独身おじさん、会合に出る②
「まずは私、アレキサンドライト商会商会長サンドローネより……此度は、四大商会の会合に参加するという名誉を……」
サンドローネが難しい言葉でしゃべり始めた。
どうやら「アレキサンドライト商会を四大商会が認めてくれてありがとう!! これからは五大商会としてよろしくね!!」みたいな挨拶をしている。
難しいので、俺は聞きながら部屋の中を見渡してみた。
(やっぱすげえな……)
嫌でも視界に入るのは、竜人……確か、アドライグゴッホ武商会だっけ。そこの商会長であるバハムート。バハムートとか名前かっけえな。
真紅の竜麟、枝分かれしたツノ、後頭部からは鬣みたいなのが生えている。赤い豪勢なローブを羽織り、威圧感だけじゃなく高貴さも感じられた。
今は腕組みし、目を閉じ、サンドローネの挨拶を聞いている。よく見ると後ろには細身の竜人が二人立っていた。たぶん護衛っぽいな。
「にしし」
そして、俺がチラッと見ると同時に笑みを浮かべたのは、小学三年生くらいの男の子……ではなく、妖精族の……ああ、ウェンティズ食品商会だっけ。そこの商会長だ。
緑色の礼服に、背中からトンボみたいな翅が生えている。顔付きはどう見ても子供だけど……異世界あるある、子供っぽいけど俺より年上……だよなあ。
護衛は……おお、意外にも獣人だ。ハーフの女性獣人が二人……だけど、顔立ちが似ている。姉妹かな?
「…………ふぅ」
そして、ふつーに煙管で煙草を吸うのが、喪服っぽい黒いドレスに帽子を被ったお団子ヘアのエルフ女性。『蟹座の魔女』クレープス・キャンサーだ。
黄金の煙管で甘い香りを吐き出す美女。黄金煙管……昔のゲームであったな。黄金キセルを振り回す義賊のゲームが。あの煙管の先端、もしかしたらチェーンになって伸びるかもしれん。
俺が見ているのに気づいたのか、チラッと見て目を細めた……い、色っぽ過ぎるぞ。
護衛は……普通の人間かな。十六歳くらいの少女……あれ、この子の恰好、なんか着物だな。それに腰に……おいおい、刀差してるぞ。
「…………」
そして、サンドローネの挨拶を聞いてニコニコしているミカエラ。
桃色のロングヘア、桃色の瞳、桃色のドレスと、とにかくピンクだ。でも上品なピンクであり、高貴さすら感じ……て、おいおい。
今気づいた。ミカエラの護衛、バレンたちじゃん!! ウングも、リーンドゥもいる!! き、気付かなかったぞ。
「以上を持ち、挨拶とさせていただきます」
あ、サンドローネの挨拶終わった……やべえ、何も聞いてなかった。
すると、ウェンティズ食品商会のウェンティが、手をパチパチさせながら言う。
「いやー、サンドローネちゃんもついに、ボクら四大商会の仲間入りだね!! ああ、もう五大商会か。あはは」
「ありがとうございます。末席として、皆様の期待を裏切らないことを誓い」
「違う違う。あのさ、サンドローネちゃん……別に、ボクら全員、期待なんてしてないよ」
「えっ」
サンドローネは思わず顔を上げる。
そして、他の三人もサンドローネを見ていた。な、なんだろう……みんな同じような目をしている。
「きみに期待なんかしていない。同時に、ボクらはみんな、お互いに期待なんかしていない。キミがこの席に座れるのは、キミの功績が素晴らしかったからだよ。だから、ボクらなんてどうでもいいんだ。ここでのルールは一つ。四人全員が『不必要』と決めたら、その場で除名。商会の解体をしてもらうよ」
「っ!?」
しょ、商会の解体って……アレキサンドライト商会が、消滅するってのか?
驚いていると、ミカエラも言う。
「サンドローネちゃん。それは、サンドローネちゃんも同じだよ?」
「……私も?」
「うん。私たち四人が、世界最高の『五大商会』に必要ないと感じたら言えばいいよ。それで、全員が同意すれば、商会は解体される。世界最高の商会って人々は思っているから、それが必要ないってわかれば、解体するしかないよね」
「…………」
な、なんか怖くなってきた。ってか、俺この場に必要か?
