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砂漠地帯

 さて、ヒコロクとヤタロウの走る速度が半端ないおかげで、たった四日で砂漠入口に到着した……さすがに速すぎるわ。しかも二匹ともメチャクチャ嬉しそうに飛び跳ねてるし。

 なんで飛び跳ねてるかアオ、ウングに聞いてみた。


「……ヤタロウと走るの、すごく楽しかったって」

「同族とお喋りしながら走ってたら、速度の加減忘れたってよ」


 どうやら、同じサイズの同族とお喋りしながら走ってたら、加減を忘れて思い切り走ってたそうだ。楽しいこと喋りながら作業すると、いつの間にか終わってることとか、作業がいつもより格段に楽しくなることってよくあるしな。

 というわけで、砂漠の入口。

 俺は麦わら帽子をかぶって外へ出て、先の光景を眺めていた。


「すっげえ……マジな砂漠。サハラ的な砂漠だわ」


 森を抜けた先にあったのは、純度100パーセントの砂漠だった。

 そりゃもう、砂しかない。陽炎とか見えるような砂漠……水平線の彼方まで砂漠としか思えないような、マジな砂一色の世界。

 さて、現在の俺たちだが……森の入口で停車している。


「ゲントクさん、チェックお願いします」

「ああ、わかった」


 外に出て作業をしているのは、俺とリヒターとシュバン、そして砂漠入口で待機していた、アメジスト清掃が派遣した獣人たち。

 何をしているのか? 馬車を陸上形態から、砂漠形態へと変えているのだ。

 車輪を外し、専用のソリと交換する作業……まあ、この馬車を設計したのは俺なので、俺が指示出しをするのは当然のことだ。シュバン、リヒターも手伝ってくれるのはありがたい。

 アメジスト清掃が派遣した獣人たち……ああそうだ、補足しておくか。


「アメジスト清掃は規模がデカくなって、清掃以外にも幅広く手を出してるから、『アメジスト清掃』じゃなくて『アメジスト獣人商会』って名前を変えたんだ。商会長はバリオンな」

「ゲントクさん? あの、誰に言ってるんですか?」

「ああすまん。ちょっと暑さでな……」


 さて、ソリの変更が終わり、獣人たちも俺たちも大汗を流していた。

 俺は獣人のリーダーに聞く。


「あんたら、これからどうするんだ?」

「へい。オレらはこのまま近くの町にあるアメジスト獣人商会の支店で待機します。いずれ、砂漠開発で呼ばれると思うんで」

「そうか。じゃあこれ、チップだ。みんなで美味いメシでも食ってくれ」


 俺はけっこう多い金額をリーダーに渡すと、驚かれた。


「いやしかし、オレらも仕事で、報酬はちゃんと支払われるんで……」

「俺の気持ちだって。みんな頑張ってくれたし、思った以上に早く終わったしな。パーッと飲み会でも開いてくれ」

「旦那……ありがとうございます!!」


 獣人たちは俺たちに頭を下げ、森の中を徒歩で帰って行った。

 さて、俺とリヒターとシュバンは、汗ダラダラの状態だ。


「くぁーっ!! クソ暑いな。まだ砂漠入口だってのに」

「ですね……ふう、シャワーを浴びたいです」

「同感です。マイルズさんが飲み物を用意してると思うんで、オレらも車内に戻りましょうか」

「だな。おっと二人とも……その前に」

「「?」」


 俺は魔力を手に集中させ上空へ放つと、巨大な水球が発射される。

 そして、その水球から雨のように、冷たい水が降り始めた。

 俺はシャツを脱ぎ、上半身裸で水を浴びる。


「っぷぁぁ!! 気持ちいいな!!」

「ははは……ですね。あまりこういう姿は見せるべきではないですけど」

「……じゃあ、オレも」


 リヒター、シュバンも上半身裸になる……こ、こいつらメチャクチャ鍛えてんな!! ってかリヒター、身体中傷だらけ……壮絶な戦いでもしたのかね。

 すると、窓からサンドローネたちが顔を出す。


「全く、何をしているのよ」

「おーう。男の水浴びだ。覗くなよお嬢さん」

「……誰がお嬢さんよ」

「あー!! おっさん、気持ちよさそう!! ねえねえ、アタシも行っていい?」

「ウチも行くー!!」


 と、ロッソとリーンドゥが飛び出してきた。

 シャワーを浴びて水浸しになり、キャッキャと笑う。

 そして、アオもブランシュも出てきた。ヤタロウ、ヒコロクも水浴びに混ざる。

 俺は追加で水球を上空へ放つと、まるで大雨のように水が降り注ぐ。


「あ~最高!! 砂漠の水浴び気持ちいぜ~!!」

「ふぁ~……おっさん、この水つめたいねえ」

「……おじさんの水魔法、すごいね」

「くぅ~!! おっちゃん、やっぱタダ者じゃないねえ!!」

「ふふふ、当然ですわ。おじさまはすごいお方ですのよ」

『わう』『くううん』


 この日は、砂漠の入口で一泊……翌日の早朝から、砂漠入りすることにした。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 ヒコロク、ヤタロウが砂漠に入ると、ソリにモードチェンジした連結馬車も砂を進む。

