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独身おじさんの戦い②

 三日後、俺は連結馬車に乗ってコロシアムへ向かっていた。

 ちなみに引いているのはラクダみたいな動物……砂漠の固有種らしく、砂地を進むのに適しているとか。

 ヒコロク、ヤタロウはロッソたちと冒険に行ったのでいない。連結馬車を切り離し、車両の一つを宿代わりにして持っていく案を提供したら喜んでいた。

 連結馬車、こういう時に役立つな。

 俺は、ソファに座らせているアーマー……『魔導甲殻Mark02・ウルツァイト・スケイルメイル』を眺めていた。


「マークセカンド。改良版……さてさて、負けるつもりはないけど、殺さないようにしなくては」


 今回、調整をして機構を増やした。

 さらに、ヒートブレードを改良し攻撃力を低下させた。『切断』の魔石組み込んだままだと殺しちまうかもしれないからな。

 獣人は頑丈らしいから、『収束放電』はそのままにしてある。攻撃力は下がったけど、使い勝手はかなりよくなった……それに、カッコいいギミックも組み込めた。


「やべえ、いつもは怖いけど、ちょっとワクワクしてる」


 コロシアムでの戦い……主人公キャラじゃあるまいし、ただの魔導具職人である俺には縁がないと思っていた。今朝は帰りたくてしょうがなかったけど、今はもう腹をくくりやる気になっている。

 すると、同乗していたバリオンが二階から降りて来て言う。


「ゲントク。コロシアムが見えたよ」

「おう」


 俺は立ち上がり、首をコキコキ鳴らす。

 軽いストレッチをして、窓から外を見た。


「おお、やっぱデカいな……」

「砂漠の獣人たちは『ただの休憩所』と言っていたけど……道中も、興味深い遺跡跡がいくつかあった。調べれば、ここがどういう歴史を歩んだのかわかるかもしれないね」

「まあ、好きにやってくれ。この戦いが終わったら、俺たちは帰るからな」

「ああ。気になるなら、調べて報告するけど」

「いらんいらん」


 そういうのは興味ない!! 

 そして、馬車がコロシアムに到着……以前見た時は砂に埋もれている個所や、倒壊したところもあったが、綺麗に修復されている。

 それどころか、周囲の遺跡が町のようになっており、多くの獣人がいた。

 小さいが整備された河川もあり、水が町全体を回っているようにも見える。


「すげえな……もう、完璧な町だろ」

「そうだね。掃除や修復を優先したみたいだけど……まさか、ここまで早く作業が終わるなんて」


 すると、とんでもない大きさの石柱を担いだ獣人が俺たちの前を通った。

 重機がないと運べないような、数トンはありそうな石柱を、牛獣人の男性が軽々と運んでいる……しかも、何人も同じようなのを運び、コロシアムの先にあった小さな神殿へ向かって行った。

 どうやら、神殿の修復作業してるみたいだ。


「……工事が早い理由って、絶対に獣人のパワーのおかげだよな」

「あ、ああ。あんな大きさの石柱、ヒトだったら一本運ぶのに半日はかかるだろうね」


 すごいというか、怪物だな……ってか俺、ああいうパワーの怪物とこれから戦うんだよな。


 ◇◇◇◇◇◇


 コロシアムに行くと、俺は控室へ案内された。

 バリオンは観客席へ。

 控室には、水瓶や椅子テーブルなどが置いてあり、掃除も綺麗にされていた。

 軽くストレッチをしていると、リオが来た。


「ゲントク。試合の時間が迫っているが、準備はどうだ?」

「ああ、いい感じだ。というか……お前、ここにいていいのか? 王様なんだし、挨拶とか」

「もう終わった。喜べ、観客席は満員だ」

「喜んでいいのかね……」


 ストレッチを終え、俺はアーマーを見た。

 そして、ちょい考える。


「……なあ、ちょっとだけ俺も目立っていいか?」

「好きにしろ。盛り上がるなら、なんでもいい」


 試合まであと少し……よーし、やってやろうじゃないか。


 ◇◇◇◇◇◇


 試合会場通路へ向かうと、獣人たちの熱気が伝わってくるような気がした。


『皆、聞け!! これより、異世界の強者ゲントクと、我ら獣人国の代表選手による親善試合を執り行う!! この戦いを通じ、ゲントクの強さ、異世界の力を肌で感じるのだ!!』

「「「「「ウオオオオオオオオオ!!」」」」」


 い、異世界の強者ってなんやねん……俺、日本じゃただの電気工事士なんだが。

 ややオーバーな紹介。だが、俺はゾクゾクしていた。


「「「「ゲントク!! ゲントク!! ゲントク!!」」」」


 すげえ、人生でこんなコールされたことねえ。

 怖気づくというか、普段ならビビるが……俺は高揚していた。

 そして、通路をダッシュ。コロシアムに飛び込んだ。


「ヘイみんなあああああああ!! ノッてるかあああああああい!!」

「「「「「ウオオオオオオオオオ!!」」」」」


 拳を突き上げて叫ぶと、獣人たちの歓声が上がった。

 やべえ、チョー気持ちいい!! 

