学校は学ぶだけじゃない
さて、学食、購買に関する細かい調整が終わり、俺は事務所に双子を呼んだ。
そして、けっこうな苦労をして作った『学習計画表』を見せる。
双子は計画票を手に取り、顔を寄せ、目の動きまで同じにして文字を読んだ。
「授業は五十分、十分の休憩を入れ、午前中は四時間授業。昼食時間を一時間取り、午後は二時間授業。放課後は自主学習時間か、部活動……」
「この部活動というのは?」
「体育系、文科系とあるだろうけど、運動する時間とか、趣味……って言っていいのかわからんが、同じ趣味を持つ者同士で集まって活動する時間だな。この世界で言えば……刺繍とか、草花の栽培とか」
「ふむ……」
体育系だが、この世界ではスポーツなるものがあまりない。
元からある遊びは、ボール蹴りやキャッチボールくらいだ。基本的のこの世界の子供たちも、平民なら親の手伝いとかしたり、遊ぶのはボールとか、積み木とか……こういう言い方はしたくないが、けっこう幼稚なのだ。
貴族なら、ボードゲームみたいな遊びがけっこうあるんだけどな。
「授業も、詰め込んでやるよりは休憩時間を入れた方がいい。あと、ただ勉強させるより、楽しみとかあった方が絶対いいぞ。俺の場合は、購買で買うパンとか学食だな。ただパンをミルクを支給するよりは絶対にいい。子供も喜ぶぞ」
そう言い、俺はトレセーナに試作してもらった『購買パン』をテーブルに置く。
「これはその購買パンだ。授業の合間に食うのもいいし、これを昼飯にしてもいい」
「「……」」
双子はそれぞれパンを取り食べる……おお、エルフ耳がピコピコ動いたぞ。
「「おいしい……」」
「だろ? ウスターソース、トレセーナが改良して納得いく味になったんだよ。その焼きそばパン、俺が作ったやつよりうまい……ちょっと複雑な気分だけどな」
それ以外にも、学食メニューも考えた。
チャーハン、丼飯、焼きそば単品……他にも定食系。
「そして、購買で役立つ魔道具がこの、食券機だ。このスイッチを押すと、食券が出てくる。さすがにお金を入れて食券を出すシステムは作れなかった……その辺は月謝制度にするとか考えてくれ」
「食券……つまり、食べたいものを選び、食べたい物の文字が書かれているスイッチを押すと、食券が出てくるというものですね」
「ああ。それを食堂のカウンター席へ出すと、おばちゃんが飯を作って出してくれるってわけだ。さらに、その日に何がどれだけ出たのかわかるし、月に一度とか人気のない商品を入れ替えたりする目安にもなる」
「「……面白い」」
ちなみに食券機。改良を重ねて綺麗に焼き印を押せるようになった。
お金の識別などは難しすぎてできなかったので、ただスイッチを押すだけの仕様になってしまったがそれは勘弁してくれ。
「まあ、俺が通っていた学校はこんな感じだな。さすがに、この世界の授業内容とかまでは関与できないから、その辺はお前たちに任せるけど」
「なるほど」
「面白いですね」
双子はウンウン頷き、カバンから見取り図を出して広げる。
「これは、新たに建設予定の学園見取り図です」
「ゲントク様。何か書き加えることなど、ありましたら」
「ぜひ、ご指摘をお願い致します」
「さあ、どうぞ」
相変わらずステレオで話をする双子だ。
俺はペンを受け取り、見取り図を眺める。
「食堂は広い方がいいな。あと教室だけど、ただ机や椅子を並べるんじゃなくて、扇状に、段々になっている方がいい。面白いし、大学っぽいしな」
「「ふむふむ」」
「あと、部活やるなら部室棟みたいなのあった方がいいな。部室、それぞれの部活で使う部屋。あとグラウンド……授業で体育とかあるか? 俺のいたところでは体育でマラソンやったわ……必ず病気で休むやついたんだよ」
「「ふむふむ」」
「あとは、音楽の授業とかあったなあ。ピアニカとかリコーダーとか、懐かしいわ」
「「ふむふむ」」
「……あ、そうだ!!」
大事なこと忘れていた。
学校、学園で一番大事なもの……これがないと始まらない!!
