>> 後編
長い馬車の旅の先に着いた場所は、王家が所有する領地の最果てにある様な港町から少し離れた邸だった。
建てたばかりだと分かるその美しい外見の邸は大きな壁に囲まれていた。
「魔獣が出るからメロディーはこの壁の外に一人で出てはいけないよ」
そう言われてメロディーは大きな壁と門に安堵した。
「メロディー!」
「あぁ、やっと来た!」
「待っていたぞ!!」
「みんなっ!! 会いたかった!!」
セルジュにロンゼンにアルドーナの顔を見てメロディーはまた大粒の涙を流して泣いた。そして三人全員と抱き合った。もうその事を咎める者は誰も居ない。
5人で抱き合って再会を喜んだ。
嬉し過ぎてテンションが上がったアルドーナがメロディーを横抱きに抱き上げるとみんなが笑った。
そしてそのまま皆で邸の中へと入って行った。
美しい内装、美しい調度品、磨かれた家具に質の良さそうな使用人たち。
邸の中を見たメロディーは驚いた。
そして連れて行かれたリビングで聞いた話にもっと驚いた。
メロディーたちは平民になっていた。
第一王子であったエイドリックも平民になったという。
理由は不貞行為と婚約者に冤罪をかけて勝手に婚約破棄をした為だという。
身分剥奪、王都追放。
だが全員が平民となった今、寧ろやっと自由になったと男たちは笑った。
この時の為に商売もしていて、全員が経営者だという。
だから金には困らない。
社交界には出られないがメロディーが望むだけの贅沢はさせてあげられると皆が笑った。
そして連れて行かれたメロディーの部屋は3室も連なる大きなものだった。
化粧台に並べられた沢山の化粧品に、開かれた宝石箱から覗くありとあらゆる宝石たち。
そして寝室には何人分かも分らない様な大きなベッド……
あまりの豪華さに目を輝かせて魅入っていたメロディーにエイドリックがそっと寄り添う。
「気に入ってくれたかい?」
「えぇ素敵……信じられない……」
「全部メロディーの物だよ」
「欲しいものは全部買ってあげる」
「メロディーが望むままに……」
優しい優しい男たちの声にメロディーは心の底から幸せが湧き上がる。
ここに来るまでに感じていた不安は全部消え去っていた。
愛されて満たされる。
今、全てを手にできたと微笑んだメロディーの首にエイドリックがカチャリと金具を留めた。
ネックレス?
と思ってそこに手を添えたメロディーの手に触れたのは
リードの付いた首輪だった。
「え?」
自分に着けられた首輪に困惑するメロディーが男たちを振り返ると、全員がいつもと変わらない優しい微笑みを浮かべていた。
「やっぱり……とてもよく似合うよ」
うっとりとそう呟くエイドリックにメロディーは意味が分らない。
「メロディー、すっごく可愛いよ」
セルジュが愛おしそうにメロディーを見る。
「そんな服、さっさと脱いでもっとメロディーに似合う服に着替えようよ」
ロンゼンがそう言いながらクローゼットを開けた。中にはドレスから、ドレスの様に見えるが大事なところが隠れていない様な物や、もう服とは思えない様な物や、装飾品だとは分かるがどうやって身に着ける物か分らない物まで何やらたくさん詰め込まれていた。
それらのいくつかを手に取ってロンゼンは悩んでいる。
アルドーナがメロディーの両肩に手を置いて優しく撫でた。
「あぁ……やっと今日から一つになれるんだな……俺たち」
アルドーナがうっとりと呟く。
それに答える様にエイドリックがアルドーナの肩を抱いてそのままメロディーに顔を寄せた。
「幸せになろう。
私たち、5人で」
美しいエイドリックの微笑みに恐怖を感じたメロディーは、カラカラに乾いた喉を気にすることすらできずに気が遠くなる。
だけどもう……彼女に逃げ場所などなかった…………
◇ ◇ ◇
純潔を失う初めての経験で、4人の男を同時に相手したメロディーは身も心もヘトヘトになってベッドの上に居た。
気を失っている時にメイドに体を清められたのか新しい寝間着を着せられていたが、朝だからと起き上がることもできなかった。
メロディーはぼうっと天井を見つめながら何故こうなったのかを考える。
みんなが好き。
エイドリックもセルジュもロンゼンもアルドーナも好き。
それはちゃんと恋愛感情で、誰か一人になんて絞れなかったのは自分。
それでも良いんだとみんなが言ってくれたからメロディーもみんなを愛した。
だからみんなで一緒になる。
みんなで一緒に住んで、みんなで分け隔てなくキスして、みんなで同時に愛し合って…………
メロディーは昨日の行為の最中に見た男たちの絡みの意味を考えた。
「ねぇ……
みんなは……私が好きなんだよね……?」
純粋な疑問だった。
みんな『メロディーが好きだから一緒に居る』んだよね?
