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39「復讐の旅は終わらない」

 動物の襲撃によってボロボロになった宿屋兼酒場にて。


 従業員による復旧作業が行われている中で、


「あんた、本当に義理堅い奴だねぇ、おばさん感心しちゃったよ!」


 力加減というものを知らないのか、厨房を担当しているおばちゃんはアマトの肩をバシバシと笑いながら叩く。


 普通に痛い。


 アマトは負けじと力強い笑みを浮かべて親指を自分の胸に突き立てる。

 彼の左目には、眼帯が付けられていて、その下には人のものではない金色の瞳が隠れている。


「俺の命にかけて誓うって言ったろ?」

「まっこと、生真面目な奴よ。この混乱に乗じて誤魔化すこともできたであろうに」


 やれやれと肩をすくめるチトセに鋭い目つきを向ける厨房のおばちゃん。

 苦笑いを浮かべながら「ま、まぁまぁ」と言って二人の間に割って入るアマト。せっかく混乱も収まったのに、またこんなところでドンパチやられても困るだけだ。


 懐から一枚の紙切れを取り出し、それをおばちゃんに手渡す。準優勝賞金の小切手だ。

 人生でもそうそうお目にかかれないであろう額が記載されている。


「約束通り闘技大会の賞金は支払いに回してくれ。余った分はセターン王国の孤児院に寄付しておいてほしい」


 リィチとスピルが世話になったという孤児院への寄付の件も忘れてはいない。というか勝手にそうしようとアマトとチトセが決めただけなので、こればかりは守る義理はないのだが、おばちゃんの言う通りアマトは義理堅い男なのだった。


「それはいいけど……それじゃあんたらの取り分が全然ないさね。いいのかい?」


 準優勝でも結構な額の賞金が貰える。それを簡単に手放そうとしているのだから意外に見えるだろう。


 それでもなにも問題はないとアマトは力強く頷く。


「ああ。俺らは旅の途中だから、そんなにお金があっても邪魔になるだけなんだ。だったらお金を必要としてるところに回したほうがいいだろ?」


 そう言うアマトの表情は晴れやかなもので、これっぽっちも後顧(こうこ)の憂いは感じられない。


「あんたらがそれでいいならいいけど……。これからどうすんだい?」

「世話になった連中に挨拶は済んだ。旅を続けるさ」


 決勝戦で熱い戦いを繰り広げたリィチとスピル。センカンダル全域を巻き込んだ動物の侵攻に対しそれぞれ対処に当たってくれたテランにタイピン。それから守護四辺の四人も忘れてはならない。


 特にタイピンは双子を助けてくれたお礼もあったし、おまけに貴重な情報も提供してくれた。困っている人々を助けてくれるからこそ、英雄は英雄と呼ばれているのかもしれない。


「また食いに来ておくれよ?」

「おばちゃんの料理美味かったからな。機会があったら、必ず」


 次にここを訪れることができるのは、バドラギ王国に復讐を果たした後になるだろうか。

 そもそも彼らに復讐を成し遂げることができるのだろうか。


 こればかりは、神のみぞ知る、というやつだ。


 厨房のおばちゃんは腰を落として双子と視線の高さを合わせ、満面の笑みを浮かべる。


「おチビちゃんたちもまた来ておくれよ! 助けてくれたお礼に、そのときはご馳走させておくれ!」

「「うんー!」」


 こうしてアマトたちはセンカンダル全域を巻き込む波乱の渦を無事に凌ぎ切り、颯爽と立ち去ったのだった。


 ──といえば聞こえはいいが、実際は逃げるように立ち去った。


 今回の騒動を解決に導いたのはアマトやチトセと言っても過言ではないし、双子も身を呈しておばちゃんやお客さんを守ってくれた。長居していたら質問攻めにあってまた足止めを食らってしまうだろう。


「さあ、行こうか!」

「うむ!」

「「はーい!」」


 タイピンが提供してくれた情報のお陰で次の目的地は決まっている。


 大陸中央に位置するセターン王国に向かう前に、ここよりさらに遥か西。


 大量の鳥が飛び去って行った方角へ。




   ***




 ファンダム大陸最北端に位置するバドラギ王国──豪華絢爛(ごうかけんらん)を絵に描いたような、煌びやかな玉座の間にて。


 王の証である王冠とマントを窮屈そうに身に着け、それ以外は下町の人間のような恰好をした中肉中背の男──バドラギが深く腰が沈むほどの豪奢な玉座に浅く腰かけ、気だるそうに頬杖をついては欠伸を噛み殺──し切れずに大きな口を開ける。


