サハラ・コロシアム
さて、俺の作ったカレーは大好評。十二の種族の長たちも大絶賛だ。
というか……十二種族の長たちの傍には動物がいる。牛とか虎とか、肩にネズミ乗せている人もいるし、蛇とか首に巻き付いてる人……蛇獣人だよな、ちょっと怖い。
まあ、猫獣人が連れている砂漠猫が可愛いからいいけど。
とまあ、こんなそんな感じで食事会は大成功。
カレーが、砂漠の食材だけで作ったもので、ジャングルにある食材を加工することでできることを聞いたら、みんな驚いていた。
いくつかの種族の長は、農業をメインに仕事をしたいとか言い出したしな。やっぱ料理の力って偉大だね……カレーは世界を救う!! なんちゃってな。
そして片付けを終え、今日も宴会……という話だったが、さすがに旅疲れがあるのでリオに言って遠慮させてもらった。
ここまでくると、もう護衛に力を入れなくてもいいってことで、俺は食堂車を使い、ロッソたち『七虹冒険者』たちにカレーを振舞った。ちなみに、サンドローネたちは十二種族の長たちと会食している。料理はマイルズさんが振舞うそうだ。
スパイスカレー……ロッソの狩ってきた肉が牛肉っぽかったので、スパイスビーフカレーにした。
評判はやはりいい。
「うっまあ!! おっさん、このカレーだっけ? すっごくおいしい!!」
「……本当に美味しいですわ。ザツマイと、この茶色い……カレーが絡むと、何とも言えない味になりますわ」
「おいしい~!! ね、マイルズにレシピあげてよ。これ、ずっと食べたくなる味ね!!」
「……気に入ったぜ。マジでうめぇ」
「うんまあぁ~!! ウチ、これ主食でもいいよ!!」
アオ、バレンはすでに食べたので感想はなし。でも、二人とも美味い美味いと食べてくれた。
今回、マトマをベースにするのではなく、車内にあった食材の異世界玉ねぎをベースにした。
刻んで飴色になるまで炒め、スパイスと混ぜてペースト状にしてカレーの元にした。そこに焼いた牛肉、異世界パプリカなどで作ってみたが、これまたうまい。
俺はカレーを食べながら、カウンター越しに言う。
「ふっふっふ。カレー……こいつは無限の可能性があるぜ。なあ!!」
「うん!! ねえおっさん、アタシさ、これ毎日でもいいよ!!」
「さすがに毎日は飽きるぞ。週一くらいがベストなんだよ」
毎日カレー……実は、一度試したことがある。
でも、四日で飽きた……というか、食えなかった。
いや、美味いんだよ。でも、やっぱりカレーだけじゃ飽きるんだ。
ふう、カレー食ったら喉乾いてきた。
俺はカウンターから客席に移動。シュバンにカウンターを任せて酒を注文する。
「シュバン、なんかサッパリ系のカクテル作ってもらっていいか?」
「あ。アタシも欲しい」
「では、わたくしは甘いカクテルを」
「……果実水」
「シュバン、私はいつもので」
「じゃあボクはゲントクさんと同じもので」
「ウチ、大ジョッキエール!!」
「……水でいい」
みんな一気に注文したが、シュバンは丁寧に一礼し「かしこまりました」と返事。
どうやら、バーテンダーとしての腕前を見せてくれるようだ。
流れるような手つきでカクテルを作り、俺たちの前に置く。
魔法で作った氷に、やや青みがかったカクテルだ。飲んでみると、スーッとさっぱりした清涼感が喉を通っていく……うまい。
「うまい。さすがシュバン、ありがとうな」
「いえいえ」
みんなシュバンにお礼を言うと、シュバンはまたまた丁寧に一礼……洗い物を始める。
さて、食後なのでみんなと楽しいお喋りタイムとなった。
◇◇◇◇◇◇
酒を飲み、シュバンが作ったつまみを食べながら、話題はこれからのことになった。
「まあ……そろそろ帰るだろうな。俺のアイデアはもう出したし、あとはこの国の人たち、バリオンやサンドローネたちが頑張ることだしな」
「だよね。というか、アタシらはダンジョン行きたいな~……ねえねえおっさん。あと一週間くらい滞在しない? アタシらさ、交代でダンジョンだ入りたい~」
「いいぞ。まあ、もう護衛は必要ないぞ。アオ、バレンが気にしてたダンジョン、七人で行ってみればいいんじゃないか?」
「それは魅力的ですけど……さすがにダメですわ。せめて一人はおじさまの護衛に付かないと。それに、サンドローネさんたちの護衛もありますし」
「大丈夫だって。明日、俺からサンドローネたちに相談してみるよ。『鮮血の赤椿』と『殲滅の薔薇』で、未登録のダンジョンに初挑戦してこいよ。ず~っと俺らの護衛で、お前たち全然、息つく暇もなかったしな」
「……おじさん」
「ヴェルデも、それでいいか?」
「私としては嬉しいけど……本当にいいの?」
まあ、護衛任務に一番責任を感じているのはヴェルデだろうしな。あえて確認してみた。
俺としては、もうここの獣人たちに敵意を感じない。闇討ちの可能性とかも感じないし……明日には、炊き出しでカレーを作ってみようかな、なんて思っていた。
それに、あんま考えたくないけど……俺のイベントは残り一つ。なぜか俺が戦うことになっている、獣人の戦士たちとの戦いだけだ。
「いいっていいって。みんなで……お」
すると、食堂車のドアが開き、サンドローネにユストゥス、バリオンにリヒターが入って来た。
