学校のパン
「うーん……どう、かなあ」
現在、俺は自宅でソースづくりに挑戦していた。
ソース……学校の購買で買うパンには欠かせない。焼きそばパン、ソースの濃い味が何とも言えないコロッケパンにメンチカツパン。甘いだけじゃない、しょっぱい系のパンには欠かせない。
だが、このソースが難しい……爺ちゃんが料理人やってた頃はいろいろな調味料を自分で作ってたけど、俺はそこまで料理に入れ込んでないしな。
「異世界玉ねぎ、にんじん、リンゴにトマト、ニンニクにショウガっぽい野菜……コショウに唐辛子だったっけ。あとはスパイスとか……」
このスパイスがよくわからん。
爺ちゃん、何使ってたっけ。そもそも異世界で手に入るのか?
いろいろ試行錯誤し、やや酸っぱい黒いソースが完成した。
ドロドロのソースを漉し、サラサラの黒い……いや、茶色いソースが完成。舐めてみる。
「……………………まあ、うん」
ソースっちゃあソース。でもなんか足りないというか……うーん。
「ってか俺、料理人じゃないし。料理もしたことない異世界の主人公がマヨネーズとかアイスとか楽々作るようなことできねぇや……まあ、いいか」
とりあえず完成でいいや。
俺は買い物で買ってきた魚をフライにし、ソースをかけて食べてみる。
「うん。うまい……まあ、ちと物足りないソースだけど……塩振って食うより全然マシかなあ」
あとは焼きそば用の麺だ。
「麺……かん水が必要だな。重曹と水でいいんだっけ……重曹は炭酸水素ナトリウムだっけ。確かこの世界では、汚れ落としで使われるんだっけな。確かうちにもあったはず……」
俺は小瓶に入っていた重曹を水に混ぜ、火にかけて完全に溶かす。
沸騰させないようにして完全に混ぜたら水を足し、冷めるまで待つ。
その間、小麦粉を用意。かん水が冷めたらさっそく麺打ちをする。
「年越しそば、爺ちゃんが打ってるの見て、俺も真似してやったんだよな」
麺打ちは得意な俺。慣れた手つきで麺打ちをし、包丁で生地を切っていく。
中華麺が完成。麺を硬めに茹でで水でしめ、フライパンで肉や野菜を炒め、麺を投入しよく炒める。そしてソースを加えてさらに炒め、焼きそばが完成した。
「味見……まあ、うまい」
うっめえ!! ってほどじゃないが、マズくもない。
これに、切れ目を入れたコッペパンに挟んで、焼きそばパンの完成だ。
同時に、メンチカツパン、ハムカツサンド、コロッケサンドを作り、紙で包む……さすがにラップはないので紙でかんべん。
「よし、試作完成。さっそくトレセーナのところに持っていくか」
さてさて、俺の購買パン……どうなるかな。
◇◇◇◇◇◇
トレセーナの『オダ屋』に行くと、店内にはトレセーナとサンドローネ、ロッソたち四人がいた。
「あれ、お前たち、今日は定休日だぞ?」
「トレセーナに新作料理の味見をお願いされたのよ」
「新作? おいおいトレセーナ、俺も呼んでくれよ」
「呼んだけど、いなかったの。悪かったね」
俺はカバンを置きカウンター席へ。
ロッソたちを見る。
「おっさん、やっほー」
「……おじさん」
「おじさま。今日はどうしましたの?」
「いいタイミングで来たじゃない。トレセーナの料理、美味しいのよね」
いつも元気な四人組だぜ。
とりあえず、俺は俺の用事を済ませるとするか。
「トレセーナ。手ぇ動かしたまま聞いてくれ。実は、依頼で学校のプロデュースすることになってな。学校の食堂で出す料理を考えてきたんだ。で、試作を作ったから、お前に試食してもらいたくてな」
「へえ、面白そうだね」
トレセーナは野菜を切る手を止め、俺の方へ。