そして、バハムートが言う。
「『世界最高』という名誉を背負うだけで、商会は成功を約束される……その名に泥を塗る行為をすれば、消されるのは至極当然である」
声おっも……渋くていい声してやがる。
とりあえずわかった。五大商会……これは、世界最高の商会っていう『名誉』なんだ。それに相応しくない、たとえば……デカい不祥事とかやらかして、五人のうち四人が『こいつ相応しくないわ』ってなったら、その商会は消滅する。自分で商会を閉めることができなければ、四人の商会が徹底的に潰すだろう……って、自分で思って怖いんだが。
サンドローネは驚いていたが、すぐに笑みを浮かべた。
「それならご安心を。アレキサンドライト商会は、世界最高に相応しい商会として活動しておりますので……」
「それってさ、そこにいる第四降臨者のゲントクのおかげだよね~」
と、ここで俺に話が振られた。
みんなの視線が一気に集中……まあ、俺は別に権力者に対してへーこらするような男じゃないんで、普通に言わせてもらう。
「ま、俺は好き勝手やってただけだ。サンドローネがそれを形にして、世に送り出した。だからサンドローネは成功したんだろ」
「お~、いいこと言うねえ。さっすが異世界人」
っていうか……こいつ、ウェンティ。普通に異世界人とか言いやがる。
俺が異世界人だってことを知っているのは、ロッソたちとサンドローネたち、あとは十二星座の魔女くらいのはずなんだが……まあ、バレて困ることはない。
「ねえゲントク。一度、ボクの商会に遊びにこない? ショウマのいた世界のこと、もっと知りたいんだよねえ」
「ショウマって、お前知ってんのか?」
「うん。リオの弟子だよね。一度会って話聞いたことあるんだ。コンビニの発想はそこから得たんだよね」
「ほー、コンビニの知識はそのショウマってやつから得たのか。まあ、納得」
と、なんかサンドローネに睨まれているのに気づいた。
ウェンティも「あはは」と笑う。
「ごめんごめん。世間話はまた今度にしよっか。今度お土産もって遊びに行くよ」
「おう。でも、最近は忙しいから、いきなり来ても相手できないからな」
「……ぷ、あはは!! そうだね、わかったよ」
なぜかウェンティは笑った。そして、バハムートが俺に言う。
「ゲントク。第四降臨者か……ワシも、貴様の世界の『武器』に興味がある。魔導武器で再現……」
「悪いな。俺は魔導武器に関わるつもりないんで」
「ほう……貴様、すでに魔導武器を作り、自身で使っていると聞いたが?」
「そりゃ俺は使うさ。俺が嫌なのは、俺の考えた武器が世界に広まって、殺しの道具になるのが嫌なんだよ。俺が、俺のために作って、俺が身を守るためなら作るさ」
「……貴様は、それでいいと考えているのか?」
「ああ。ご覧の通り、主人公でもない、町の電気工事士で、使命を帯びて異世界転移したわけじゃない。嫌なことは嫌だし、やりたくないことはやらない、小さな男さ」
「……面白い。ワシも、土産を持って遊びに行くとしよう」
「悪いが、あんたは怖いし、正直近づきたくないので遠慮する」
みんな愕然としているが、俺は言う……なんか、この場では縮こまるより、俺らしく返事をするのがいい気がした。
そして、甘い煙を吐き出すクレープス。
「……私は、あなたにお願いしたいこと、あるわ」
「アツコさんの遺品か? 修理できるやつだったらやってやるよ」
「十億、用意するわ」
「いらん。ってか魔女の間で俺の仕事は十億って共有するなっつの。モノ次第だけど、適正価格で受ける」
「……そう。じゃあ、近々持っていく」
「ああ。何度も言ってるけど、いきなり来るなよ」
なんか疲れてきた。
ミカエラを見ると、ニコニコしながら手を振るだけだった。
「……では、私の話に戻ります」
サンドローネが話を戻し、会合は続くのだった。
あー疲れた。とりあえず、商会長たちがどんな連中なのかわかったぞ。






