砂漠開発
さて、砂漠開発についてユストゥス、サンドローネとリヒターが同席し話をすることに。
今日はもう閉店。一階のシャッターを閉め、「閉店」の札をかけた。
いつもなら居酒屋で……ってなるのだが、ユストゥスは子供っぽいし、まだ酒を飲む時間じゃないので、このまま事務所で話をする。
ユストゥスは、分厚い紙の束を出してテーブルへ広げた。
「まず、現在のアルジェント砂漠中央、スーリヤオアシスにある獣人の国について説明します」
お堅い口調だな……真面目なんだろう。
銀髪のお団子、フチなし眼鏡の美少女ユストゥスは、紙の一枚を手に取り俺の前へ。
「まず、アルジェント砂漠はエーデルシュタイン王国から南にある砂漠地帯です。少し前までは、様々な獣人たちがそれぞれ集落を作り、各地で生活していました」
「なるほどな。砂漠で生活か……大変だろうな」
「ええ。オアシスを巡り、部族ごとに対立、争いなどもあったようです。その中でも特に大きな六つの集落があり、それぞれ最強の戦士であり集落の長が集まり決闘……勝利したのが、『獅子座の魔女』リオ・レオ様。彼女はアルジェント砂漠で最も大きなオアシスである『スーリヤオアシス』に、全ての部族を集結させ、新たな国を興し女王となりました」
「おお……豪快なんだな」
これまでの十二星座の魔女とは毛色が違う気がする。
「そして、国を興したはいいが、何から始めればいいのかと、わが師ファルザン・リブラに相談が来ました。そこでわが師は、サンドローネ様に今回の件を任せてくださったわけです」
「…………」
任せた、というか……丸投げって気がするのは俺の勘違いか?
するとサンドローネが言う。
「開拓、事業、建築、流通……やることは山ほどあるわ。ゲントク……あなたに任せたいのは、国の『目玉』となるような事業よ。国を作ったことは、間もなくエーデルシュタイン王国、そして他の国にも伝わるわ。その時に、「砂漠の国に行ってみたい」や「住んでみたい」と思わせる『魅力』が欲しいの」
「魅力ね……」
「それ以外のことは、私が担当するわ。ふふ、アレキサンドライト商会が開拓事業に手を出し、女王に恩を売れば……国での専属商会として認めてもらえるわ」
ちなみに、専属商会になれば、砂漠の国で今後、他の商会が事業を行う場合、全てアレキサンドライト商会を通さねばならないのだ。たとえ四大商会だろうと、それは変わらない。
さらにさらに、四大商会は全て、国の開拓事業などに手を出し、その国専属の商会となっている。
「で……俺に国の目玉となる『何か』を考えろって? おいおい、魔道具職人の域を超えてるぞ」
「あなたは、魔道具職人の前に第四降臨者……異世界の住人でしょう? あなたの世界にも、砂漠の国はあるでしょう? どんなことをやっているの?」
砂漠ねえ。
パッと思いつくのはピラミッド、スフィンクス、ターバン巻いた人……あとは、リゾート地かなあ。
エキゾチックなリゾートとかテレビで見たっけ。でかいオアシスに超超超高級ホテルとか。一泊百万円を超えるようなホテルとか。
オアシス……オアシスかあ。
「なあ、ユストゥス……って呼んでいいか?」
「はい」
「ユストゥス。そのスーリヤオアシスだっけ? どういうオアシスなんだ?」
「砂漠地帯にある全てのオアシス、その根源とも言われています。枯れないオアシス、砂漠の血など呼ばれ、砂漠の住人たちは神聖視しているそうです。その広さですが……計算によると、エーデルシュタイン王国の区画の一つが、すっぽり収まるくらいだとか」
「そりゃデカいな」
エーデルシュタイン王国の区画、地方の主要都市レベルの広さがあるからな。
「あと、住人はどれくらいいるんだ?」
「そうですね……全て計算したわけではありませんが、恐らく十五万人ほどかと」
「け、けっこういるな」
「ええ。なので、知識さえあれば働き手に問題はありません。十人の五割が戦士なので、皆屈強です」
「お、おう……」