サンドローネを見ると、ウンウン頷いた。
「私も興味あるわ。トレセーナ、少しゲントクの話を聞きましょう」
「そだね。で、どんな料理?」
「なになに、おっさんの料理?」
と、ロッソが俺の背中に飛びつき、肩から顔を覗かせる……あの、ビキニアーマー越しとはいえ、デカい胸が当たってるんですが。
アオは俺の隣に、ブランシュとヴェルデもカウンター席へ。
俺はカバンから紙に包まれたパンを取り出す。
「焼きそばパン、メンチカツパン、コロッケパンに、ハムカツサンドだ。どれも授業の合間に食うことを想定したモンになってる」
「……へえ、なんかいい匂いするね」
「わぁ~!! ね、ね、食べていい?」
「待てマテ。まずはトレセーナだ」
トレセーナは、焼きそばパンを手に取り、匂いを嗅ぐ。
ヒョウ耳がピクピクっと動き、一口食べた。
「……ん、美味しいね。これ、なんの調味料?」
「ウスターソース……だけど、うろ覚えだから一味足りないんだよな。で、麺は焼きそばだ」
「こっちは……わお、美味しい」
「コロッケパンな。で、こっちがメンチカツパン、ハムカツサンドだ」
「へえ……」
トレセーナはパンを一口ずつ食べ、残りはロッソたちへ。
「んまー!! このヤキソバだっけ? おいしい~!!」
「……メンチカツ、おいしい」
「コロッケでしたっけ。フワフワですわね~」
「ハムカツ、おいしいわね!! ねえねえ、これ冒険の合間に食べるのもいいんじゃない?」
ロッソたちには好評のようだ。
トレセーナは言う。
「ソースだっけ。確かに物足りないけど……あくまで料理人の視点で見て足りないって感じるだけ。普通に出すなら問題ないよ」
「なら、レシピをお前に任せるから、完成させてくれないか? で、完全版のソースができたら教えてくれ。それで作ってみる」
「うん。せっかくだし、コロッケとかのレシピもちょうだい。これ、普通にパン屋で出せるレベルだよ」
「露店とかでやったら売れるかもな。なあロッソたち、これ冒険前に買っていけたらありがたいよな?」
「もっちろん!! 朝ごはんにちょうどいいし、紙に包んであるならお昼でも食べられるじゃん」
「ちなみに、これは冷めても美味い」
「……確かに。おじさん、これ欲しい」
ロッソたちに好評なら、他の冒険者にも人気出るだろうな。
サンドローネが言う。
「レシピが完成したら、アレキサンドライト商会の経営するパン屋で販売してみましょうか」
「それもありだな。でもこれ、まずは学園で販売したいから、少し待ってくれ」
「じゃ、改良は私に任せてよ。ふふ……ここの店長になってから、毎日面白いレシピに出会えて楽しいや。ありがとね、ゲントク。今度奢るよ」
「おう。じゃあ今夜行くか? うまい焼き鳥屋を見つけてな、行こうと思ってたんだ」
「いいよ」
というわけで、今夜はトレセーナと飲みに行く……。
「待った。私も行くわ」
「……私も行く」
と、ここでサンドローネ、そしてアオが行くと言い出した。
まあ別にいいが。するとトレセーナがクスっと微笑む。
「ねえアオ。スノウも連れてきてよ。久しぶりに飲みたいんだ」
「わかった。ロッソたちも行く?」
「行くに決まってんじゃん。焼き鳥焼き鳥!!」
「じゃあ一度、拠点に戻ってスノウさんを呼びませんとね」
「留守番はシュバンとマイルズに任せればいいわ。ふふふ、今日は飲むぞー!!」
「リヒター、スノウさんを迎えに行きなさい。私はゲントクとお店に向かうから」
「は、はいお嬢」
なんだか今夜は楽しいことになりそうだ。さてさて、購買のパンはこれで何とかなりそうかな。