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『蠍座の魔女』ルピオン・スコーピオン

 戦いが終わり、控室に戻ると……なんとロッソたち、バレンたちが揃って拍手で出迎えてくれた。

 俺は軽く手を上げ、鎧を脱いで魔法で水球を作って浮かせ、そこに頭を突っ込んで飲む。

 冷たく気持ちいい水を満喫し、顔を洗い、ようやく気を抜いた。


「ああああああ疲れた!! もう二度とこんなことしないぞ!!」

「おっさん、メチャクチャ強かったじゃん!! さっきの光、なんかすごかったよ!!」


 ロッソが興奮し、目をキラキラさせて言う。

 ウング、バレンは脱いだ状態の鎧を見ていた。


「この両手に仕込んである魔石から、さっきの光が出てたのか……恐らく『雷』だね」

「へえ……とんでもねえな」


 悪いがあんまり見ないで欲しい……技術的な云々より、汗メチャクチャ掻いたから鎧の内側がすっごい汗臭いんだよ。

 そしてブランシュ、アオが近付いて来る。


「おじさま、お怪我はありませんか? わたくしが治療しますので」

「ああ、平気だ。怪我はないぞ」

「……おじさん。汗ふくね」

「い、いいって。汚れるから近づかなくていいぞ」


 アオがタオルで俺の顔を拭こうとしたので拒否……さすがに恥ずかしい。

 すると、リーンドゥが俺の背中に飛びついた。


「うおお!? なな、なんだ!?」

「おっちゃん!! やっぱおっちゃんの武器すごい!! ね、ね、ウチにも魔導武器作ってよぉ~!! おねがいいいいい~!!」

「うおお、ちょ、しがみつくなって!!」


 背中に巨乳が当たるぅぅ!! デカいよマジで!!

 するとブランシュ、リーンドゥの首根っこを掴んで引き剥がした。


「こら!! おじさまに迷惑をかけない!! バレン、ウング、あなた方が言わないでどうするんですの!?」

「おっと、悪いねブランシュ」

「……うっせえヤツだな」

「あうう、おっちゃーん……」


 悪いなリーンドゥ、俺は魔導武器職人じゃないので。

 すると、ヴェルデが言う。


「それにしてもゲントク。あの三人を連続で、短時間で倒すなんてすごいわね。見た感じ、あの三人はS級冒険者認定されてもおかしくない実力者よ? 魔導武器の鎧だけで、ここまで戦えるなんて……ふふ、ゲントク、私たち『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』最後の一枠、ゲントクが入ってもいいんじゃない?」

「「「!!」」」

 

 ロッソ、アオ、ブランシュが俺を見る。バレンたちも俺を見たが、俺は首を振った。


「勘弁してくれ。俺は魔道具職人であって、冒険者じゃない。今回のバトルも、ノリというか……いつの間にか決まってしまったというか、本来ならお前らが戦うべきだったと思う。そういや、ダンジョンどうだった?」


 ちょっと強引に話を逸らすと、ロッソが目をキラキラさせた。


「す~~っごく面白かった!! 強い魔獣いっぱいでさ、お宝とかもあった!!」

「……あとは、冒険者ギルドの調査待ち。そのあと、ダンジョンの等級が決まる」

「ふふ。砂漠に来る用事ができましたわ。今度は、町ができて、冒険者ギルドが完成したら来ることにしますわね」


 なるほどな。みんな充実のダンジョン攻略ができたようだ。

 すると、ドアがノックされ、サンドローネとリヒター、バリオン、ユストゥス、リオが入って来た。

 リオは笑顔で言う。


「ゲントク、ご苦労だった……そして、いい試合だった」

「まあ、精一杯やったよ。でも、もう二度とやりたくないね」

「ははは。飛び入りで参加しようと考えたが、しなくて正解だったな」


 いやほんと、大正解だよ。リオが出てきたら俺確実に逃げてたぞ。

 サンドローネが言う。


「さて、砂漠での仕事は全て終わり。あとは帰るだけね」

「ああ。でも、この流れだと……」


 チラッとリオを見ると、大きく頷く。


「もちろん。宴の用意はしているぞ。戦士たちは皆、お前と話がしたいようだ。それに、バリオン殿が持ってきてくれた大量の酒もある。今夜は盛り上がるぞ」

「おお、さすがバリオン」

「あはは。喜んでくれたならありがたい」


 というわけで、砂漠のイベントは全て終了した。

 はああ、ようやく暑い砂漠から帰れるぜ……と、思ったら。再びドアがノックされた。

 リヒターがドアを開けると、入ってきたのは。


「失礼。ゲントク君はいますかね?」


 全員の視線が集中した。

 丸眼鏡、三つ編み、白衣にサンダルを履いた白髪、尖った耳の美少女だ。外見年齢は十代半ばくらいだろうか……眼鏡をクイッと上げ、俺を見てニヤリと笑う。

 リオが「お」と反応し、ユストゥスが顎が外れるんじゃないかってくらい口を開けて愕然とした。


「久しいな、ルピオン。王都で待っているはずじゃなかったのか?」

「イエイエ。くふふ、アツコおばちゃんと同じニオイの方がいるのですから、やっぱり待ちきれなくてね。くふ」

 

 リオは苦笑し、少女を紹介する。


「彼女は、十二星座の魔女、『蠍座の魔女』ルピオン・スコーピオンだ。私たち姉妹の中でも特に薬学に秀でた天才さ」

「リオ。天才は言い過ぎです。それを言うならアナタだって、戦闘の天才ではありませんか」

「ははは。それもそうか」

「ゲントク君。さっそくですが、ワタクシとお喋りしましょう」


 というわけで、俺の前にまた、十二星座の魔女が現れるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 場所を変え、王都建設予定地のスーリヤオアシスへ戻って来た。

