少し先の話
さて、俺の仕事はもう終わった。
これから話すのはまあ……未来の話だ。
まず、学校建設が終わり、生徒の募集も始まった。平民、貴族と一緒に通える学校、そして新しいシステムでの授業形態はけっこうな評判となり、双子姉妹がこれまで手掛けてきた学校にも適応されるらしい。
そして、驚かれたのが制服だ。
最初の試みなので、なんと制服は無償での支給となり話題になった。平民も貴族もみんな、同じデザインの制服を着て授業を受けることになるのはかなり驚かれたようだ。
そして、なんといっても学食!!
育ち盛りの子供たちだしな……やっぱり思った通り、購買のパンは大人気となった。
授業の合間に完食する子供たちがけっこう増えているらしい。うんうん、これも学校のあるべき姿だと俺は個人的に思っている。
学食も大人気だ。人気なのは丼飯、女子はサンドイッチ系が人気だとか。しかも、格安で食べることができるから、家庭の財布にも優しいとかなんとか。
あとは部活動かな。
文化部的なのは刺繍、音楽、図書部や詩歌部なんてのもできたらしい。そして男子たちに人気なのは剣術部や格闘部、魔法研究部とか……けっこうワイルド系の部活が多い。
中でも、平民の子供たちに大人気の部活が『冒険者部』……まさかの冒険者を目指すために勉強をする部活とか。
現役冒険者たちを講師に招いての講義や、武器の使い方、サバイバルの知識なんかを教えるようだ。むしろ普通授業よりこっちの方が人気があり、冒険者ギルドが「冒険者育成の学校とかあった方がいいんじゃね?」みたいに考えるようになったとか。
それを聞いた双子姉妹も、冒険者ギルドと連携して冒険者育成学校を作ることを考え始めたとも後になって聞いた。
とまあ、俺の学園建設協力プロジェクトは、幕を閉じたってわけだ。
あと……なぜか俺の口座に十億セドル振り込まれていた。驚いて確認したところ、双子姉妹からの謝礼だった。
なんで十億かって? 俺が「仕事の報酬は十億セドル」とか言ったこともないのに言ったことになってるからだってよ!! ああもう、こんなにいらねえし!!
◇◇◇◇◇◇
「……ふぁぁぁ」
なんか数か月後の未来の夢を語っているような夢を見た。
ロッソたちの制服着用の翌日、俺は職場のソファで食休みをしていた。
双子姉妹の依頼が終わり、日常が戻ってきたのだが。
「にゃうう」
「ん? おお、ユキちゃんか……」
妙な重さを感じて視線を落とすと、俺の胸にユキちゃんがくっついて寝ていた。俺が昼寝をしているところによじ登り、一緒に昼寝をしていたようだ。
俺はユキちゃんを撫で、ネコミミを揉む。
「うにゃあ……」
「おはよう。はは、こんなところで寝ちゃダメだろ?」
抱っこすると、ネコミミがピコピコ動く。
ユキちゃんを座らせ、果実水をコップに入れてテーブルに置いた。
「今日は一人かい?」
「にゃ……クロハ、かぜひいたって。リーサもおでかけしちゃだめだって」
「風邪? 大丈夫なのかい?」
「にゃうう。おふろ上がって、はだかで寝転んでたせいだって」
「ははは……」
子供らしいな。まあ、ブランシュに会ったら治療してもらうよう頼んでみるか。
大福を見ると、白玉が寄り添って一緒にお昼寝している……和むなあ。
「今日は出張依頼もないし、午後は暇だなあ……ユキちゃん、おやつでも食べるか?」
「にゃ、たべる!!」
「よし。じゃあ……パンケーキでも焼くか」
俺はキッチンでパンケーキを作ることにした。
俺は手を動かしながら聞いてみる。
「ユキちゃんは、将来やりたいこと、あるかい?」
「にゃあ。わたし、ぼうけんしゃになりたいー」
「冒険者かあ……なら、ロッソたちからいろいろ習うといいぞ」
「うん。おじちゃんもぼうけんしゃになろうよー」
「ははは、俺はもうここで仕事をしてるしな。はい、完成」
