歓迎の宴と早速の発見
さて、宴の前に……本日の宿へ案内された。
まあ、予想通り。ただのテントだ。しかもかなりアナログというか……長い枝を組み合わせ、魔獣の皮のシートをかぶせただけ。中には葉っぱのベッドがある。
すげえ、ある意味で一度は泊ってみたいぞ。
サンドローネは、ほんの少しだけひきつった笑みを浮かべてリオに言う。
「あ、ありがとうございます……」
「そうか。足りない物があれば、遠慮せず言ってくれ」
リオは「宴の用意ができるまで休んでくれ」と、出て行った。
ちなみに、俺たち全員分のテントが綺麗に並んでいる。
ロッソたちは特に気にしていないようだが、サンドローネは違った。
「参ったわね……ホテルのような宿を期待していたわけじゃないけど」
「お前、連結馬車に泊ればいいだろ」
「……あなたは気にしないの?」
「別に。むしろ、こういうの新鮮で面白そうだ」
ちょっとワクワクしている俺。
というわけで、サンドローネとリヒターは連結馬車へ。護衛にシュバンとマイルズさん、ヴェルデも連結馬車に行った。
驚いたことに、ユストゥスは気にしていないようだ。
「エルフなので、森暮らしには慣れていました。こういう大自然の恵みだけに囲まれて寝ることは、四十年前くらいまでは普通にしていましたので」
「そ、そうか」
エルフ、十二星座の魔女を見ると博識なイメージだけど、普通のエルフは今でも森暮らしが普通なんだよなあ。
エルフの森か……一度は行ってみたいかも。決して焼き討ちとか合わないでほしいけど。
すると、ロッソたちが俺とユストゥスの元へ。
「おっさん、相談したけど、これから交代で一人ずつ、おねーさんとユストゥス、おっさんに護衛付くから。それと、連結馬車に一人、あとは全体を見る感じで」
「ああ、わかった。その辺はお前らに任せるよ」
ちなみに、今夜の宴……俺はいつものバカ騒ぎになると思ったが、護衛であるロッソたちは食事こそするけど、酒は一滴も飲まないらしい。
そうか……ちょっと残念だけど、仕方ないよなあ。
◇◇◇◇◇◇
その日の夜、集落の中央広場に巨大な櫓が立てられ、日が沈むと同時にリオが魔法で火を着けると、一気に燃え上がった。
そして、多くの獣人たちが料理をテーブルへ運び、大量の酒が並ぶ。
皿などではなく大きな葉っぱ、酒もヤシの実みたいなのを真っ二つにして木を削ったカップに注ぎ、料理のメインは肉、とにかく肉!! 櫓の傍では、今日のメインなのか……ドラゴンみたいな魔獣が、ケツから口まで一気に串を通され、豪快に丸焼きになっていた。
俺、ユストゥス、サンドローネは岩を削った椅子に並んで座る。
リオは、ヤシの実みたいなのを噛み千切り、頭上に掲げた。
「皆、聞け!! 今日はこのサハラ王国に『文明』をもたらしに来た客人たちを盛大にもてなす宴である!! 飲み、食い、歌い、踊り……我々の新たな門出としよう!! さあ、始めよう!!」
「「「「「「「「「「ウオオオオオオオ!!」」」」」」」」」」
すげえ雄叫びだ。
リオがヤシの実に口を付けて一気飲みすると、それを皮切りに獣人たちが一斉に騒ぎ始めた。
乾杯のタイミングがわからず、とりあえず俺もカップのヤシの実酒を飲む。
「うお、甘いな」
「ちゃんとお酒の味ね……どういうお酒なのかしら」
ヤシの実酒。甘い日本酒みたいな味だった。
けっこう酒精が強く、なかなかこれは悪くない。
すると、リオがヤシの実を俺の前にドンと転がした。
「これが、砂漠の酒だ。この実の名は『ナッシー』と言ってな、森に行けばいくらでも生えているぞ」
「へえ……これはなかなか」
俺はもう一杯飲んでみた……うん、おいしい。
甘いから、塩気のあるモンと合いそうだ。
「それと……バルジャン!! ロッチャ!! 来い!!」
「ウッス!!」
「はい、お姉様……じゃなくて、国王」
リオが呼んだのは……で、でけえ。
一人は、身長三メートルはあるであろう、純血の牛獣人。
もう一人は、ハーフの牛獣人女性……で、でっけええええ、牛だから? いや、とんでもない巨乳美人だわ、でっか、俺が異世界に来て会った人たちの中で、一番でかい巨乳。スノウさんが一番かと思ったが、比べ物にならねえ。
「紹介する。アタシの副官にして……あ~、人間の国で言えば将軍ってやつか。アタシの次に強い獣人のバルジャン、こっちはバルジャンの妻のロッチャ。ハーフの牛獣人だ。頭脳明晰で、あ~……宰相ってヤツが合うと思う」
「ウッス!! 初めまして、バルジャンっす!!」
「初めまして。ロッチャと申します。足りないところはございますが、この砂漠王国サハラのために、できることは何でもするつもりです」
「初めまして。アレキサンドライト商会、商会長サンドローネです」