 そして、作ったばかりの日干しレンガの家を借り、ルピオンを招いての話になる。

 部屋には俺、興奮したユストゥス、サンドローネとリヒターがいる。ロッソたちは宴の準備手伝いで、ウングだけが俺たちの護衛で残ってくれた。

 ルピオンは、テーブルの上に各種スパイスの入った瓶を並べ、さらにジャングルで採取してきた植物を並べて言う。


「スパイス。これは見事な調味料です。アツコおばちゃんが言っていた『カレー』に欠かせない物が、まさか砂漠で採取できるとは思いませんでした」

「正直、俺もそう思う」

「クフフ。ゲントク君。あなたに聞きたいことがいっぱいありましてね」

「……聞くのはいいけど、俺は医者とか薬剤師じゃないから、お前の得意なジャンルでわかることがあるか知らないぞ」

「ああ、それはいいです。ワタクシ、薬学を探求する者としては、自分で調べたいので」

「そ、そうか……で、聞きたいことって?」

「これです」


 ルピオンは、細い物をテーブルに置いた。


「コレは、アツコおばちゃんが使っていた物なのですが……」

「ボールペンか」


 一瞬でわかった。

 ボールペン。ノック式のではなく、蓋付きのやつだ。

 蓋付き、個人的にはあまり使わない。蓋をなくす可能性あるし、ノック式のが使いやすい。

 

「さすがゲントク君。これで文字を書くということはわかるのですが……インクの補充をどうすればいいのかわからなくて」

「インクか……悪い、それは無理だ」

「え……」


 ボールペンのインクは補充して使える物じゃない。使い捨てだからな。

 万年筆とかだったら違うんだが……さすがの俺も、ボールペンのインクを補充することはできない。


「こいつは使い捨てなんだ。俺のいた世界じゃ、まとめ売りとかされてるくらい普通に使える道具でな」


 ボールペンを借り、蓋を開け、分解してみた……そして気付く。


「あれ?」

「げ、ゲントク君?」


 ボールペンのインクは、ほぼ新品状態でたっぷりあった。

 使った形跡がないぞ、これ。

 リヒターからメモ帳を借りて書いてみるが、文字が全然書けない。


「ゲントク君。書けないということは、インクがないんでしょう?」

「……あー、そういうことか」


 俺は指をパチンと鳴らし、人差し指に火を点ける。

 そして、ボールペンの先を軽く炙り、再びメモ帳に書いてみると。


「お、出た出た。インクが固まって出なくなっただけだ」

「か、書けたのですか?」 

「ああ。ほれ」


 メモ帳を見せると、文字が綺麗に書けていた。

 驚くルピオン。ボールペンをひったくり、メモ帳にスラスラと文字を書く。


「おおお……アツコおばちゃんのペン、ちゃんと使える……あはは」

「よかったな。でも、消耗品である以上、限界は来るぞ」

「わかっていますよ。ゲントク君、キミが知る限りでいいので、このペンについて教えてくれますか?」

「ああ、いいぞ」


 俺はボールペンを借り、メモ帳に断面図を書く。

 たしか、先端がボールみたいになってて、転がることでインクが出る仕組みなんだよな。

 メモ帳を破り、ルピオンに渡す。


「こんな感じだったと思う。細かいところまではわからんけど」

「構わない。くふ、同じのを作ってみよう。インクの成分も研究しないと。くふふ、また楽しみができました」


 ルピオンはニヤニヤしながら、ボールペンを大事そうに懐へ。

 そして、満足そうに言う。


「さて、用事は済んだのでさっそくジャングルに行きますか。あ、修理の報酬は十億セドルですね。振り込んでおきますので」

「いらねえよ!! ってか、魔女の間で『俺に対する仕事の対価は十億セドル』っての共有すんのやめろって!!」

「ははは。まあ、わかりました。あと、ワタクシにお願いがあるなら、なんなりと」

「……お前さ、しばらくジャングルに滞在するんだよな」

「ジャングルというか、この国ですね」

「だったら、この子、ユストゥスにいろいろ教えてやってくれ。この子、お前に憧れてるんだよ」

「えええええええ!? げげ、ゲントク様!?」

「いいですよ。じゃあ、そちらの可愛いエルフちゃん。今日からワタクシの弟子ということで」

「ほわあああああ!?」


 ユストゥスは仰天。

 サンドローネも「まあ、仕事の合間なら」と許可を出してくれた。


「さてユストゥスちゃん。さっそくジャングルに向かいましょう。プラントハンティングをしなければ」

「え、あ、は、はい!! さ、サンドローネ商会長、行ってきます!!」

「ええ。気を付けてね」

「ゲントク様、いろいろありがとうございました!!」

「おう。元気でな」


 ユストゥス、ルピオンは出て行った。

 サンドローネは言う。


「……バリオン。ユストゥスのことだから、仕事とルピオン様の助手を無理してこなすかもしれないわ」

「わかっているよ。ボクの方でも補佐をするから、任せてくれ」

「さーて、話は終わったし、砂漠王国最後の宴会を楽しむか!! サンドローネ、バリオン、今日は飲もうぜ!!」


 さーて、宴の時間だ。楽しむぞ!!

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おっさん粋だね、そりゃモテるわ
人生を好転させるきっかけの一言をさらっと言えるのがなあ
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