合流!!
さて、砂漠の旅は終わり、サンドローネのいるスーリヤオアシスへ戻って来た。
馬車から降り、俺は大きく伸び……するとユストゥスが素早く馬車から降り、俺に言う。
「では、私はサンドローネ商会長の元へ、集めた情報を共有してきます。ふふふ、やることが多いですが、楽しいことになりそうです」
「お、おう……少しは休めよ?」
「おかまいなく。では、今日はゆっくりお休みください」
そう言い、ユストゥスは行ってしまった。
バレンは「一度、ウングたちのところへ」と行ってしまった。アオは俺の護衛なので残り、ドギーさんとベスさんも仲間たちの元へ。シアちゃんはヒコロクの背中に乗ったままだ。
「ドギーさん、ベスさんが『あとで迎えに来ます』だって」
「そうか。ふう……俺らはどうする?」
「今日はもう休んだら? ん……みて、おじさん」
と、アオが指差した方を見る。
そこには、砂色のレンガで作った『家』がいくつか並んでいた……おお、初めて見た。
近付いて見て気付いた。
「なるほど。日干しレンガってやつか」
「……なにそれ?」
「粘土や砂、水を混ぜて作ったレンガだ。大昔はこれを使って建築をしていたんだ。そういやドギーさんが言ってたな……ジャングルや森はともかく、スーリヤオアシスの周辺では一切雨が降らないって」
「雨が降るとダメなの?」
「ああ。日干しレンガは水に弱いからな。それに、見ての通り砂と水と粘土があればいくらでも作れる。思っていた以上に、ここは早く町になるかもな」
そう言っていると、ロッソ、ブランシュが来た。
「アオ、おっさん、おかえりっ!!」
「お疲れ様ですわ。アオ、おじさま」
「……ただいま」
「おお、お前たちか。なんか変わったことあったか?」
そう言うと、ロッソが日干しレンガの家を指差す。
「これこれ。テントじゃなくて、家ができたのよ。おどろいたわ」
「おじさま、周りを見ればわかりますけど……今はみんな、テントを撤去して、城下町となる区画に砂のレンガで作った家を作っていますわ」
周りを見ると、多くの獣人たちが作業をしていた。
なるほど。ここは城下町になるのか……でも、仕事が早すぎる。
すると、こっちに来る人……って、おいおいおい、なんでここに。
「やあ、ゲントク」
「ば……バリオン!? おま、なんでここに!?」
なんと、バリオンだった。
薄手のローブを纏い、頭にバンダナみたいのを巻いている。髭も立派に生えており、砂漠が似合う紳士にしか見えねえ……イケメンって場所選ばないんだな。
そして、隣にはサンドローネもいる。
「戻ったなら挨拶に来なさい。全く」
「はいはい。で……なんでバリオンが?」
「バリオンは、アメジスト獣人商会の会長よ。これからの砂漠開発は獣人がメインになるからね……それに、砂漠に移住してもいい獣人の技術者はみんな、バリオンの商会から来ているのよ」
「へえ、そうなのか」
「ははは……ちなみに、知識や技術を学びたい獣人を受け入れる予定もあるよ。まあ、交換……と言っていいのかな?」
バリオンは笑う。というか、本当に意外だった。
「まさか、お前自ら来るなんてな」
「ははは。新たな国の立ち上げ、しかも獣人の国と聞けばね……サンドローネから事前に相談もされていたし、長い付き合いになると思うから、代表であるボクが国王陛下に挨拶するのは当然だろう?」
ちなみに、バリオンは事前に砂漠の地図をもらい、城下町の区画を考えたり、将来のことを考えた街づくりを専門家と話し、ある程度の形を持って来た。
俺と入れ違いで砂漠に到着し、日干しレンガでの住居作りなどを説明し、一緒に来た大工などの技術者である獣人たちと住居づくりを始めているらしい。
するとサンドローネが言う。
「街づくりに関しては、もうバリオンに任せて大丈夫ね。それと、観光客向けの街づくりや、高級リゾート開発も同時に進めるわ。興味を持った獣人たちに従業員としての教育もするし、しばらくはアメジスト獣人商会が派遣した従業員で運営することになりそうだけど」
「ボクの商会の傘下にいる商人たちも、この国に出店することを話しているよ。それと……近日中に、世界中に『砂漠の獣人たちによる争いが集結し、一つの王国が誕生した。アレキサンドライト商会、アメジスト獣人商会が建国の補佐をする』って情報が流れる……一か月以内に、ここは商人たちでごった返すだろうね」
「はああ……そうかい」
もう、日本知識の出番ないな……あとは現地人で頑張ってくれ。
まあ、俺はもう知識を出したぞ。
サンドローネが俺に近づいて言う。
「ユストゥスから、簡易的だけど報告を聞いたわ。砂漠は資源の宝庫らしいわね……フフフ」
「お、おう。お前怖いぞ」