 刹那、体を突き抜ける激しい衝動に歯を鳴らし、目尻に溜まった涙を散らして立ち上がる。


「この力の波動は……!」


 またしても遥か南からとてつもない力の波動が伝わってきた。


 カラスのような黒い髪に浮かび上がる黄金色の瞳が、驚きの色に染まる。


 その力の波動は間違いなくドラゴンのもの。しかし以前感じたチトセの波動とはまた別のドラゴンだ。それもよく知っているドラゴンの。


「……リク? なぜ奴の力を感じる」


 生きているはずがないと、バドラギは確信を持っていた。


 なぜならリクと名乗ったドラゴンはこの手で確実に屠ったし、リクの血肉によって最強の強さを手に入れ、数多くのドラゴンを殲滅してきたのだから。


 リクの力を感じるのならば、己の内から以外あり得ないはずだが。


「王。どうされたのですか」


 突然立ち上がったバドラギに側近の女性が抑揚少なく声をかける。鉄仮面を張り付けて相も変わらずの仕事っぷりを続けながら。


「…………」


 その声に返事をせず、バドラギは真剣な表情を浮かべて思考に沈む。


 何かに思い至ったバドラギは、凶悪な笑みを浮かべた。


「っ」


 ──側近の女性の鉄仮面を歪ませるほどの笑みを。


「往生際が悪いな。死してなお俺に歯向かうつもりか、リク。面白い……あまり俺を退屈させるなよ、ドラゴンども!!」


 とても国民には見せられない顔と声で、バドラギは楽しそうに声を上げて笑ったのだった。




   ***




 センカンダルより遥か西に、大量の大型の鳥が飛来する。

 そこは人っ子一人見当たらず、誰もやってこないような僻地(へきち)の中の僻地だ。そのど真ん中に、大きな施設が巧妙に隠されていた。


 大型の鳥の一羽が足に掴んでいた光るなにか──試験管を落とすと、衝撃を逃すように柔らかく受け取る女性の影。


 (よろこ)びに細まる瞳は赤く染まっていて。




また会おうね(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)アマトきゅん(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)♡」




 悪魔の笑みを浮かべながら、試験管の中で浮かぶ眼球目掛けてキスを飛ばす。


 空気を吐き出す音を響かせて、彼女の背後にある大きな施設へ続く扉が開く。


 奥には巨大な試験管の中に浮かぶ人型の影が見え、施設に飲み込まれるように、女性の影と一緒に闇に閉ざされたのだった。




      第4章【波乱の闘技大会】──完。to be continue...?

 これにて第4章【波乱の闘技大会】は終わりになり、ドラ旅は〝一旦完結〟とさせて頂きます。


 最後まで読んでくださりありがとうございました。


 10万文字程度で一旦締める、を最近の方針しておりまして、もちろんドラ旅も例外ではございません(これでようやく2作目ですが)。

 小説の一巻がだいたいそれくらいの文字数なのだとか。だいぶオーバーしてるけども、厚めの小説と思って良しとします。良しとしてください。


 最後の、謎のようで謎でない謎の女性もおりますし、二人の復讐の旅はドラ旅2、3とまだまだ続きそうです。

 その続きが見れるかどうかは、評判次第……と言いますか、続きを望む声が感想やレビューなんかにあれば書こうと思います。他の連載作もあるし再開するのはかなり時間かかりそうですけどね(弱音と共に全力で逃げ道を作っておく)。


 ちょっと話は変わりまして、実はこの作品は僕の苦手意識克服のために書き始めました。

 なにが苦手かって言うと、バトル描写です。なので各章の最後には必ず戦わせよう、というのが自分の中に課した条件でした。1章はプロローグ的なあれなので見逃してください……!

 その代わりと言ってはなんですが、4章は戦いに次ぐ戦いでした。こんな展開になる予定ではなかったんですがね。決勝戦だけで終わる予定だったし、テラン戦やリィチとスピルのタイピン戦。なんだったら予選も書く予定はありませんでした。

 なので自分の中では怒涛の展開の連続でしたね。バトル描写の良い練習になったと自分に言い聞かせておきます。

 戦闘シーンがある作品は読むぶんには好きなんですが、いかんせん苦手意識があって今まで書くのは避けて通っていました。

 でも今回のドラ旅でバトル描写の苦手意識もある程度払拭できて、楽しさのようなものが見えた気がしましたので、書いて良かったです。


 そして新たに浮かび上がってくる苦手意識。

 ストーリーのある話が苦手だ……と(?)。ちょっと矛盾してますかね?

 大きな目標を掲げ、そのために努力し、いろんな人たちの思惑が渦巻くような、そんな話を考えるのが難しく感じました。伏線とかなんのこっちゃい。

 旅をするようなストーリーはあまり僕には向いていないのかもしれません……。

 大きな目的のない日常系とかが好きだし!

 次にバトルものを書くときはもう少し良く考えようと思います。


 これからも自分の得手不得手を見極めて上手く付き合いつつ、執筆活動を続けていきたいな。


 では、改めまして。最後まで読んでくださってありがとうございました。


 皆さんに良き小説ライフがありますように。

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