竜王山脈で竜退治②
竜王山脈のふもとへ到着した。
「ふ~じはに~っぽんい~ち~の~やま~……ってか」
「なにそれ?」
なんとなく歌っていると、ロッソが首を傾げる。
まあ……竜王山脈って、俺から見ると富士山にしか見えないんだよ。昔、爺ちゃんや親父とバイクでツーリングした時、山梨から見えた富士山のまんまなんだもんな。
それに……少し離れた位置から見えた。
「……竜、泳いでるみたいだった」
「うふふ、ワクワクしますわね」
そう、富士山……じゃなくて、竜王山脈の上空を東洋の龍みたいなのが泳ぐように飛んでいたのだ。
なんかもう、日本のファンタジー世界に入り込んだようだ。「坊や~良い子だねんねしな」みたいな歌を歌えばよかったぜ。
さて、ここからは山登りだ。
リチアが俺たちを集めて言う。
「いい? これから竜王山脈に入るけど、ここに住む魔獣は威嚇だけして無視していいわ。ワタシたちの狙いは山頂付近に住む『竜』ね」
「無視していいの?」
「ええ。雑魚だし、ちゃっちゃと進まないと今日中に終わらないしね。ってわけで、戦闘準備」
ロッソは大剣、アオは口元を隠してフードを被り、ブランシュは大槌、ヴェルデは斧を手に。
俺は変身用グローブをはめ……変身ポーズを取ろうと思ったが、なんか恥ずかしかったので手をかざして言う。
「『実装』」
アーマーが立ち上がり、展開。
俺に向かって来ると、そのまま身体を包み込む。そして、俺の魔力に反応して全身に刻んだ魔力の通り道が赤く発光した。
ウルツァイト・メタルドラゴンの外殻に換装したMark01、基本的な装備は変わっていないが、走行の硬さはかなりのもんだ。
「「「「おおお~!!」」」」
「へー、ワタシの見たことない装備。それ、ニホンで流行してんの?」
「んなわけあるか。これは俺のオリジナル……って言っていいのかな。まあ、俺が作ったモンだ」
ウルツァイト・メタルドラゴンの外殻は軽くて硬い。
全体的な重量は大したことない。厚着して、剣道の防具を纏っているような感じかな。
「よし、じゃあさっそく山頂へ向けてしゅっぱーつ!!」
「「「「おおー!!」」」」
「よーし、初陣が微妙だったし、今回はコイツの性能をもっと見せてやる」
俺たちは、山頂に向かって進みだした。
◇◇◇◇◇◇
さて、今回の目的は、山頂に住む『竜』の討伐だ。
竜。リチア曰く、繁殖期が近くなると、栄養価の高い獲物を求めて山から下りて来るそうだ。で……栄養価の高い食事というのはまあ、人間ってわけだ。
なので、人里に降りてこないよう、竜のメスを討伐する。
「竜って、全体的にオスが二割、メスが八割くらいの数なのよ。で、オスはメスよりも弱くて貧弱でね……エサとか、メスに取っ手てきてもらうのよ」
「へえ、そうなのか? オスなのに弱いのか……」
ちょっと親近感。
リチアは続けて言う。
「でも、オスは超絶倫でね。戦闘力のほとんどを繁殖力に振ったようなヤツよ。何匹ものメスと交尾して、メスは卵を産むの。放っておくと竜だらけになっちゃうから、ワタシが山に登ってメスを減らすのよ」
「……どのくらい討伐するんだ?」
「とりあえず、二十匹くらいかな。あんまり減らしすぎると、今度は絶滅の危機になっちゃうし」
リチアは、普通の狩りで使うような弓、矢筒を腰に下げている。
意外に普通だな……名人、武器を選ばずってやつか。
「そうだ。ねえあんたら、遠距離攻撃得意?」
「アタシ、普通かなあ」
「わたくしは苦手ですわね……」
「……微妙」
「ふふん。私は得意!!」
「じゃあヴェルデ、あんたはワタシのアシストね。ワタシが飛んでるの落とすから、地上戦で討伐よろしくね」
「「「はーい!!」」」
