21.サブローさんとお風呂
「イクベに行く前に、冒険者協会に行って二人の冒険者カードを作る必要があるぞシバタ」
トゥリンが言うには、冒険者カードというのは旅をするのに必要な身分証みたいなもので、冒険者登録をすれば仕事も受けられ、旅の資金を稼ぐのに役立つのだという。
「なるほど。じゃあ、明日にでも早速行ってみよう」
俺は感心してうなずいた。
「トゥリンは物知りだし、しっかりしてる。一緒に来てもらって良かったよ」
トゥリンはパァッと顔を輝かせる。
「そ……そうか!? いやー、そうなんだよ。こう見えて、昔から私は良妻賢母タイプだと評判で」
何やらモニョモニョ言うトゥリンの横で、俺はお皿を片付け立ち上がった。
「よし、そうと決まったら、風呂でも浴びてとっとと寝るか」
「そ、そうだな。ちょっと待て、今風呂を沸かしてくる」
顔を真っ赤にしてパタパタと駆けていくトゥリン。
「どうも最近トゥリンの様子がおかしいな」
俺はサブローさんの背中を撫でた。
触った箇所からふわりと毛が舞う。
「む?」
よく見ると、太もものあたりに白い毛の塊が浮き上がっている。浮いた白い毛を引っ張ると、ゴッソリと毛が抜け落ちた。
「なんてことだ。石鹸も買ったし、本格的な換毛期になる前に、そろそろサブローさんもお風呂で洗ってやらないと」
俺が「お風呂」と言った瞬間、サブローさんはビクリと体を震わせて変な顔をする。
「ボクもご主人とお風呂入る」
モモはお風呂が好きなようで嬉しそうに尻尾をバタバタと振っている。
そう言えば、モモも犬の姿の時、毛がボサボサだったな。
「よし、じゃあ二匹まとめて洗うか」
「シバタ、お風呂の準備ができたぞ」
いそいそとトゥリンが駆けてくる。
「そうか、ありがとう。今日はトゥリンが先に入ってていいぞ」
「そ、そうか?」
「ああ。俺はモモとサブローさんと一緒に入るから」
俺が言った瞬間、トゥリンはドサドサと着替えを床に落とす。
「な……な……破廉恥な! や、やはりその胸か? 太ももがいいのか!? それともそのケモ耳と尻尾!?」
ブツブツ呟くトゥリン。
「いや、何か勘違いしてるようだけど、もちろんモモには獣の姿になってもらうから」
「な、何だ、そうだったのか! いや、そうだと、私も初めから知っていたさ! ハハハ」
しばらくしてトゥリンが風呂から上がる。やけに早い。
「次、入ってもいいぞ!」
「ああ」
顔を上げると、トゥリンは何だか見慣れない白のスケスケのネグリジェみたいなのを着ていた。
「じゃあ、寝室で待ってるからなっ。安心しろ、私が色々教えてやるぞっ!」
「? おう」
あんな服、持ってたっけ。
「よし、じゃあ俺たちも行くか」
「はい、ご主人」
モモがポン、という音とともに犬の姿に変身する。
「あれ? サブローさんは?」
俺は部屋を見渡したが、どこにもサブローさんの姿はない。
「サブローさん、どこだ?」
「クンクン」
モモも匂いを辿ってサブローさんを探す。
「あ、いた」
よく見ると、押入れの中に光る眼が見えた。
「サブローさん、こっちにこい」
「ウー」
鼻に皺を寄せて牙を見せるサブローさん。どうやらお風呂が嫌らしい。
「こいこい」
俺が押入れの戸を少し開けると、サブローさんは今度はその隙間からダッシュで逃げ出した。
「モモ、捕まえて」
「ワン!」
モモが人間の姿に戻り、サブローさんを抱き抱える。
「捕まえたですっ!」
「よし、そのまま浴室に連れていくぞ」
「はいです!」
「きゅーん……」
哀れっぽい鳴き声を出すサブローさん。こうしてサブローさんは捕獲され、無事お風呂に入れることが出来た。
「はあ、疲れた」
春になったせいか、最近サブローさんは抜け毛が多い。
毛だらけになった浴室を洗い寝室に向かうと、ベッドにはネグリジェを着たトゥリンと裸のモモ、そして二人の間にサブローさんが眠っている。
「……おやすみ」
白く輝くサブローさんのお腹を見て満足した俺は、二人と一匹に布団をかけてやると、昼間買った寝袋にくるまり床で寝た。