◇◇◇◇◇◇
十日後。
俺は双子に呼び出され、ロッソたちと学園建設地へ来ていた。
建設予定地では、獣人たちが重そうなローラーをゴロゴロ引いては地ならしをして、眼鏡をかけた頭のよさそうなお姉さんがいろいろ指示をしている。
そして、測量もしている……すごいな、みんなプロの仕事だ。
双子姉妹が俺たちの前に来ると、揃って一礼する。
「ようこそ、学園建設予定地へ」
「歓迎します、皆様」
「よう。建設、始まったんだな」
「ええ、ゲントク様のアイデアを採用し、本格的な建設が始まりました」
「学食、購買も入ります」
「それと、貴族だけでなく、平民たちの受け入れもします。ここは、私たちが手掛ける学園で初めての、平民、貴族の混合学園となります」
これも、俺のアイデアだった。
学園、基本的には貴族の子供しか通えないんだよな。平民の学校もあるけど数は少ない。
少なくとも、文字を書いたり読んだりすることくらいは誰でもできるようになってほしい。
「食堂の方はどうなった?」
「月謝制度を採り入れることになりました」
「貴族向け、平民向け、そして共同食堂の三か所を設け、メニューもそれぞれ変える予定です」
「うん。いきなり全てを混ぜてやるのも難しいし、いい考えだと思う」
すると、ここでロッソが挙手。
「あのさ、おっさん。アタシら呼んだのってこの学園見せるため? まだなんもないけど……」
「ああ、それもあるけどもう一つある。そろそろ来るはずだけど……」
と、ここで一台の馬車が停車。サンドローネとリヒターが降りてきた。
「ゲントク、頼まれたもの、用意できたわよ」
「いいタイミング。さすがサンドローネだな」
「フン。まったく、この私をアゴで使おうなんて、あなたって本当に……」
「まあまあお嬢。ゲントクさん、近くにあるアレキサンドライト商会が倉庫に使っている空き家がありますので、そちらへご案内します」
「おう。リヒター、仕事が早いぜ」
「……おじさん、何をするの?」
アオが首を傾げる。双子も首を傾げていた。
「ふふふ……学生にとって一番大事な物ってやつだ」
◇◇◇◇◇◇
さて、アレキサンドライト商会の空き家に到着し、リヒターが用意したスタッフたちが出迎えた。
ロッソたち四人はスタッフと共に行き、俺とサンドローネとリヒター、ヘミロスとゲミニーは空き家一階の応接間へ。
「ゲントク様」
「学生にとって一番大事な物とは?」
「ああ。いや~……忘れていたよ。施設や学食や購買のパンとかも大事だけどさ、やっぱ『コレ』がないと学生じゃないって感じだ」
「「……はあ」」
どうもわかっていない。
すると、ドアの向こうでキャッキャウフフする声が聞こえた。
俺は立ち上がり、ドアノブを手にかける。
「学生といえば、やっぱこれだろ」
ドアを開け、ロッソたちが入って来た。
「「……!!」」
「へえ、いいじゃない」
「おお……」
驚く双子、サンドローネとリヒター。
俺は入ってきたロッソたちを見て言う。
「学生といえば、『学生服』だろうが!!」
そこにいたのは、学生服を着たロッソたちだった。
◇◇◇◇◇◇
学生服。
現実ではかなり地味なデザインなのが多い。漫画やアニメやエロゲでは凝りに凝ったドレスみたいな、クソ田舎の過疎過疎学校でもめちゃくちゃ金のかかってそうなデザインの制服が出てきた。
なので、サンドローネが紹介してくれたデザイナーと相談しつつ、学生服を考案したのだ。
「なんかすっごい綺麗な服だけど、アタシ似合ってる?」
「おう、最高だぜ」
色は白を基調に、コンセプトは『エロゲに登場する学園の制服』だ。
ミニスカ、タイツにリボン、パーティーでもそのまま出れるようなデザインだ。胸元を少しだけ開き、微妙な色っぽさも出している。
ロッソ……赤髪ツインテールで制服って、マジでなんかのキャラクターみたいだ。
「……スカート、少し短いかも」
「まあそんなもんだ。ロングスカートに変更もできるぞ。ってかブランシュがロングスカートだし」
「うふふ。なんだか聖職者の法衣みたいですわね。わたくし、好きかもですわ」
アオはミニスカだが、ブランシュはロングスカートだ。
制服は、入学の段階で採寸……まあ多少の自己負担はしてもらうけど。そこで、ロングかミニかを選んでもらう。
「……制服ね。私、こういうの着たことないわ。私が通ってた時はドレスだったし」
ヴェルデも、微妙に嬉しそうにくるっと回転した。
制服を眺めつつ俺は言う。
「貴族と平民が通う以上、格差ってのはどうしても出ちまう。だけど、みんな同じ制服を着ることで、学園内では同じ立場って意味を持たせようと思って提案した。基本的に、生徒は制服を着用!! どうだ、いいアイデアだろ?」
「「……素晴らしい!!」」
双子はパチパチと拍手する。
「金はかかるけど……まあ、それくらいの負担はしてもらうしかないな」
「その辺は、私たちで調整します」
「ええ。このアイデア、ぜひ活かします。他の学園でも取り入れたいですね」
「ああ、それともう一つ……男子用の制服もあるんだ」
と、俺はリヒターを見た。
「……あ、あのゲントクさん。なぜ私を?」
「いや、男子用のあるんだよ。ブレザーか、学ランの二種類あってな。どっちがいいか最終的な判断はここでしようと思ってな」
「ま、まさか……私が着るんですか!?」
「当り前だろ。三十後半のオッサンである俺が着てもキツイだけだ。お前ならまあなんとか」
「ええええ……」
「リヒター、着替え」
「お、お嬢まで!?」
「さあ、早く着てください」
「判断をしたいので」
双子もリヒターに詰め寄り、とうとう観念した。
こうして、ロッソたちと並んでリヒターも学生服を着るのだった……ちなみに、ブレザーより学ランが似合ったので、制服は学ランを採用することにしたのだった。