やってきました!! 面倒事!!
さて、もう夕方だし場所を変えて話すことにした。
大福、きなこにエサをやり、水入れにたっぷり水を入れて事務所を出る。
いつもは大福だけだが、これからはきなこも一緒……正直、どっちかは家にいてほしい。
と、俺とサンドローネ、リヒターにファルザン、そして途中でイェランが合流。久しぶりになじみの居酒屋に入り、個室を取った。
酒につまみを注文し、みんなで乾杯。
「っぷぁぁぁ!! 仕事終わりのエール最高ぅ!!」
「同感っ!! おかわりお願いします!!」
「俺も俺も!!」
キンキンに冷えたエールを飲み、つまみの漬物を食べる……ああ、うまい。
イェランも煮込みを食べ、おかわりのジョッキを俺に向けた。
「ゲントク。あんた、まーた新しい魔道具作ったんだって?」
「ああ。シェーバー……ひげ剃りだ。男の朝の儀式で使う道具なんだよ」
「……朝の儀式?」
「ひげ剃りだよ。な、リヒター」
「ええ。仕様書を見ましたが、いい魔道具ですね」
「だろ? 俺、この世界でカミソリ使って髭剃ってたけど、やっぱ怖いんだよなあ。前々からシェーバー欲しいと思ってたんだ」
サンプル、仕様書はリヒターのカバンに入ってる。
俺はファルザンを見つつイェランに言う。
「イェラン、ファルザンも協力してくれたんだ。共同開発ってことにしてくれ」
「いいけど……」
「ゲントク。ワシは何もしておらんぞ。従業員の髭を貸しただけじゃ」
ファルザンは、焼き鳥を食べながらエールを飲む。まあ、確かにその通り。
俺は笑い、ファルザンの皿に俺の焼き鳥を置いた。
「はっはっは。じゃあ、髭を貸してくれた髭の人に、臨時ボーナスでもやってくれよ。あんな立派な髭をキレーに剃っちまって……って、サンドローネ、さっきからなに黙ってんだ?」
「あのね……あなた、ファルザン様にタメ口とかやめてくれない? この方、どんな方か知ってるの?」
「知らね。でも、俺はこういう人間だしな。な、ファルザン、いいよな?」
「うむ。むしろ、今更敬語など気色悪くてかなわん。ワシにこういう口を聞ける人間はそれだけで貴重でありがたいものじゃ。サンドローネ、お主も硬くなっとらんで、たくさん飲め。ほれほれ」
「ひゃっ!?」
ファルザンは、人差し指でサンドローネの胸をぷにぷに差す……うおお、柔らかそう。
サンドローネは赤くなり、胸を押さえた。
「ふぁ、ファルザン様……その、お戯れが過ぎますわ」
「はっはっは。すまんな、サンドローネ……と、ゲントク、ワシの話をそろそろいいかの?」
「ん、ああ。酒入っちまったから、ちゃんと聞けないかもしれないけどな」
「あなた、ちゃんと聞かないと怒るからね」
「お、おお……」
「リヒター、アタシら黙ってた方がいいかな?」
「そうですね……静かにしてましょうか」
イェラン、リヒターは静かになり、ファルザンはエールを一気に飲み干す。
「年に一度開催される『四大商会』の会合に、お主も参加して欲しいのじゃ」
◇◇◇◇◇◇
四大商会、会合。
その名の通り、四大商会の会合だ。それが一年に一度開催される。
俺はエールを一気飲みし、おかわりを注文。
「新聞で見たけど、今年はアレキサンドライト商会も会合に参加するんだよな?」
そう言うと、サンドローネが頷く。
ファルザンがサンドローネに向かって頷く……どうやら、サンドローネとファルザンの用事は同じのようだ。
「実は、ミカエラがあなたのことを話題に出してね……他の四大商会のトップが、あなたに会いたいって言いだしたの。それで、あなたがアレキサンドライト商会のお抱えってことで、ちょうど国家開発で名を上げたアレキサンドライト商会の会合参加に合わせて、あなたを紹介して欲しいってことになったのよ」
「イヤだ」
当然、断る。
当たり前だ。四大商会? んなクソめんどくさいイベント、俺が行くわけないだろうが。
サンドローネはため息を吐く。
「気持ちはすごくわかる。お願いできない……?」
「あのな。アレキサンドライト商会はもう四大商会……いや、五大商会として名が刻まれてんだろ? 別に、俺が行かないなら行かないでいいだろ別に」
そう言うと、ファルザンが言う。
「うむ。アレキサンドライト商会は、国家建国の補佐という重要な役回りをしたことで、世界に名を轟かせる商会となったのは間違いない。誰もが、四大商会の仲間入りをし、五大商会の末席に加わることに文句を言うまい」
「だったら、俺のこと紹介なんかしなくていいだろ。ってかすんな。俺は、身の丈にあった生活ができればいいんだよ。世界トップレベルの商会の、さらにトップが俺に興味を持つとか、地獄以外のなにもんでもないっつうの」
サンドローネは「気持ちはわかるわ……」と言う。こいつなら、俺がこういうの大嫌いだと知っているからな。今回ばかりは、色仕掛けでも納得するつもりはない。
俺はファルザンに聞いてみた。
「四大商会……って、なんだっけ」
「ふむ、簡単に言うと……世界最高の雑貨屋と、武器防具販売屋、魔道具屋、あと銀行じゃな。そこに魔道具、開発事業関連のアレキサンドライト商会が加わるというわけじゃ」
「ふーん。あれ……そういや、四大商会の銀行って」
「うむ。クレープスがいる。頭の固い女じゃ」
そうそう、『蟹座の魔女』クレープス・キャンサーだ。
サンドローネは言う。
「クレープス様は、『銀行』のシステムを作ったお方よ。厳密には商会ではないけど……昔は商会をやっていたから、その名残で四大商会にいるの」
「銀行か……ファルザン、もしかしてそれ、アツコさんが?」
「かもしれんの。ワシら全員、アツコの物語の影響を受け、こうして世界に名を馳せておる。ワシだって『フランチャイズ』のことをアツコから聞いたんじゃ。アツコは『ハンバーガー』という食べ物が好きでな。その話を聞いてワシは『フランチャイズ』を知ったんじゃ」
なーるほどなあ。それなら納得……アツコさんがハンバーガー好きってのは知らなかったけど。
「ハンバーガー……あのはんばーぐ、という肉が何の肉か、未だにわからんのじゃ。あんなデコボコした肉、普通の魔獣ではあり得んのだが」
「ハンバーグはハンバーグだぞ。まさか、カットした肉そのままとか思ってんのか?」
「おぬし、知っているのか!?」
まあ、ハンバーグなら作ったしな。
「今度、暇な時に作ってやるよ」
「ぜ、絶対じゃぞ!! 頼むぞ!!」
ハンバーガーか……今度作ってみるか。そういや、この世界にチーズってあったっけ?
すると、サンドローネが言う。
「ゲントク。どうしてもだめ?」
「ああ、悪いが断る。面倒ごと確実だしな」
「そう……まあ、私もあなたを公にして、他の四大商会にちょっかい出されたくないもの」
「俺が嫌がった、って言えばいい。さて、話は終わり!! イェラン、リヒター、喋っていいぞ!!」
「はーい。でもゲントク、アタシはわかるよ……なんだかんだで、四大商会の会合に参加することになるゲントクが!!」
「不吉なこと言うなっつーの」
こうして、俺はイベントを回避。四大商会の会合には不参加となるのだった。
…………と、この時は思っていた。