ちょうどいいと、俺は手招きをする。
「おーいサンドローネ、ちょっといいか?」
「何? というか、あなたたちもここで飲んでいたのね」
すると、再びドアが開き、リオが入って来た。
せっかくなので席とテーブルを動かし、みんなで飲むことにした。
シュバンがサンドローネたちに酒を作り、一口飲んでから俺は聞く。
「会食は終わったのか?」
「ええ。改めて、砂漠王国の開発への挨拶をね。私もバリオンも、いい印象を与えられたわ」
サンドローネは嬉しそうに酒を飲む。
バリオンも、俺と同じカクテルを飲みながら言う。
「ボクはしばらくこちらに滞在して、獣人たちに指示を出す予定だ。それと、サンドローネ……先ほどの話だけど」
「ええ、ユストゥスからも了解を取ってるわ。ね」
「はい。バリオン様、しばらくあなたの元で勉強させていただきます」
おいおい、どういうこった。
首を傾げると、リヒターが言う。
「ユストゥスさんは、アレキサンドライト商会の代表として、砂漠開発の総責任者として残ることになりました」
「え、そうなのか?」
「はい。残ると言っても、数年程度ですけどね」
いや、充分長いって……エルフのスパンで言うなよ。
サンドローネが言う。
「今のユストゥスなら十分任せられるわ。それに、バリオンもいるし、リオ様もいる」
「ああ。私みたいな馬鹿に手伝えるとは思わないが、この国の王という立場でなら協力できるだろう。それに、先ほど連絡が来てな、ルピオンもこちらに向かっているそうだ」
「……ルピオン? 誰だ?」
また新キャラか? というか……リオの知り合いってことは。
「ルピオン・スコーピオン。十二星座の魔女、『蠍座の魔女』だ」
「魔女かよ……そいつはどんな奴なんだ?」
俺が言うと、ユストゥスが興奮したように言う。
「ルピオン様は、昆虫研究、毒生物の調査、医師、薬学士と『医学・薬学』の分野を設立させ、多くの難病を薬によって治療することを可能とした、薬草学の天才です!! 私の憧れでもあります!!」
「お、おお、そうか……」
「ルピオンは、砂漠の生物、魔獣、動物や、ジャングルや森の植物について研究するそうだ。ゲントク、お前の見つけたスパイスだったか、その話をしたらえらく興奮していたぞ」
エルフと言えば森、薬草とかそんな感じだもんな。
サンドローネが煙草を取り出して言う。
「アレキサンドライト商会からも、ユストゥスの補佐、護衛を追加で派遣する予定。あとはこの子に任せておけば、数年後には立派な砂漠王国ができているわね……ふふ」
「嬉しそうだな。ああ……アレキサンドライト商会の名が広まるからか」
「うるさいわね。ふふ、明日の朝刊が楽しみね……ここでは見れないけど」
「じゃあ、俺らの仕事は終わりか……あ、そうだ」
俺は、ロッソたちがダンジョン調査をしたいことを話す。
「……ってわけで、俺らの護衛はもういいだろ? ずっと頑張ってくれたし、明日から一週間くらい、ダンジョンの調査させてやろうぜ」
「……そうね。いいわ、もうここに危険はないだろうしね。ロッソさん、バレンさん、この時をもって、護衛依頼を終了するわ。報酬はエーデルシュタイン王国に戻ってから振り込むわね」
「うれしいけど、ホントにいいの?」
「ええ。護衛依頼は終わるけど……帰りの馬車は一緒でしょう? 帰るときにまた、エーデルシュタイン王国までの護衛を依頼したいのだけれど」
「はは、そういうことですか。ロッソ、いい話だと思うけど、どうだい?」
「もっちろん受ける!! じゃあ、帰りは一週間後でいい?」
「ええ。それでいいわ」
サンドローネが笑顔で頷くと、ロッソはニカっと笑い言う。
「よーし!! アオ、ブランシュ、ヴェルデ!! 明日はダンジョンに行くわよ!! 『鮮血の赤椿』行くぞー!!」
「「「おおー!!」」」
「ふふ、ボクらも行こうか。ウング、リーンドゥ」
「ああ、腕が鳴るぜ」
「未発見のダンジョンとかワクワクしかないかもっ!!」
うんうん、あとはもうのんびり一週間過ごして終わりかな。
おっと、言っておくか。
「なあユストゥス……今、城下町の開発してるんだよな?」
「そうですね。王国である以上、女王であるリオ様の住まいは立派な城を作る予定です。それに合わせて城下町、リゾート地区、観光地区と合わせて建設も」
「待った待った。難しいことはいい……リオも聞いてほしいんだけど、そのリゾート地区に、俺の別荘とか作ってもらっていいか? 砂漠王国に遊びに来た時の拠点が欲しいんだ。もちろん、金は払うぞ」
「はっはっは!! そんなものはいらん。ゲントク、お前の望むところに作ろう。ユストゥス、いいか?」
「もちろんです。では、『セレブ地区』にあるオアシスが最もよく見える場所に……」
「いやいや普通でいいぞ。まあ……オアシスは欲しいけど」
こうして、別荘もゲットした。
さてさて、あとはのんびり、帰るまで過ごして……。
「ゲントク。試合の方だが、代表選手三名との試合をしてくれ。明日は『サハラ・コロシアム』と名付けた闘技場の整備を行うから、二日後に試合だ」
「…………お、おお」
くそ、忘れてなかったか……マジで俺が戦うのかい!! ちくしょうめ!!