独身おじさんの戦い③
さて、気を取り直して……二回戦。
相手は猫獣人のキャシー。スノウさんとは違った色っぽさの猫獣人で、闘技場に上がるなり双剣を抜いて構え、お尻を高く突き上げるような構えを取る……威嚇するネコみたいだな。
俺も構える。武術の構えだ。
「んふふ。バドの空中戦法に真っ向から立ち向かって勝つなんてすごいじゃん。でもね、私はバドよりも速いよん」
「そりゃ楽しみだ。かかって来い!!」
二回戦、開始。
すると、キャシーの身体がブレた。
「へ?」
すると、背中に衝撃……というか、『衝撃吸収』の魔石が機能した。
鎧に傷はない。だが、超接近したキャシーが一瞬で俺の背後に回り、背中を双剣で斬りつけたのだ。
速すぎる。残像しか見えないんだが!!
「「「「「見える? 見えるだけじゃ勝てないよ?」」」」」
残像が同時に喋るので声がブレて聞こえる。
ガキンガキンと全身斬りつけられる……やべえ。痛くないし衝撃も感じないけど、剣で斬られるのめちゃくちゃ怖いんだが!!
俺は両手を開き、とにかく『収束放電』を連射。残像に向けて放つが、かすりもしない。
「うおおおおお!? 当たんねええええええ!!」
「「「「「遅い遅い、ほらほらほらほら!!」」」」
ガギギギギギギン!! と、全身が斬りつけられる。
ウルツァイト・メタルドラゴンの外殻でよかった……まあ『衝撃吸収』の魔石効果もあるけど。
というか、どうすりゃいいんだ。攻撃当たらねえと倒せねえぞ。
「「「「「どうする? このまま削り続けるけど!!」」」」」
「だったら……新武装セカンド!! 『超閃光』!!」
俺は胸部の魔石に思い切り魔力を込める。すると、『光』と掘った魔石が輝いた。
そりゃもう、とんでもない輝き。
至近距離にいたキャシーが叫んだ。
「あああああああああ!? 眼があああああああああ!!」
キャシーの動きが止まり、目を押さえていた。
俺は手首を掴み、柔術の技をかけてキャシーを倒す。
そして、手のひらをキャシーに向けた。
「捕まえた。で、俺の勝ち……どうだ?」
「……負けたわ」
俺の勝ち。いやー、光の目潰し……これ、新兵器というかただ鎧を光らせているだけの魔石だけど、意外な使い方をしちまったぜ。
◇◇◇◇◇◇
三戦目……虎獣人のガブ。
こいつはまあ、ヤバイといか怖いわ。ってか両手に斧持ってるし。
しかも、身長が三メートルくらいある……おかしいな、挨拶した時はこんなデカくなかった。
あ、そっか。ブチ切れたティガーさんも巨大化したっけ。キレてはいないけど、ガブは普通にデカくなれるみたいだ。
「ククク、久しぶりに血沸き肉躍る……!!」
そのセリフ、肉食系の獣人が言うと怖すぎるんだが。
なんか噛まれたら鎧の腕ごと噛み千切られそうな気がする。こ、怖い。
「ゲントクよ。全力で来い!! まだ『力』を隠しているのだろう? 我に全てをぶつけろ!!」
「……えーと、わかった!!」
マジで主人公キャラのライバルみたいなヤツだな。こんな微妙なやる気のおっさん魔導具技師が相手にしていいキャラじゃねえぞ。
でもまあ……最終戦だし、最後のギミックを公開しますか。
「いくぜ、全てが……燃え尽きるまで!!」
俺は、鎧に仕込んだ隠しギミック用の魔石を起動させる。
すると、赤い光を放っていた光のラインが緑色に輝き、鎧の装甲がスライドして変形。顔を覆うマスクも展開し形状が代わり、背中から緑色の光が噴射した。
「名付けて、『セカンドフォーム』!! 鎧の一部をスライド式にして装甲を展開し、赤い光じゃなくて緑色の光を放つようにした!!」
ユニコーン!! って叫べば完璧だが叫ばないぜ。
というか、ぶっちゃけ何も変わっていない。ただ装甲が開き、赤い光が緑の光になり、背中から翼のような緑色の光が噴射するだけの仕掛けだ。
まあ、強化フォームはお約束だ。見た目変わるだけの強化だけど。
だが、ガブは斧を構え嬉しそうに微笑んだ。
「嬉しいぞ、我をそこまでの強者と認めてくれるのだな」
「あ、ああ」
すんません、勢いだけなんで……なんか悪い気がしてきた。
ガブは斧を振り上げて叫ぶ。
「行くぞ、ゲントクううううううう!!」
「うおおおおお!?」
こっっっわ!!
三メートル近い虎獣人が、デカい斧持って向かって来るの怖すぎる!!
ダンプカーが突っ込んでくるより怖ええええええ!!
「うひいいいいい!?」
横っ飛び。
ガブの振り下ろした斧が、リングの床板を破壊した……って、マジかい!?
あんなの喰らったらマジで死ぬ。いや守られるだろうけど……『衝撃吸収』の十ツ星魔石でも、耐えきれるかどうかわからん!!
「ゴアアアアアアアアア!!」
「ひえええええ!?」
怖い、怖い!!
やべえ、真正面から挑む覚悟がねえ!! 軽い気持ちで相手できるやつじゃない!!
苦し紛れに『収束放電』を放つが、ガブは無視して直撃……だが、ほぼノーダメージだ。
すると、ガブが叫ぶ。
「どうした!! 怖気づいたのか!?」
ああそうだよ、怖気づいてるよ!! お前怖すぎるんだよ!!
そう叫びたいが……さすがに情けなさすぎると、最後の最後で心がブレーキを掛ける。
ああわかったよ、もうやぶれかぶれだ!!
「だったら、俺の全魔力……喰らわせてやる!!」
「ははは!! 来ぉぉぉぉぉい!!」
俺は両手を合わせ、魔力を全開にした『収束放電』を放つ。
極太の放電がガブに直撃する……が、ガブは斧で受けとめる。
「ぐぅぬぬぬぬぬうううううう!!」
「おおおおおおおおおお!!」
放電は続く。
ガブの斧が電熱で真っ赤になって溶け落ちた。そして、ガブは両腕を交差して防御しながらゆっくり近づいて来る。
俺は魔力を絞り出し、さらに極太の放電をする。
「ぐぎぃぃぃいぃぃぃぃぃぃぃあああああああああ!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ガブは、少しずつ交代する。
腕の毛が燃え、身体が燃え出した。だが、俺は魔力の放出を止めない。
ガブの身体が燃える……そして、ついに。
「う、っがああああああああああああ!!」
ガブが燃えながら吹っ飛び、闘技場の壁に激突した。
俺は魔力が切れ、放電が止まる……同時に、両手に仕込んだ魔石が砕け散った。
十ツ星の魔石が砕けたのは初めてだった。
獣人たちが必死にガブの火を消そうと水をかけている。やばいな……手伝わないと。
「あーくそ、魔力切れ……お?」
すると、巨大な水球が出現し、ガブの身体を包み込んだ。
誰かと思ったら、なんとアオだ。
アオが観客席にいて、魔法を使ったようだ。
アオだけじゃない、ロッソにブランシュにヴェルデ、バレンやリーンドゥ、ウングもいる。
ダンジョンの冒険、終わったのか……まあ、今はいいや。
「あー……疲れた。もうこんなことやらねえからな!!」
俺は拳を突き上げる。そして、獣人たちの歓声を浴びるのだった。