平穏からの不穏
さて、俺が四大商会の会合に呼ばれるというイベントを回避した翌日。
俺は職場で魔道具の修理をしたり、コーヒーメーカーを作ろうと図面を引いたり、車を作るのに必要な素材の発注とかを考えていた。
一階の作業デスクで図面を書いていると。
「にゃあー」
「わううー」
「ん? おお、ユキちゃんにシアちゃんか」
わんにゃんコンビがやってきた。
クロハちゃんとリーサちゃんがいないな。
「にゃう。今日はかぞくでおでかけだって」
「そうなのか。よしよし、ゆっくりしていってくれ」
「わうう」
二人を撫でる。二人は公園に行き遊び始めた。
それから数十分後。
「おっさん、いる? 遊びに来たよー!!」
「……こういうの、なんか久しぶり」
「確かにそうですわね。おじさま、お土産の魔石ですわ」
「あー疲れた。ゲントク、飲み物ある?」
一気に姦しくなった。
ロッソ、アオ、ブランシュにヴェルデが入って来る。
俺は作業を中断し、ロッソたちに向き直る。
「おお、いらっしゃい。なんかお前たちが土産持って顔出しするの久しぶりだな」
ブランシュからもらった土産の魔石(すげえ、九つ星)を金庫に入れ、二階の事務所へ。
ロッソたちはソファに座ったり、お菓子や飲み物を食べたり、大福やきなこに構い始める。
俺も煙草を吸い、コーヒーを淹れた。
ヴェルデが、テーブルにあった新聞を見ながら言う。
「ね、ゲントク。アレキサンドライト商会が四大商会の会合に呼ばれて、五大商会になるって町で噂になってるけど……本当なの?」
「ああ。サンドローネのやつ、喜んでたぞ」
「……おじさん、面倒事には巻き込まれた?」
「回避した!! しばらくはここで仕事するぞ」
いやマジで。
すると、事務所のドアが開いてユキちゃん、シアちゃん、そしてポワソンが入って来た。
「にゃー、おやつ」
「おなかへったー」
「久しぶりね、ゲントク。来客中だけど、いいかしら?」
「ああ、いいぞ。と……そういやみんなポワソンのこと知らないな」
ポワソンを紹介。みんな「かわいい~」って言ってる……二千歳超えた合法ロリだけどな。
ユキちゃんはブランシュに抱っこされながら、大福ときなこに白玉を従えておやつ、シアちゃんはロッソに抱きしめられおやつを食べていた。
ポワソンは、新聞を見て言う。
「四大商会ね……ゲントク。会合に呼ばれたと聞いたけど?」
「俺がそんなめんどくさいのに行くわけないだろ」
「まあ、確かにね。ミカエラがあなたのことを気にしていたわ。ふふ、優秀な魔道具技師として、四大商会の子供たちに紹介したかったのかもね」
「子供ねえ……」
俺は煙草に火を着ける。
ポワソンからすれば子供なんだろうが、俺からしたら雲の上の存在だ。ミカエラは知ってるけど、最後に少し険悪なまま別れたから、正直これ以上関わりたくないんだよなあ。
「ゲントク。四大商会について、どのくらい知っているかしら?」
「いや、興味ないし全然」
「ふふ。なら、説明してあげましょうか?」
「いや別にいい」
「はいはーい!! アタシは気になるかも。ってか面白そう!!」
「……私も」
「わたくしも少し気になりますわね」
「私は別に」
「にゃああ」
「わうー」
みんな気になるのかい。
ポワソンはクスっと微笑み、説明を開始した。
◇◇◇◇◇◇
「まず、一つ目。私たちの姉妹、『蟹座の魔女』クレープス・キャンサー……彼女はお金の仕組みをこの世界に広めたの。『ゴールデンドーン大銀行』の頭取よ」
「今更だけど、エルフってすげえ長生きだな」
お金の仕組み……まあ、アツコさんが教えたんだろうな。
ロッソは、硬貨を数枚出して弄ぶ。
「お金かあ。当たり前のように使ってるけど、これを作った人がいるのねー」