「それはありがたいわね。こちらからも技術者は派遣するつもりだけど、働き手がいるなら、指示者を多く連れて行けばそれでいいわね」
働き手はばっちりか。
あと、いろいろ気になることもある。
「あのさ、十五万人だろ? 食い物とかどうしてるんだ? それに、家とか作るんなら資材とか」
「そのあたりも問題ありません。そもそも、アルジェント砂漠の六割は森林です。オアシスの数は大小合わせて二千以上、それにいきなり十五万全てが砂漠中央に移住するわけではないので」
「まあ、そうだよな」
「それに、アルジェント砂漠地帯は、この世界で最も魔獣が出る地域です。十五万全員が同時に魔獣狩りをしても、生息する魔獣の一割以下しか狩ることはできませんので」
「…………」
それってつまり、砂漠に行く俺たちも魔獣の危険があるんじゃ。
そう思っていると、サンドローネが言う。
「優秀な護衛がいれば問題ないでしょう」
「あ、ああ、そうだよな」
うん、それはその通りだ。
さて、資材も食材も働き手もいる。あとは俺のアイデアか。
「そうだな……やっぱ思いつくのはリゾートかな。デカい砂漠に高級な宿を立てて、オアシスで泳いだり、高級な食事をしたり……あとは観光とか。町にデカいショッピングモールを建てて、そこでしか買えない化粧品とかブランド品を売ったり」
「「「…………」」」
ふと思った。日本ではない、異世界ラノベならではの知識。
「あとは、コロシアムなんてどうだ? 戦士ばかりなら、そこで戦士の決闘をするんだよ。一年に一度、誰が一番強いのか戦わせたり……もちろん、ブランシュみたいな高位の回復術士を常駐させて、死者とか出ないようにして。ああ、このアイデアいいな……他国にも宣伝できるんじゃないか?」
砂漠王国、最強を決める大会開催!! とか。
優勝者は一年間『チャンピオン』の名誉を与えられるとか。闘技場とかコロシアムとか、よくわからんトーナメントに主人公が出て無双するなんて、ありきたりな話だもんな。
するとユストゥスが高速でメモを取る。
「面白い。面白いですね……過酷な砂漠の地に、あえて超高級リゾートを作る。そして闘技場……この発想はありませんでした。戦いなら世界各国から腕自慢の冒険者が参加するかもしれませんし、砂漠の国の獣人たちも、諍いや争いではなく、『誇りを賭けた戦い』になら遺恨も残さない。流石です、ゲントク様!!」
「お、おう……ラノベ知識とか、海外のリゾートで思ったことをそのまま言っただけだが」
「ふふ。ユストゥス、これがゲントクよ」
「はい!! さすがサンドローネ商会長、さすがです!!」
うーん、ユストゥスの評価が上がってしまったな。
「ゲントク。今のアイデアをこちらで検討して形にし、企画書として持ってくるわ。そのあと、あなたの視点でもう一度、足りないところを補完してちょうだい。それと……護衛に関しては任せていい?」
「ああ。ロッソたちに聞いてみる」
「ええ。それと……できればだけど、『殲滅の薔薇』にも声をかけて。さっきユストゥスも言ったけど……アルジェント砂漠地域は、この世界で最も危険な地帯の一つでもある。さすがにロッソさんたち四人だけじゃ厳しいところもあるかもしれないわ」
アナイアレーション……ああ、バレンたちか。
うーん、仮にOKだとしても、ロッソたちと揉め……るか? 仕事での関りなら文句言わんかも。あいつらもプロだしな。
「わかった。ロッソたち、バレンたちに声をかけてみる」
「決まりね。砂漠までの移動は連結馬車を用意するから」
「ああ、わかった。はあ~……砂漠かあ。なんか俺、いろんなところに行くなあ。旅行気分だぜ」
「そうね。ユストゥス、スケジュールの確認を。リヒターはッバリオンのところへ、獣人の技術者について話を聞いて、あとで私のところへ」
「はい、商会長」
「はい、お嬢」
さてさて、今度は砂漠……今回は旅行というか、仕事で行く。
海外出張か……電気工事士だったころも、さすがに海外はなかったぞ。