「うう、わ、私も地上戦……ええい、わかったわよ、アシストしますー」
「あれ、俺は?」
「あんた、何できる?」
「えーっと、飛行、ビーム、ヒートソード」
「……遠距離攻撃できる?」
「サンダービームの射程は二十メートルくらいかな。まあ飛べばなんとか」
「飛べるの? なら上空で囮できる?」
「……た、たぶん」
やべ、ちょっと怖くなってきた。
ってか、ロッソたちいるから大丈夫と思っていたけど……空じゃ俺だけじゃん。
今思えば、酔った勢いで同行するって言った気がする……今まで通り、ロッソたちの帰り待てばよかったかもしれん。
急激にテンションが落ち始める俺。するとアオが空を見た。
「あ……ねえ、あれ」
空を見ると、優雅に泳ぐ大蛇……ではなく、『竜』がいた。
マジで東洋の龍だ。細長い蛇のような身体、顔はドラゴンで、ツノが生えている。
「あれが竜。あれはメスね。オスはもっと小さくて細いから」
「お、おい……あれ、全長二十メートル以上あるぞ」
「フツーよ。ワタシが見た最大の竜は、百メートル以上あったわよ」
「……マジか」
こうして、俺たちは山頂に向かって進み、決戦が近づくのだった。
◇◇◇◇◇◇
山頂に到着した。
山頂は広い。見晴らしもいい……けど、周りは石だらけ、砂利だらけで、マジで富士山頂みたいな感じがした。
広いが、足場は最悪……ちなみに、ロッソたちは普通に歩いて登ったが、俺は途中でダウンし、ヒコロクの引くリヤカーに乗っての到着だった。
「来た来た。じゃあゲントク、囮よろしく」
「いやそんな普通に言われても……」
上空を見ると、十匹ほどの『竜』が泳いでいた。
全部、二十メートル以上ある。ってか何匹かこっち見てるんだが。
「ほら、飛んで飛んで」
「……よ、よし」
アーマーのマスクをかぶり、魔力を全身にみなぎらせると、アーマーが輝く。
「おっさんがんばれ~」
「ふふ、カッコイイところ見せてくださいな」
「……がんばって」
「気合入れなさ~い!!」
女の子の声援パワー!! ……なんて、俺はそんな単純じゃない。
リチアは俺のケツを蹴って言う。
「ほら、援護はしてやるから行きなさいって」
「わ、わかった。ええいもう、行くぞ!!」
両手、両足から風が噴射され、俺は一気に上空へ射出された……うおお、久しぶりで魔力の調整を間違えた!!
「うおおおおおおおっ!? ふ、ふゆ、浮遊、浮遊っ!!」
魔力を調整し、両手両足、背中と太ももと腰に増設した噴射口から風のアシストをしてなんとか浮かぶ……両手と両足だけじゃ映画のように飛べないとわかったので、全身に噴射口を増設したのだ。
なんとか両手を自由にしたまま浮かべた、が。
『グオルルルルルル……』
「ひっ」
竜。でっか、すげえマジな竜。東洋の龍!!
竜が、俺を見て口を開けた。
「うおおおおおおおっ!? さ、サンダぁああああああああ!!」
両手をドラゴンに向け、サンダービームを放つ。
すると、ビームがドラゴンの口に入り、後頭部を抜けた。
そして、ドラゴンがビクンと痙攣して落下……地上に激突した。
効いた、サンダービームが効いた!!
「おっ……よし、飛行にも慣れてきた。なんとか」
「おっさん、後ろ!!」
え? 後ろ?
振り返ると、十メートルもない位置に竜。大きな口を開けていた。
死ぬ。そう思った瞬間、下から暴風が起き俺の身体が浮き上がり、一本の矢が風に乗って、竜の腹を貫通した。
「いい囮!! そのまま頼むわよっ!!」
「アシストは任せなさい!!」
竜が落下していく。
そうか、ヴェルデの風と、リチアの矢か。
周りを見ると、まだまだ大量の竜が泳いでいた。
「よーし……やってやろうじゃねぇか」
俺は飛ぶのにも慣れてきたので、アイアンな男みたいに空を飛ぶのだった。