砂漠へレッツゴー!
さて、改良した連結馬車の説明をしよう。
まず、車両の改善……砂漠を進むということで、足回りの強化をした。今は車輪で進んでいるが、砂漠に入る前に『ソリ』へとモードチェンジする予定だ。
砂地だし、車輪だとズブズブ沈むだろうからな。ソリにしたらスムーズに進んだので問題なし。
そして内装。
全ての車内にエアコンを完備した。そして展望台には灰皿を設置。一階には売店を設置したり、全体的に作りを見直して車内を少しでも広く快適にしている。
そして、新たに増設した『シャワールーム』だ。
まあその名の通り、シャワールームである。シャワーは二門ずつ、男女別で合計四門あり、シャワーの湯は排水の過程で『浄化』の魔石を通って浄化し、そのまま排出される。まあ垂れ流し……言い方はアレだが、大雨とか普通に降るし、水の垂れ流しくらいは問題ないだろう。
今回、食堂車は再びマイルズさん、シュバンにお任せした。
食料も山ほど積み込んだし、今回はヒコロクだけじゃなくヤタロウも一緒なので引っ張る力が強く、速度もメチャクチャ速い。
実はここだけの話……全ての馬車に『不壊』の魔石を設置してあるので、ミサイルが直撃しても壊れることはない。どんな荒っぽい運転でも、馬車に傷一つ付かないだろう。
と……こんな感じで、馬車は砂漠に向かって進んでいた。
◇◇◇◇◇◇
「ゲントク、いい? 聞きたいことがあるんだけど」
と、サンドローネが二階の展望室へ来た。
俺は煙草を吸っている。サンドローネも俺の隣に座り、煙草を吸い始める。
ちなみにリヒターはいない。一階でユストゥスと打ち合わせをしているようだ。
「なんだ? ああ、大福ならスノウさんに預けたぞ。ユキちゃんと白玉も大喜びだ。スノウさんも、大福はある意味でママ友みたいなモンだし、留守番の間は寂しくないんじゃないか?」
「誰もそんなこと聞いてないでしょうが……」
おっとすまん、どこかの誰かが気にしているかもしれないしな。
サンドローネは言う。
「今回、情報は仕入れて共有したつもりだけど……『獅子座の魔女』リオ・レオ様がどういうお方なのか、獣人たちをどのように統一し、国を興したのか、細かい話は不明なところが多いの」
「……つまり?」
「獣人たちが、反感を持つ可能性もゼロではないってこと。ロッソさんたちだけじゃなく、バレンさんたちにも依頼をした本当の理由は、敵が魔獣だけじゃない可能性もあるから」
「えええ……」
「最低でも一人、『七虹冒険者』の一人を、私とユストゥスとあなたに付けるわ。残りは全体の警戒ね」
「…………行く前から不安になるようなこと言うなよ」
「はいはい。話はそれだけ。じゃ、私はシャワーでも浴びようかしら」
そう言ってサンドローネは一階へ。
俺も灰皿に煙草を押し付け、車内の様子を見に行くのだった。
◇◇◇◇◇◇
まず一階に降りると、リヒターとユストゥスが書類を広げて話をしていた。
「流通ですが、まずは海の国ザナドゥにある支店を経由するべきかと」
「確かにそうですね。木材などの資材は砂漠の国にあるものを加工すればいいですが、それだけでは足りない物も圧倒的にある……」
「まずは、支店を置き、住人から信頼を得ることも必要かと」
「ええ、アレキサンドライト商会に所属する獣人の従業員たちに、砂漠移住の話をしたところ、多くの獣人たちが賛同してくれました。同胞たちに道を示したいという願いもあるようで」
「それなら安心ですね」
なんか難しい話をしている。
まあ……流通、建築とか開拓に関して、俺が言えることはない。
異世界スローライフ的なラノベ知識はあるけど、そんなもんで国を作って豊かになるとは正直思えんしな……ああいう都合のいい開拓とか、やっぱり物語の話だけだ。
実際に、国を作るなんてもんは生半可じゃない……歴史がそれを証明している。知らんけど。
邪魔しちゃ悪いので食堂車へ行くと、シュバンがバーカウンターで酒のチェックをしていた。
「お、ゲントクさん」
「ようシュバン。いや、マスターって呼んだ方がいいか?」
「からかわないでくれよ、ははは」
バーカウンターは改良して広くなり、こじんまりとしてはいるがダイブ使いやすくなっていた。
排水の過程で浄化すればいいとのことで、水道も新たに設置したし、酒の知識が豊富なシュバンが全てを管理するようだ。
「マイルズさんは?」
「料理の仕込み中。今回も気合いが入っている」
キッチンも広くなり、マイルズさんが何やら仕込みをしているようだ。
食堂車……以前使ったデータをもとに改良したから、かなり使いやすくなっている。やっぱり、自分たちで実際に使って、それで改善していくのっていいもんだ。
「今回も、メシと酒に関しては任せてくれ、ゲントクさん」
「当り前だ。むしろ、お前とマイルズさん以外には任せられないって。ははは」
ちなみ匂いでわかった……マイルズさん、すき焼きのタレを仕込んでるなこれ!!