そんなメロディーの疑問に、今日はまだメロディーの横でゴロゴロする事を選んだセルジュとロンゼンがメロディーの側にやって来て答えてくれた。
「何を当然の事を聞いているんだ?」
「皆メロディーを愛しているから今があるんじゃないか」
そんな二人の答えにメロディーは聞き返す。
「好きなのは……私だけ……?」
そのメロディーの言葉に、二人は一瞬少しだけ目を開いて、そして溶ける様に笑ってメロディーに抱きついた。
「どうしたんだ? 寂しくなった?」
「メロディーは特別だ。でもそれだけじゃ『皆で』なんて居れないだろう?」
「私たちは『みんな』を『同じ様に』愛してるんだ」
「そう。メロディーが俺たちを愛する様に、俺たちも『全員を』愛しているよ」
「メロディーだってそうだろう?」
「メロディーが俺たち全員を同時に好きな様に、
俺たちも全員を同時に愛しているんだよ」
「可愛いメロディー。
私たちの天使」
「メロディーが居なきゃ俺たちもバラバラだった」
「あぁ。政略結婚でそれぞれ家庭を持たなきゃいけなかったけど……メロディーが居た」
「メロディーが俺たちを受け入れてくれたから、俺たちはこうやって一緒になる事ができたんだ」
「メロディーのお陰だよ……」
「愛してるよメロディー……俺たちの可愛い奥さん」
そう言ってメロディーの唇にそれぞれキスをしてくれたセルジュとロンゼンがメロディーの顔の前でキスをした。
そんな二人をぼうっとした目で見ていたメロディーはやっとそこで理解する。
5人で愛し合うという事は、
そういう事なんだという事を…………
◇ ◇ ◇
メロディーの首輪は外れない。外してももらえない。
何故? と聞いたら、
「可愛いからだよ」と微笑まれた。
メロディーは時々ベッドに縛り付けられる。
鎖に繋がれて散歩させられる。
全裸で四つん這いにされてそれをみんなが囲んで可愛がる。
メロディーは可愛い可愛い新妻だからと檻の中に入れられる。
メロディーには意味が分からなかったが、エイドリックもセルジュもロンゼンもアルドーナも幸せそうに楽しそうに笑っている。
愛している。
可愛い。
好きだよ。
特別なメロディー。
繰り返される言葉と笑顔に、メロディーの感覚がおかしくなっていく。
この邸の使用人たちも誰も何も指摘しない。多分確実に『同類』だけが選ばれてここに居る。
メロディーと同じ様に首に首輪を着けたメイドにメロディーは聞いた事がある。
何故? と。
何故こんな事をされてるの? と。
そしたらメイドは幸せそうに微笑んでこう言った。
「御主人様に可愛がって頂ける事がわたくしの生きる喜びです♡」
御主人様って誰の事?