 俺は二階の窓からソリをチェックする。


「……よし。沈まずに進んでる。というか今更だけど……ヒコロク、ヤタロウは暑くないのか?」


 柴犬とチベタン・マスティフの二頭。触るとわかるけどかなりモフモフだ。

 この灼熱の砂漠では厳しいんじゃないだろうか。

 そう思っていると、いつの間にか隣にいたアオが言う。


「オータムパディードッグは、寒暖に強い。極寒でも、灼熱でも、ケロッとしてる。このくらいの暑さじゃ何の問題もない」

「そ、そうなのか……」

「それよりも、そろそろ危険かも」

「え?」

「あそこ、見て」


 アオが指差した先……連結馬車の左側、数百メートル離れた辺りを見る。

 そこに、妙な砂煙が上がっていた。


「……な、なんだ?」

「何か来るよ」

「え」


 確かに……砂煙が近づいてきた。

 砂煙の奥に、黒いシルエットが見える。

 

「な、なんだあれ……って、おいおいおいおいおいおい!? ななな、なんだありゃあ!?」


 俺は窓に張り付いて叫んでしまった。

 窓の向こう、連結馬車の数百メートル先に見えたのは、あまりにも巨大な『サソリ』だった。

 アオは、ペラペラとノートをめくりながら冷静に言う。


「魔獣……砂漠の固有種、『ジャイアントスコーピオン』だね。硬い外殻、尻尾の猛毒、両手の鋏と、防御も攻撃もすごい魔獣」

「いやいやいやいやそんな冷静に言ってる場合かい!? うおおおおおおしし進路、進路変更おおおおおおおお!!」


 パニクる俺。

 当り前だ。デカいサソリ、大きさは二十五メートルプールじゃ収まりきらないデカさ。

 小型の飛行機が突っ込んでくるような迫力。クソやべえええええ!!

 するとアオ、俺の腕をガシッと掴む。


「おじさん、落ち着いて。今はブランシュが外の警備してる」

「ぶ、ぶぶ、ブランシュって」

「あそこ」


 すると、御者席に座っていたブランシュが見えた。

 走行中なのに日傘を差しており、ヒコロクの背中に飛び乗る。

 そして、ヒコロクが背負っていたデカいハンマーを手に取り、ニコニコしながら言った……ように見えた。


「ふう。日焼けしちゃいますので、さっさと終わらせますわ」

「ブランシュ、任せていいのかい?」


 と、バレンもいた。御者席に普通に座って落ち着いてる。

 ブランシュが頷くと、バレンもニコニコしながら頷いた……このコンビ落ち着きすぎだろ。

 そしてヒコロク、ヤタロウが停車。ブランシュはヒコロクの背中から降り、こちらへ向かって来るサソリへ歩を進める。


「おいおい、どうすんだよ!? アオ、お前も手を貸した方がいいんじゃ」

「ううん、大丈夫。おじさん、知ってる? ブランシュはね」


 ブランシュは、ハンマーをクルクル回転させる。

 そして、ブランシュとサソリの距離が二十メートルもないくらい近づくと、ハンマーをまるで野球のバッターのように構えた。

 アオは言う。


「私たちの中で一番、大物狩りが得意なの」


 ブランシュがハンマーを振ると、小型ジェット機のようなデカいサソリの顔に命中……まるで、ゴルフボールのように、巨大サソリはバラバラになって吹っ飛んだ。


「……うっそだろ」

「ね、問題ないでしょ」

「……改めて、お前ら規格外すぎるだろ」


 ブランシュは、ニコニコしながら日傘を差し、ゆっくりと馬車に戻ってきた。

 御者席に座ると、ヒコロクとヤタロウは何事もなかったように走り出す。

 すると、二階にサンドローネが上がって来た。


「ふう……ねえ、少し停車していたみたいだけど、何かあったの?」

「いや、サソリが出てな」

「サソリ? 砂漠にサソリは出るでしょう? 私もそれくらい知ってるわ」

「いや、デカくてな……ああもういいわ」

「ふうん。ねえゲントク、シュバンが砂漠にピッタリなカクテルがあるって言ってたわ。飲みに行かない?」

「そうだな……うん、なんか飲みたい。アオも行くか?」

「だめ。もうすぐ護衛交代だから。仕事中は飲まない」

「ふふ。ゲントク、護衛はプロに任せて、あなたものんびりしなさい」

「……だな」


 とりあえずわかった。

 護衛に関しては問題ない。あのサソリが群れで襲ってきても、『七虹冒険者』なら容易く蹴散らすだろうな。

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