「ユストゥスです。これからよろしくお願いします」
やべ、巨乳見てて挨拶遅れたわ。
俺も立ち上がり一礼。
「ゲントクだ。アドバイザー……まあ、アイデア出しで来た。敬語が苦手なんで、まあよろしく頼むわ」
二人と握手。
というか、バルジャンと握手した時に手が砕けるかと思ったぜ。サンドローネもユストゥスも痛みで顔をしかめてるし。
リオは言う。
「基本的に、ここにいる獣人たちに対し、敬語は不要だ。それと、警戒し、護衛を付ける気持ちは理解できるが……お前たちに危害を加える者は、誰一人としていないと断言できる」
「言い切ったな。マジなのか?」
「ああ。断言する……我々、砂漠の獣人たちは、『文明』を作り、受け入れることを望んでいる。見ての通り、数千年前の、小娘だった私のような生活だ。お前たちの国には魔道具や、便利な道具、流通のシステムなどが普及しているのだろう? 我々も、それらを受け入れる準備はできている」
ちょっと意外だった。
「貴様らの文明など受け入れるか!」とか「先祖代々の暮らしを馬鹿にするような連中め!」とか、そういう保守的な獣人がいるとは思っていたけど。
そして気付いた。多くの獣人たちが、俺たちをチラチラ見ている。
「皆、外から来たお前たちに興味津々なんだ。恐れず、話しかけてみてほしい……我々がどういう獣人なのかを、理解できると思う」
「……ふむ」
異世界ラノベ的には「異物は嫌われる」とか「イベント発生後に受け入れられる」とかなんだが……どうやら、そういうイベントはなさそうだ。
俺は意を決し、土産で持って来たウイスキーの瓶を片手に、ガタイのいい獣人グループに近づいてみた。
「あー、どうも」
「あ、ああ、どうも」
「や、やあ……楽しんでいるかい、人間」
「バカ、人間って言うなって。ゲントク様って言わねぇと」
「や、やべえ」
めっちゃヒソヒソ言ってるけど、普通に聞こえてる。
なんか、急に親近感湧いてきたぞ。
「なあ、この酒美味いよな」
「あ、ああ。我らの自慢の酒さ」
「それもいいけどさ、俺の持って来た酒も飲んでみないか? 麦で作った酒なんだが」
「ムギ?」
俺は、木のカップにウイスキーを注ぎ、熊の純血獣人の男に渡す。
熊獣人は周囲をキョロキョロしながら、木のカップを一気に傾けて飲み干した……そして。
「っっっ……おおおお!! の、喉が焼ける!! だが、美味い!!」
「だろ? とっておきの酒なんだ。ささ、他のみんなも」
「お、オレにもくれ」「わ、私もいいかしら?」まてまて、オレも!!」
みんながカップを差し出してきたので注ぐ。
ウイスキーを飲むと、みんな「うまい!!」と言いだした。
ようやく、みんなの口調も砕けてきた。
「ははは!! これが人間の酒かあ……噂では聞いていたんだ。人間の作る酒は最高だってな」
「そうだろそうだろ? 俺もそう思う。ふふふ、この国にもこういう酒が入って来ることになるだろうぜ」
「それはいいわね。ふふ、楽しみ」
「はっはっは!! 文明万歳!! 種族統合万歳!!」
「「「「「バンザーイ!!」」」」」
俺は、獣人たちに囲まれて酒を飲み、肉を食べる。
櫓の周りでは女性獣人たちが踊りを始め、俺も混ざるように言われたので混ざってみた。
適当に身体を動かしたり、拳法の型を見せたりしていると、何人かの獣人が挑んできたので迎え撃った……ってか、普通に試合してしまったぜ。
俺も上半身裸になり、テンションが上がりまくっていたので、戦ってしまったぜ。
獣人たちも大盛り上がり。いつしかトーナメント戦みたいになり、俺は気が付くと大の字に倒れていた……負けたっぽい。
そのあとは、戦う獣人たちを応援したり、近場にいたヤツととにかく乾杯。
そして、サンドローネの元へ。
「おおおうサンドローネ、飲んでるかああああああ!!」
「……あなた、飲みすぎよ。あと受け入れるのも、受け入れられるのも早すぎる」
「お前はどうなんだよ!! 飲んで、歌って、騒げばいい!! そうすりゃみんな友達だろうがよ!!」
「悪酔いしすぎ……まあ、友人はできたけどね。ロッチャさん」
「ええ、ふふ。サンドローネさんとのお話、楽しいです。ユストゥスさんも」
「はい。私も楽しいです」
「はっはっは!! ユストゥス、いい子いい子。よい子はねんねの時間だぞ~!!」
「ひゃあああ!?」
俺はユストゥスの頭を撫でまくる……ああ、楽しいぜ。
すると、リオが来た。
「ゲントク、楽しんでいるな」
「おう!! あ、そうだ。なあなあリオ、尺八貸してくれよ。俺の演奏を聞かせてやるぜ!!」
「それは面白そうだ。頼む」
尺八を受け取り、俺はさっそく吹く。
「さあさあ、俺の歌を聞けえ!!」
突撃、らぶはああああああと!! じゃなくて……夜はこれからだぜ!!