「そうね。この王都には『造幣局』があるけど、その責任者はクレープスよ」
蟹座はお金、と覚えておくか……まあ、造幣局の責任者だからって自由にお金を作れるわけではないと思いたいけどな。
「そして、あなたたちが当たり前のように使っている武器防具を作っている、『アドライグゴッホ武商会』……ドワーフ族を束ねる、竜人族の王バハムートね」
「あ!! アタシの剣、そこで作ってもらったのよ」
「わたくしの槌もですわ」
なんと、ロッソたちもお世話になっていた。
ドワーフはもう何度か見ている。そして、ドワーフ族を束ねるのが希少種族である『竜人族』だ。その竜人族の王であるバハムートが興した『アドライグゴッホ武商会』が、四大商会の一つか。
竜人族の王……いや、普通に関わりたくねえ。
「三つ目。『ウェンティズ食品商会』……知ってるかしら?」
「当然よ。王都にだけでも数百の店舗があるんじゃない?」
「……お菓子、よく買う」
ヴェルデ、アオが言う。
俺も名前だけは知っている。まあ、異世界のコンビニみたいなもんだ。
買い物はしたことないな……煙草とか、簡易的な魔道具も売ってるようだが。
「商会長のウェンティ・ラプライヤー……彼は私も驚く頭脳の持ち主ね。希少種族である妖精族の中でも、異端と言うべきかも」
「そんなヤバイやつなのか……?」
「ヤバイというか、すごい、かしらね。一度話せばわかるわ」
うーん、こっちもあまり関わりたくないな。
妖精ねえ……どんな見た目してるのかは気になる。やっぱ背中に翅生えてんのかな。
「そして、あなたたちもよく知る、ミカエラ・クライン。クライン魔導商会ね」
「ミカエラか……元気にしてるか?」
「ええ。『雷』の研究にのめり込んでいるわ。成果は思わしくないようだけど」
ミカエラか……こっちもあんまり会いたくないな。
ここまで聞いたけど、曲者っぽいのばかりだな。
すると、外の階段を上がる音が聞こえ、ドアが開いた。
「ゲントク、いる……多いわね」
サンドローネだ。
なんかイヤな予感する。
「おう、どうした?」
「……単刀直入に言うわ。やっぱり、会合に出てくれない?」
「…………お前な」
「わかってるわよ。でも、商会の今後を考えると、やっぱりあなたがいてくれた方が助かるの。今回の会合の仕切りも、アレキサンドライト商会で行うことになったからね……形式上、私とあなたは相互契約しているような形でしょう? あなたを会合に呼ぶことができないとなると、足元を見られるのよ」
「むー……」
「報酬は支払うし、会合に出るだけでいいわ。それだけでいい……お願い」
「……わーったよ。ったく、その代わり、ここにいる全員に晩飯奢れ」
「……え、それでいいの?」
「ああ。よしみんな、今日はサンドローネの奢りだ!! 肉でも魚でも何でもいいぞ!!」
「やったー!! おねーさん、ごちになりまーす!!」
ロッソが大喜び。すると、いつの間にかいたエディーがシアちゃんの元へ。
「わうう、エディー」
『わおぅん』
「シアちゃん。晩ごはんだけど、一緒に行くかい?」
「わうう、いきたい」
「よし。じゃあ、ドギーさんとベスさんも呼ぶか。おいサンドローネ、いいだろ」
「ええ。好きなだけ知り合いを呼んでいいわ。そうね……リヒター、トレセーナのところへ。今夜は貸切にするから。それと、ドギーさんたちに声かけてきて」
「はい、お嬢」
「にゃああ。おかあさんもよんでいい?」
「ええ、いいわよ」
「にゃううー」
というわけで、今日はサンドローネの奢りで晩飯だ。
はあ……イェランの言った通りになっちまった。結局、四大商会の会合に出ることになってしまった。