◇◇◇◇◇◇
さて、俺たちが止まる個室は特に変化がないのでスルー。
ロッソたちが使う車両に行くと、ちょうどブランシュが二階から降りてきた。
「あら、おじさま」
「よう。居心地はどうだ?」
「ふふ、問題ありませんわ。個室も、二階の大部屋も……むしろ、申し訳ないですわ。わたくしたちだけで使うなんて」
「気にすんな。ロッソたちは?」
「ロッソはお昼寝。ヴェルデは車内の巡回、アオは馬車の屋根で周囲を警戒していますわ。一応、バレンたちも同じローテーションで護衛をしていますわ」
「じゃあ、お前とロッソが今は休憩か」
「ええ」
ちゃんと仕事はしているんだな……前は大はしゃぎしていたけど。
まあ、バレンたちの影響もあるのかな。
「ブランシュ~……水ぅ」
「こ、こらロッソ!!」
「うおっ」
ロッソが二階から目を擦って降りてきた……おっぱい丸出しで。
下はパンツを履いてるが、髪を降ろしておっぱいブルンブルンさせて降りてきた。相変わらずデカい……じゃなくて!!
俺は目を逸らし、ブランシュはロッソを二階へ押し込んだ。
「と、とりあえずゆっくり休んでくれ。護衛に関しては任せるからなー」
二階に向かって言うと、『わかりましたわー』と聞こえてきた。
そういやロッソ、寝る時って裸なんだっけ……いいもん見れました。
◇◇◇◇◇◇
バレンたちの車両へ行くと、一階の窓から外を眺めるバレンがいた。
「おや、ゲントクさん」
「よ。今はお前が護衛か。リーンドゥとウングはお休みかな?」
「ええ。リーンドゥは寝ています。ウングも交代まで休憩のはずなんですけど、ヤタロウのところへ行きましたよ」
「ヤタロウか……まさか、お前たちもオータムパディードッグを仲間にするとはな」
バレンの隣に立ち、外を見る。
街道をかなりの速度で走っている。時速百キロ以上出てる気がする……『不壊』の魔石がなかったら、車輪にガタきてもおかしくない速度だぞこれ。
「ヤタロウは、深い傷を負っていましてね。最初は楽に死なせてやろうと思ったんです。でも……ウングが諦めなかったので、僕たちも諦めず治療をしました」
「へえ……」
「今ではもう、『殲滅の薔薇』の一員ですよ」
バレンは嬉しそうに微笑んだ。
「なあ、ロッソたちと話をしたか?」
「ええ。護衛に関して、打ち合わせはしました。正直……仕事だとわかっていますけど、空気はよくありませんね。誰も言いませんけど、ヴェルデには感謝しています。彼女がいなければ、もっと空気が悪くなってたかもしれません」
ヴェルデ、この中で誰とも因縁がないからな。
そのこと指摘すると本人は怒るけど。
「なあ……仲直り……あ~、いや、何でもない」
俺が言うことじゃないな。言おうと思ったがやめた。
ウングは俺を見て微笑み、再び窓の外を見る。
「喧嘩をしたわけじゃありませんからね。どうしても許せないこと、認めることができないこと、受け入れることができないことがあるんです。ゲントクさんなら、わかるんじゃないですか?」
「……まあな。俺はお前らよりおっさんだから、そういうこともよくわかる」
ラノベや漫画の展開なら、かつて敵だったやつが仲間になったり、ヒロインとして主人公に惚れたりする展開があるんだろうな。でも……そんなのはやっぱり、都合のいい展開だ。
決して許せないことがある。受け入れられないことがある。認めることができないこともある。そんな理由を、薄っぺらな言葉でどうにかできるなんて思わないし、そんなことができるのはやっぱり、フィクションの世界だけだ。
いじめをしたやつが、大人になって「ごめん」と言って許せるか? 第三者が「許すことが大事なんだ」なんて腐ったセリフを吐いて、許すやつはいるのか?
まあ、いるなら馬鹿か、物語のキャラだけだ。
こればかりは、どうにもならない問題だ。だから俺は一つだけ言う。
「まあ……喧嘩しないで、護衛はしっかり頼むぞ」
「ええ、お任せください。ボクたちもプロなので」
さて、話はおしまい。
というか、連結馬車の速度が想定の倍以上速い……しかもヒコロクたち、夜も寝ないで走るんだよな。もしかしたら数日で砂漠の入口に到着しちまうかもしれん。
「なあバレン。今はお前自由な時間なんだよな。だったら、チェスでもやらないか?」
「……チェス?」
「ああ、ボードゲームだ。お前、貴族だしチェスやるの似合いそうだし、ぜひやってほしい」
「ええと……に、似合いそうだからって理由ですか?」
俺はバレンにチェスを教え……物凄く興味を持ったバレンに何度も勝負を挑まれ、たった一日でボコボコに負けるのだった。