メロディーには分からなかった。
メロディーは4人の男に同時に愛される。
贅沢に着飾って、愛する男たちに愛される。
それはメロディーが望んだ事。
誰か一人を選べずに、4人全員と一緒に居たいと願ったからこうなった。
幸せな、幸せな結末の……はず……
「ねぇ、メロディー。
最初は私の子供を産んでもらうよ」
エイドリックが優しくメロディーに触れながら耳元で囁く。
「私の子供を産んだら半年ほど体を休めて、次にセルジュの子供を産んでね。
その次にロンゼンでその次はアルドーナだ。
きっとどの子も可愛い子になる。
子育ての心配はしなくていい。全員が実家で面倒を見てもらえる事になっている。戸籍もちゃんとあちらの養子になる事になっているから私たちの子供は貴族だよ。
あぁ、廃嫡されているのに不思議に思うよね。元々そういう約束なんだ。
我が侭で家から離れる代わりに子供を作って血を残すって。相手の血筋は問わないって言って貰えてたけれど、メロディーと出会えた。男爵でも貴族の血だからね。父も喜んでくれたよ。だからメロディーも安心して産んでくれ。
それでね、私は子供は二人欲しいんだ。セルジュもアルドーナも何人か欲しいと言っているから、4人産んだら後は天に采配を任せようと思うんだ。
何人かはここで育てよう。メロディーの子供は何人居ても可愛いに決まっているんだ、何も苦じゃないよ。
きっと素敵な家庭になるね。父親が4人も居るんだ。最強の子供たちになる。
あぁメロディー……私の子犬……
愛しているよ……君は最高の女性だ………」
愛する男の愛の囁きを聞きながらメロディーは自問する。
何を間違った?
メロディーはただみんなに愛されたかっただけなのに……
そして気付く
あぁ……もうみんなに愛されてるのか…………
メロディーの逆ハーレムは完成した。
お金に困らない完璧な男たちが完璧にメロディーを守って完璧な『家庭』を作り出した。
身分だけはどうしようもなくて平民だが、平民だからこそ貴族の縛りなどなく自由に愛し合える。
男4人に女1人。
お姫様は王女様となって男たちに愛される。
ただ男たちも男たちで愛し合っているのだが、それこそある意味家庭円満の秘訣であり、裏切りも嫉妬もなく、みんなで愛し合って幸せな家庭が出来上がっただけの事。
愛されたいメロディーはたくさんの愛に囲まれてこれからも生きていく。
その愛が、
メロディーが考えていた愛とはちょっと違ったものかもしれないが……
『4人の男たちに愛される』
そんなメロディーの願いは完全に叶えられたのだ。
[完]
※ざまぁ対象は当然『人の婚約者を奪ってまで男を侍らそうとしたメロディー』です(ざまぁというか自業自得?)(自ら罠に喜々として飛び込むお花畑娘)
※エイドリックたちの性癖をミレニアを始め両親・元婚約者みんなが知っていました。婚約破棄は仕組まれた茶番です。ミレニアがメロディーに接触したのは彼女の優しさでした。あそこでメロディーが「私も実はおかしいと思ってるんです」とか言ってればミレニアたちが頑張ってサディストたちからメロディーを助けてくれました。
※エイドリックたちは文武両道の優秀な男たちだったのですが性癖が貴族としては致命的だったので『偽装廃嫡』をして平民に落とす事で国に留まらせる事になりました。辺境の領地で実は結構しっかり国の為に手腕を振るい、国に貢献しまくってます。
※運命の出会いをしたのメロディーだけではなく、幼少期のエイドリックとセルジュとロンゼンとアルドーナの4人もだと思います。先に4人が出会っていたのでメロディーの逆ハーレムができたと言っても過言ではないかも……
※メロディーの実家の男爵は、娘が『あの第一王子たち』をまとめて受け取ってくれたので国とかから謝礼が出てます。ミレニアは早い段階から第二王子とも仲を深めていたし、その他の令嬢たちもそれぞれ早い段階で『次の受け皿』を用意されてました。全部エイドリックたちの『予定通り』です。
※男4人共がバイセクシャルの優しい優しいサディストです(ニッコリ)