 玉座を見ると、リオがいる。そして両隣にサンドローネ、バリオン、ユストゥスにリヒターもいた。

 なんか呆れてるように見えたが、まあ気にしない。

 俺は拳を突き上げ、試合場のステージをグルグル回り、歓声に応える。

 すると、上空から鳥……ではなく、鳥獣人のバドが急降下、ステージに着地した。


「ハハハハハ!! ゲントク!! 最高の気分であろう!? この歓声、戦士の血が滾るだろう!?」

「おう!! なんかすげえ気持ちいい!!」


 バドの登場に、会場はさらにヒートアップ。

 すると、リオが叫ぶ。


『戦士バド、戦士ゲントク!! これより、親善試合を開始する!! 用意はいいか!?』

「うむ!!」

「よっしゃ行くぜ!!」


 俺は変身ポーズを取り、思い切り叫んだ。


「『変身』!!」


 すると、通路に置いていたアーマーが俺の元へ向かって飛び、装甲が展開。

 俺の身体に覆い被さると、展開した装甲が全て閉じる。

 そして、各部位に設置した『炎』の魔石が火を噴き、装甲に刻んだラインが赤く輝いた。

 灰銀、そして炎。仕込んだド派手なギミックにより、会場はさらに熱狂する。


「おおおおお!! 文明の力か!! 堪能させてもらうぞ!!」

「いいぜ、今回は俺もバトルモードだ!!」


 バドは両足の鉤爪を見せつけるように向け、俺も拳法の構えを取る。

 そして、リオが叫ぶ。


『試合、開始!!』


 ◇◇◇◇◇◇


 バドはいきなり飛んだ。

 翼を羽ばたかせて一気に上昇。そして急降下してきたあああああ!!


「チョワアアアアアアアアア!!」

「うおおおおおお!?」


 こっわ!!

 狩りをするハヤブサみたいに、爪を立てて急降下してくる!!

 俺は両手を向け、『収束放電(サンダービーム)』を連射した……が、バドは綺麗に回避し、地上スレスレで再び上昇。


「ヒットアンドアウェイ戦法かよ……」


 や、やばい……気持ちが萎えそう。ってか恐怖が蘇ってきた。

 俺、普通のおっさんなのに、なんでコロシアムで戦ってんだろ……って気持ちになりそう。ってか考えてる時点でやばい!!

 でも、引けない!! ここで引いたら男じゃねぇっすよ!!


「うおおおおっし、焦土作戦実行オオオオオオ!! 全てが燃え尽きるまでええええええええええええ!!」

「チョワアアアアアアアアア!!」


 迎え撃つ。

 新武装、『ファイアインパクト』だ。

 右拳の装甲が展開し、『烈火』の魔石が一気に燃え上がり、巨大な炎の拳となる。

 中二病全開、カッコいいと思ったので付けてみた。

 急降下してくるバド、そして上空に正拳突きを放つ俺。


「セイハああああああああ!!」

「チョウワアアアア──……」


 ゴバッ!! と放たれた炎がバドを飲み込み、香ばしく美味しそうな香りがした……ああ、焼き鳥っぽいような……冷たいビールと一緒に食いてえ。


「ゴバァッ!?」


 地上に激突するバド……黒焦げだった。

 ああ、俺のファイアインパクト……っていうか、火炎放射器みたいな炎を躱せなかったのか。

 俺は唖然として、慌ててバドに駆け寄る。


「だだ、大丈夫か!?」

「……さ、最高の、一撃、だった……がくっ」

「おおお、おい!? ブランシュ……はいないのか!! 衛生兵、衛生兵ええええええ!!」


 こうして、バドとの戦いが終わり……焼き鳥の香りと共に俺が勝利するのだった。

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― 新着の感想 ―
焼き鳥サイコウー
うおおおお!ロックオン!しょk…ゲフンゲフン…
あ~ハイボール飲みてぇ 肴は其処に転がってんよ
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