 スパスパと煙草を吸う……この香り、俺が吸うような身体にいい煙草じゃない、俺が地球で吸っていた身体に悪い系の煙草みたいな香りがする。


「ショウマは、生意気なクソガキだ。知識は浅かったが、戦闘に関する才能は秀でていた。リオが甘やかしていたが、納得できた」

「へー、甘やかしていたか……弟子みたいなことは言ってたけど」


 俺も煙草を吸う。ああ、ちゃんとバハムートの前に灰皿出したぞ。


「ウェンティはショウマの知識から商会を発展させたが、ワシはあいつから得るものはなかった。が……ゲントク。お前の知識が欲しい」

「武器に関することは、絶対に嫌だ。俺は小さい人間だからな、嫌なモンは嫌だ」

「……ほう。このワシを前に、そこまで強気でいられるとはな」

「これが俺だ。怖いし、ビビる時はビビるし、情けないことも多いけど……絶対に譲れないことはある」

「……フ。いい目をしている。ショウマと似た、芯のある目だ」


 バハムートはニヤリと笑い、咥えていた葉巻が一瞬で燃え尽きた。

 わかっていたけど……こいつ、メチャクチャ強いな。俺なんか一瞬で消し炭とか挽肉になっちまうぞ。


「お前のような男が第四降臨者というだけでも収穫だった。金輪際、武器に関することを質問しない、助言を求めないと誓おう」

「お、おお」

「それと……友人としてなら、話をしてもいいだろうか」

「……まあ、いいけど」

「フ……今度、ワシの商会にある工房を見せてやる。ドワーフ族を従えたワシの工房は、世界で一番の規模を持つ工房だ。見て損はないと思うぞ」

「それは普通に興味あるな……」


 バハムートは立ち上がり、中腰になって事務所を出た。

 俺も一緒に外へ出て見送る。


「なあ、用事って、魔導武器に関することだけなのか?」

「それ以外に何がある? ワシは、この世界で一番の武器商人だ。新たな知識を求めるのは当然だ。だが……それが無理ならば、それに時間を費やすわけにはいかん。ワシの寿命はあと二百年もないのだからな」

「……寿命」

「竜人の寿命は二千年だ。あと二百年しかないのだから、時間は大切に扱わねばな」

「そう言うんだったら、俺とメシ食ったり酒飲んだりする時間は無駄じゃないのか? というか、こういう会話も無駄かもな」

「無駄ではない。ショウマと同じ世界の人間と話すことなど、もうないだろうからな」


 ……その言葉を聞いて、なんとなく察した。

 恐らく、ショウマはバハムートと友人関係だったのではないか。たった一年の滞在だったショウマは、バハムートの心に、大事な何かを残したのではないか。

 そう思っていると、バハムートは言う。


「ショウマは、馬鹿だった。知識も足りず、ワシにとって何の利益ももたらさなかった。だが……奴と過ごした時間は、千八百年の生の中でも、特に輝いている……」

「友人、だったんだな」

「……フ」


 バハムートはそれ以上言わず、去って行った。

 その背中を見て、俺は思った。

 本当は、魔導武器なんてどうでもよく、親友のショウマと同じ世界にいた俺と、普通に会話したかっただけなのかもしれない……と。

 俺は、バハムートの背中に向かって言う。


「おーい!! 連絡くれるなら、飲みに付き合ったりはできるからよ!! 俺の行きつけにで奢ってやるよ!!」


 バハムートは立ち止まり、顔だけ振り返った。


「……そのうちな」


 バハムートは、ほんの少しだけ微笑んでいるように見えた。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、再び事務所に戻り……バハムートが座ったせいでメチャクチャ凹んだソファを見る。


「買い替えかな……もっと頑丈なの買うか」

『なぁご』

『ニャア』

『ほるるる』


 猫二匹とフクロウが慰めるように鳴いた。やれやれ、可愛いぜ。

 なんというか、今日はすげえ疲れた……と、思っていると。


「ゲントク、いる?」

「こんにちは~」

「…………」


 サンドローネ、ミカエラ、アベルにリヒター、『殲滅の薔薇(アナイアレーション)』の三人が入って来た……なんかもう今日は疲れたぞ。

 サンドローネは俺を見て言う。


「なに、その顔」

「……お前らさ、みんな俺のこと大好きだよな」

「は?」


 俺は、会場を出てからウェンティと飲み、クレープスが伝書オウルをくれたこと、そしてさっきまでバハムートがいたことを説明。

 もうめんどくさいのでサンドローネたちにお茶は出さない。

 バハムートが座って凹んだソファに並んで座るミカエラ、サンドローネ。


「ふふ。ゲントク様は人気者ですね」

「すっげえ嫌な人気だけどな。というか、久しぶりだなミカエラ」

「ええ、お久しぶりですね、ゲントク様」


 ミカエラ。相変わらず桃色がメインカラーなんだな。

 サンドローネと一緒に来るなんて思わなかった。


「お前ら、なんか用事か? 今日はもう帰りたいんだけど。マジで」

「あなたがさっさと帰るから。こうして会いに来たんでしょうが」

「……で、用事は?」

「とりあえず、ちゃんと言っておこうと思ってね」


 サンドローネは、真っすぐ真剣な目で言う。


「ゲントク。あなたのおかげで、アレキサンドライト商会はここまで成長した。あなたの存在に、知識に、努力に感謝します」

「……え、なんだいきなり」

「一度、ちゃんと言っておきたかったのよ。ミカエラはたまたま一緒になっただけ」

「ふふ。サンドローネちゃんとお茶でもしようと思ってお誘いしたの。ゲントク様のところに行ったあとでなら付き合ってくれるってね」

「なるほどな。と……サンドローネ、そんなことより聞いていいか?」

「……何?」


 俺は、伝書オウルを指差した。


「こいつ、エサ何食うんだ?」

「……それ、今聞くこと? 私、あなたに感謝してるんだけど」

「そういうのは、言いっこなしだ。俺だってお前に感謝してるけど、面と向かって礼なんて言わないだろ。というか、俺がこの世界で快適に暮らせるのはお前のおかげだ。感謝する……はいおしまい。で、こいつどうすればいい? なんか俺が飼うことになりそうだ」

「……はあ」


 サンドローネは苦笑した。

 まあそういうことだ。俺とこいつの間に、こっぱずかしい感謝の言葉なんて必要ない。


「リヒター、伝書オウルについて説明」

「はい、お嬢」


 リヒターは、どこか嬉しそうに俺に伝書オウルについて説明してくれた。

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― 新着の感想 ―
ミカエラとアベルが出てくるだけで読む気力がどっと減る
お酒、格好いいなあ どうやって飲むかなあ
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