11.伝説の黄金獣
「伝説の黄金獣?」
「昔、魔王を封印した伝説の勇者がいたのじゃが、その勇者が連れておったという獣のことじゃよ。もう千年も昔のことになるかの」
そういえば、ミアキスがそんなこと言ってたな。
「マルザさんはその勇者に会ったことがあるんですか?」
「いや、エルフの寿命は約千年。当時のことを知るエルフはほとんどいない。妾も母親から話を聞いただけじゃ」
「そうなんですか」
「母親の話によると、その伝説の獣は見た目はキツネそっくり。じゃがキツネとは違い手足は白く、体はがっちりとしており、くるりと巻いた尾をしていたという」
確かに、サブローさんはその特徴に当てはまる。というか、柴犬そのものだ。
すると、侍女と思しきエルフの少女が俺たちの前にフルーツの皿盛りを持ってくる。
「どうぞ、遠慮なく食べるといい」
「じゃあ、遠慮なく」
俺は目の前の真っ赤なリンゴに手を伸ばした。
シャクリ。
噛んだ瞬間にジューシーな甘みと酸味が口の中に広がる。
「美味しいですね、このリンゴ」
「そうじゃろう。じゃが、言い伝えによると、昔この地には小さくて酸っぱく、ボソボソしたリンゴしかなかったのだという」
皿の上のリンゴをじっと見つめながらマルザ村長は言う。
「そうだったんですか」
「ああ。じゃが、幻の黄金獣がこの地で糞をしたところ、糞から真っ赤で大きく甘いリンゴの実がなる木が生えてきたのだそうじゃ」
「は......はあ。そんな伝説が」
「今ではこの地のリンゴは『エルフ林檎』として人気を博していて、資源の少なかった村にとっては重要な収入源となっているのじゃ」
「なるほど」
それでエルフたちはサブローさんのウ〇チを有難がっていたのか。納得だ。
他にもマルザ村長は、村に伝わる勇者様や黄金獣、お供のエルフの話をいくつかしてくれた。
そこで俺は、思い切って切り出してみることにした。
「実は俺は、その勇者の生まれ変わりと言われているんです」
「ほう?」
俺は異世界から転生してきたこと、女神によると勇者の生まれ変わりらしいことをマルザ村長に話した。
「なんと」
目を見開くマルザとトゥリン。
「それは伝説の勇者確定だな! まさかシバタがそんな凄い奴だったとは。やはり私の目に狂いは無かった」
トゥリンがキラキラした瞳でこちらを見てくるので、慌てて訂正する。
「いや、まだ確定では」
「そうじゃな。妾も信じたいが、まだそうと決めるのは早い。女神も確率は六割と言っておったのじゃろう?」
「えーっ、そうだけど……よく見ろ、なんとなく勇者っぽいだろ!」
トゥリンが適当なフォローをする。何となくってなんだ。俺に勇者らしさなんてゼロだぞ。アディ〇スのジャージだし……。
すると急にサブローさんが真剣な顔をしてスッと立ちあがった。
「ん? どうした?」
「その獣、妾に何か言いたいことでもあるのか?」
マルザ村長はゴクリと息を呑む。
サブローさんはマルザ村長に背を向けると、外に向かってグイグイと縄を引っ張っていく。
「どうした、サブローさん!」
俺たちはサブローさんについて外に出た。
クンクンと迫真の表情で木の匂いを嗅ぐサブローさん。
「な……何じゃ!?」
俺たちが固唾を飲んで見守っていると、サブローさんはサッと足を上げ、勢い良くオシッコを引っかけた。
「なんだ、オシッコか」
「おお、黄金獣様の黄金水!」
「私にもそのお聖水をかけてください!」
どこからか集まってくる野次馬エルフ。
サブローさんは近くの木に順番にオシッコをかけていく。その度エルフたちが木の周りに群がった。
「あのポーズは!!」
「まさか伝説の!?」
今度はサブローさんはおもむろに地面にしゃがみこむ。
サブローさんがいきみだしたので、俺は慌てて麻袋からシャベルを取り出した。
「見ろ、黄金のシャベルだ!」
「なんと神々しい。やはり黄金獣は格が違う!」
サブローさんが出したウ〇チに群がるエルフの人々。
――余談ではあるが、その後、サブローさんのオシッコからは米が生えてきて、エルフの村は白米が主食となったのだそうだ。
そしてウ〇チからは、黄色くて丸い未知の芋が生まれ、その芋はのちに「ジャガイモ」と名を付けられたとか。
この異世界にジャガイモが誕生した瞬間である。
話を戻そう。
サブローさんがウ〇チをしたので、俺は黄金のシャベルを取り出し拾おうとした。
サブローさんは後ろ足でウ〇チに砂をかける。
すると観衆が突然ザワザワとし始めた。
「おい、あれを見ろ!」
土まみれになりながらサブローさんの方を見ると、サブローさんが掘った地面から金色に光る何かが出てきた。
「何か出てきたぞ」
「何だ? 金貨か?」
シャベルで掘ってみると、そこから出てきたのは黄金の装飾を施した立派な剣だった。
「それは!」
マルザ村長がすっ飛んでくる。
「知ってるんですか?」
「ああ! 私の母親がチャンバラごっこをしているうちに無くしてしまったという伝説の勇者の剣だ!!」
普通こういうのって、岩から引き抜くとか、そういう感じじゃないのか?
「やっぱりサブローさんは伝説の黄金獣で、シバタは勇者だったんだな!」
……本当に?
◼マーキング
・犬が電柱や塀などに片足を上げてオシッコをかける行為をマーキングと言い、自分の縄張りを守るために本能的に行う。犬はオシッコの匂いを嗅ぐことで、マーキングした犬の年齢や性別、健康状態を判断していると言われている




