砂漠から戻って
砂漠での旅を終え、俺たちはエーデルシュタイン王国に戻って来た。
いつも通り、連結馬車は俺の仕事場前に停車……すると、久しぶりの顔があった。
「にゃああ、おじちゃーん」
「ユキちゃんか。それに、スノウさんに……おお、ティガーさんたちも」
「がるる」
「きゅうーん」
「クロハちゃん、リーサちゃんも久しぶりだな」
最初に馬車から降りた俺の元に、子供たちが擦り寄って来た。
みんな可愛い。頭を順番に撫でていると、ユキちゃんが気付いた。
「にゃ……おじちゃん、そのこ、だれ?」
「わうう」
ユキちゃんは、俺の背中にくっついていたシアちゃんに気付いた。
俺はシアちゃんを下ろし、ユキちゃんたちの前へ。
「この子はシアちゃん。これから、エーデルシュタイン王国に住むことになったんだ。ユキちゃんたち、お友達になってくれるか」
「にゃあ。おともだち、うれしい」
「がるる。いぬ?」
「きゅう、いぬみみ」
「わうう……」
シアちゃん、照れているのか俺の背中に隠れてしまう。
だが、エディーがシアちゃんの袖を噛んで引っ張り前に出した。
『おうう、オフ』
「わう……わかった。あの……わたし、シア、よろしくね」
「にゃあ。ユキだよ」
「クロハ。おおかみ」
「リーサ、キツネなの」
子供たちは、すぐにワイワイと喋り出した。
俺が子供に構っているうちに、いつの間にかサンドローネたちも降りていた。
「初めまして。ドギーと申します」
「これはご丁寧に……私はティガーと申します。砂漠から来られた方と聞いています。困ったことがあれば遠慮なくお申し付けください。お力になりましょう」
「感謝します。それと、失礼ですが……ティガーさんは相当な戦士のようで。機会があればお手合わせなどできれば」
「い、いえいえ。私、争いごとは苦手でして……ははは、恐縮です」
純潔の獣人同士、仲良くやれそうだ。
まあ、ティガーさんは相当な戦士に見えるのも間違いない。俺が闘技場で戦ったガブと同じくらいの威圧感あるしな。
「初めまして。ベスと申します。夫ともども、よろしくお願いします」
「こちらこそ。私はスノウと申します」
「私はリュコス。狼獣人です」
「ルナールです。ベスさん、困ったことがあれば何でも言ってくださいね。そうだ、今度皆さんでお茶会でも開きませんか?」
「あら、いいですね。ふふ、子供たちも仲良くしていますし、楽しみですね」
ほっこりするなあ……人妻獣人たちのお茶会とか、優雅さしか感じない。
すると、サンドローネが俺の元へ。
「さて、私たちはこのまま、ドギーさんとベスさんの住居に案内するわ。バリオンに任されているからね」
「バリオンに?」
「ええ。バリオンは砂漠で私の商会の手伝いをしてもらうんだもの。私だって、バリオン不在のアメジスト獣人商会の手伝いくらいするわ」
「ははは。お前とバリオン、いろいろあったけど、今ならフツーに婚約とかしてもいいんじゃないか?」
「冗談。商売人として仲良くするのはいいけど、男女の仲になんてなるつもりはないわ」
サンドローネは真面目に言う。
まあ、こいつはそういうヤツだよな。
そしてロッソたち。ヒコロク、ヤタロウに連結馬車をくっつけたまま来た。
「あれ、連結馬車……外さないのか?」
「うん。おねーさんがくれるって。これ、リヤカーくっつけるより便利なんだよね」
「……おじさん、ごめんね」
「は? いや、何が?」
「おじさま。連結馬車で寝泊まりすれば、おじさまからもらったテントなどを使う機会が減ってしまうので……」
「ははは。んなもん気にすんなって。連結馬車も俺が作ったようなモンだし、使ってくれるなら何でもありがたい」
「まあ、あんたならそう言うと思ったわ。ふふ、二階にキッチンとか置いて、冒険がさらに楽しく、楽になるようにしてもいいよね?」
「好きにしてくれ。ああ、改造するなら、俺のところに来てもいいぞ」
『わううう』
ヒコロクが、モフモフの頭を押し付けて来たので撫でる。
気持ちいいモフモフを堪能していると、ヤタロウも来た。
「ゲントクさん。連結馬車、ありがとうございます」