喋りながらも手は動かす俺。パンケーキにバターを乗せ、蜂蜜をかける。
ユキちゃんの前に皿を出すと、おいしいそうに食べ始めた。
「にゃああ、おいしい!!」
「よかった。それにしても、ユキちゃんが冒険者か……なんか似合うかもな」
「あのね、ロッソおねえちゃんが言ってたの。わたし、まりょくがたかいって。まほう、おぼえられるって」
「ほう、そうなのか」
そういや、魔法属性の判別用紙、サンドローネが作ったのあったな……でもあれ、血が必要だし、子供には厳しいかもしれん。まあ、もう少し大きくなってからかな。
「クロハ、リーサもまほうつかえるかもって。三人でぼうけんしゃになるの」
「ははは!! それはいいかもな」
十年後……美少女三人組の冒険者がデビュー!! 猫、狼、狐の美少女獣人たち、早くも頭角を現す!! 『鮮血の赤椿』絶賛!! 次世代の『七虹冒険者』へ!! なーんて言われたりして名。
「おじちゃん、わたしがぼうけんしゃになったら、かっこいいまどうぐほしいー」
「はっはっは。わかった。じゃあ、ユキちゃん専用のアーマーを作っちゃおうかな」
「にゃったあー!!」
かわいい子だ。
こんな子供が怪我をする姿なんて見たくないし、携帯用の簡易アーマーとか作れたら作ってみるのもいいかもな。
「おじちゃん。わたし、おじちゃんのおよめさんになってあげるね」
「そりゃ嬉しいな。ユキちゃんみたいな可愛い子がお嫁さんになってくれたら、俺も嬉しいよ」
断言するがロリコンじゃないぞ。
まあ、子供の言うことだし、すぐ忘れるだろうな。
この子が大人になるころには、俺も相当なオッサンだ。結婚願望は相変わらずないだろうし、一人でのんびり生活していることだろう。
まあ……この子には幸せになって欲しい。冒険者を目指すのもいい、いずれ好きな男ができて結婚するかもしれない。その時、笑顔でいてくれるなら俺も嬉しい……そう思うのだった。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
お昼を食べていると、サンドローネがやってきた。
「ゲントク、以前いった砂漠開発の件、話がまとまったわ」
「えー……もう?」
「約束したんだし、ちゃんと手伝ってもらうからね。と……紹介するわ」
サンドローネが指をパチンと鳴らすと、リヒターが事務所の入口ドアを開ける。
そこに、十四歳くらいの少女が立っていた。
ぺこりと一礼し、事務所に入って来る。
「はじめましてゲントク様。わたくし、アレキサンドライト商会副商会長のユストゥスと申します」
「ふ、副商会長……って」
どう見ても子供だった。
銀色のお団子ヘア、長い耳、そしてオシャレなフチなし眼鏡……エルフだな。
着ている服はゆったりしたロングスカート、シンプルなシャツ。手にはスケジュール帳っぽい本を持っていた。
少女……ユストゥスは言う。
「まだ八十三歳と若輩ですが、サンドローネ様の元で勉強させていただいております」
「八十三……エルフのスパンだと若輩なんだな。人間だともう老人だけど」
「以前言ったわよね。ユストゥスは、『天秤座の魔女』ファルザン様の秘蔵っ子。今は私のところで商会運営について学んでいるの」
「七年ほど前、エルフの里から人間の国へ来ました。そして、ファルザン様の元で勉強をしていました」
「へー、ファルザン……名前はけっこう出るけど、俺は会ったことないな」
「そのうち、挨拶しに行くって言ってたわ」
天秤座か……十二星座の魔女、もう半分くらい会ったよな。
とりあえずユストゥスをソファへ案内する。
「では、砂漠開発の件、わたくしの方から説明をさせていただきます」
「お、おう」
こうして、一難去ってまた一難……学校開発の次は、砂漠開発に手を出すことになる俺だった。
というか……ただの電気工事士、今は魔道具技師の俺に砂漠開発なんてできるのかね。