ちなみに、砂漠はスパイスだけじゃなく、動植物、魔獣、ジャングルの奥にあった鉱山や、多くのダンジョンなど、もう自分でも覚えていないくらい宝の山だった。
「これらの権利は全て、暫定的にアレキサンドライト商会とアメジスト獣人商会で管理するわ。獣人たちにも聞いたけど、自分たちの生活が脅かされなければ好きにしていいってことだしね……最初は調査だけのつもりで、権利まで管理するつもりはなかったのだけれど、リオ様が『任せる』と言うから……いずれは権利も返却する予定よ」
「つまり……これから来る商人とか、お前に話を通さないとダメってことか」
「ええ。さすがに、全ての開発をアレキサンドライト商会とアメジスト獣人商会だけじゃできないからね」
よくわからんが、これからの開発はアメジスト獣人商会とアレキサンドライト商会が中心となりやる……ってことでいいのかね。
「コロシアム、高級リゾート、スパイスに鉱山、ダンジョン……想定外の宝が豊富。ふふふ、忙しくなりそうね……ところで、カレーだったかしら。作れるならちょうだい」
「お、おう」
すると、アオがロッソたちに言う。
「……ロッソ、ブランシュ。おじさんがまた新しい料理を作ったの」
「え、なにそれ!! アンタ、食べたの?」
「すっごくおいしかった」
「むうう……アオ、ずるいですわ」
「みんなも食べれるよ。ね、おじさん」
「ああ。スパイスは多めにあるしな。あとは肉だけど……」
「肉ならアタシが狩ってくるよ。ブランシュ、任せていい?」
「ええ。ヴェルデが周囲の巡回をしていますから、一緒に行くといいですわ」
「よーし!! じゃあ行ってくる!!」
と、ロッソがダッシュで行ってしまった。
そして入れ替わるようにリオが、牛獣人のバルジャン、その妻ロッチャさん。ドギーさんとベスさん、そして砂色のデカい牛を連れてきた。
「戻ったか、ゲントク」
「おう。いやー、砂漠巡り楽しかったぜ」
「ははは。それはよかった……見てくれ、早くも開拓が始まった。ここは立派な国になるだろう……戦うことしかできない、馬鹿な私ではできないことだ」
リオは、作業する獣人たちを見ながら言う。
誰かコメント……と思ったが誰も言わない。そういやこいつ王様だよな。タメ口の俺ってやっぱりおかしいのかね……まあいいか、俺が言う。
「まあ、お前は魔女の中で最強なんだろ? 一人くらい、腕っぷしだけのヤツがいてもいいんじゃねえか? 組織ってのはそういうモンだろ」
「……ぷ、はははは!! そうか、確かにそうだな。一人くらい、馬鹿がいてもいいか!!」
「いや、馬鹿というか……お前は力担当ってことで」
「ああ、そうだな。他の魔女と違い、物覚えの悪い私は、身体を鍛えることしかできなかった。アツコも『あなたはあなたのままでいい』なんて言ったが……ふふ、懐かしい記憶だよ」
リオは笑顔を見せる。なんかわからんけど、怒ってないならよかった。
よし、話を切り替えるか。
「よしリオ。昼は俺が作る、砂漠の食材で『スパイスカレー』を作ってやるよ。きっと砂漠王国の名物になること間違いなしだぜ!!」
「ほう……それは興味があるな。アツコの世界にも『カレー』という食べ物はあったらしいが、アツコは作ることができないと言っていたな」
「まあ、アツコさんくらいの人はカレー粉だろうしな。いきなりは無理だろ」
連結馬車は……あった。食堂車のキッチンでなら調理器具も食材も充実している。
「とりあえず、大量に作るから、各種族の代表とか呼んでくれ。みんなで食おうぜ」
「ああ、わかった。バルジャン、ロッチャ」
「「はっ!!」」
バルジャンさんたちは牛と一緒に行ってしまった……あの牛、なんだったのかな。
さっそく俺は調理するために食堂車へ向かう。他のみんなはテーブルの用意を任せた。
馬車の近くに行くと、茶色いネコがいた。
『……』
「ネコ? なんでこんなところに……ああ、これが砂漠猫ってやつか?」
大福と同じくらいの大きさで、茶トラの猫だ。
見た目は普通のネコだが、耳毛がすごくフワフワしている……そういや、砂漠のネコは耳に砂が入らないように毛が多いって聞いたことあるな。
俺はしゃがんで砂漠猫を撫でてみた。
「ははは。かわいいじゃないか、しかも大人しい」
『みゃあご』
「砂漠の動物か……さっきの牛も、砂漠牛……っていうのかもな」
『…………』
さて、かわいい動物にも触れたし……カレーパーティーの準備するか。
気合を入れると、リオが来て言う。
「そういえばゲントク。十二種族の戦士たちとの試合だが、明日以降で構わないな。準備をしておけよ」
「…………」
せっかくいい感じに話が流れたと思ったのに……戦うのは俺の役目じゃないんだが!!