「おーバレン、いろいろ世話になったな。楽しかったぜ」
「……フン。ヤタロウも、オヤジに懐いた。今度連れてきてもいいか?」
「ああ、ヤタロウのモフモフも気持ちいいんだよな」
『アオオウ』
「ねーねーおっちゃん。ウチに魔導武器作ってよー」
「ははは。遠慮します」
バレンたちとも、さらに仲良くなれた。
砂漠の旅……大変だったけど、面白いものがいっぱいあった。
オアシス、リゾート。そして戦う獣人戦士たちに、砂漠のスパイス。
スパイスは大きな発見だった。お土産にと大量に持ってきたし、トレセーナのところでカレーを作って見よう。ふふふ、カツカレー、ハンバーグカレーと作ってみるのもありかもな。
『うなぁぁご』
「ん? あ、そういやお前のこと忘れてた。すみませーん、スノウさん、いいですかー?」
奥さんたちと井戸端会議をしているスノウさんを呼ぶと、ユキちゃん、大福に白玉も一緒に来た。
大福、白玉、久しぶりだ。俺は遠慮なく撫でまくると、ユキちゃんが俺の傍にいる砂漠猫に興味を持った。
「にゃああ、ねこー」
「まあ、見たことのない種類ですね……」
「ええ。実は、砂漠にいた猫なんですけど、そのままついて来ちゃいまして……一度、下ろそうかと思ったんですけど、嫌なのか抵抗しましてね。話を聞いて欲しいんです」
「にゃうう、おみみ、ふわふわ」
『なあう』
砂漠猫、ユキちゃんにネコミミを触られて嫌そうにしていた。
スノウさんがしゃがんで砂漠猫に聞く。
「初めまして。私はスノウ、あなたは?」
『なぁう』
「よろしくお願いします。ところで、なぜゲントクさんのところへ?」
『うなぁお……ごろろろ』
「なるほど、そういうことですか」
わからん。
砂漠猫は大きく欠伸をして、後ろ足で自分の顔を掻いていた。
そして、大福を見て動きを止め、そのまま二匹でじーっと睨み合う……うーん、睨みあってんのかな?
「ゲントクさん。彼は『ゲントク、お前の文明技術に興味を持った。お前の傍で過ごしたい』と言っています」
「えと、つまり……俺の飼い猫になりたい、ってことか?」
『なあう』
「そうだ、よろしく頼む。と言っています」
なんというか、変な猫だな。
香箱座りしていたので撫でてみる……うん、フワフワするな。
すると大福が、砂漠猫を撫でている俺の手に身体を擦りつけた。
『ごろろろ』
「飼うのはいい。だが、序列は私の方が上だ、と言っています」
大福が砂漠猫をジッと見て言うと、砂漠猫も頷いた。
『ふにゃあご』
「序列に興味はない。お前に迷惑をかけるつもりもない。好きにしろ……と、言っています」
『にゃああ』
「私の邪魔をするなよ、と大福さんは言っています」
険悪なのかね……砂漠猫、大福が顔を寄せ合っている。
すると、白玉が砂漠猫に興味を持ったのか、近づいた。
『ふみゃー』
「おじちゃん、よろしくね……と、白玉さんは言っています」
白玉は友好的だ。
とりあえずもう猫会話はいい。飼うのもまあ……いいか。
「さて、名前を決めないとな。茶色い猫……丸い、茶色い」
砂漠猫をジーっと見る。
茶色く、丸い……イメージ、イメージ……あ、思いついた。
「きな粉餅……よし決めた。お前の名前は『きなこ』だ。きなこ、どうだ?」
『なーお』
「好きにしろ、だそうです」
もっと感動してくれよ……いい名前だと思うんだが。
するとユキちゃんがきなこに近づき、頭を撫でた。
「にゃあ。きなこ、わたしはユキだよ。よろしくね」
『……ごろろ』
「にゃあ。これからいっしょに遊ぼうね」
子供は可愛いな。
さて、ロッソたちも帰ったし、サンドローネたちもドギーさん一家を連れて帰った。ティガーさんたちは歓迎会を開くみたいだな。
残ったのは、俺と大福、そしてきなこ。
「さ~て……うちに帰って休むとするか。大福、きなこ、帰ろうぜ」
『にゃああ』
『ふみゃあ』
「そうだ。きなこ、お前の歓迎会でもするか。酒とツマミ、あとお前が好きそうな魚を買うか。そうと決まれば魚屋行こうぜ」
というわけで……俺は、エーデルシュタイン王国に帰って来た。