10.エルフの村の村長
「おはようシバタ!」
翌朝、割れんばかりの大声でトゥリンが起こしに来る。
「……うっ、寒っ」
よく見ると俺は布団の端に追いやられていて、布団の真ん中にはサブローさんが大きく伸びてる。
「サブローさんに布団を譲ってやるなんて、シバタは何て優しいんだ!」
「はは……」
おかしい。昨日、夜寝る時に「サブローさんのベッドはこっちな」ってわざわざ部屋の隅に座布団を敷いてサブローさんの寝床を作ったのに……。
俺は布団の上のサブローさんを退かし、立ちあがった。
トゥリンは昨日と同じ麦飯のおかゆと丸薬を差し出す。
「これは今日の分の薬だ。忘れずに飲むように」
そういえば、毒に侵されてたんだった。もうすっかり体も軽くて気分もいい。
「ありがとう。大分具合はいいよ」
「それは良かった。でも念のため薬は飲むんだぞ」
続いてギルンもやってくる。
「おはよう、調子はいかがかな? これはサブローさんのエサだ」
大量のキャベツと人参を置くギルン。サブローさんはムシャムシャと生のキャベツにかじりついた。
コキコキと首を回す。
だいぶ体の調子も良くなってきたし、そろそろここを立つかな。
というか、魔王とかいうのはどこに住んでいるんだろう。
俺はトゥリンとギルンに尋ねた。
「なあ、聞きたいんだが、魔王とかいうのはどこに住んでるんだ?」
「魔王?」
キョトンとするギルン。
トゥリンは眉間に皺を寄せる。
「確か鬼ヶ島とかいう島に封じられたんじゃなかったっけ? 随分昔に……」
鬼ヶ島か。何だか日本昔ばなしみたいな名前の島だな。
「そうか。じゃあその鬼ヶ島というのはどこにあるんだ?」
「それは知らない」
首を振るトゥリン。まぁ、島の名前が分かれば、あとは地図で調べればいいか。
「それよりも、村長が調子が良くなったら話を聞かせてほしいと言っていたぞ」
思い出したようにギルンが言う。
「その時に村長に聞けば何か分かるんじゃないか?」
「村長か」
エルフの村長。どんな人だろう。
ヒゲを生やした仙人みたいな老人を思い浮かべる。
「分かった、それじゃあ今日にでも村長に会いに行こう」
もしかしてエルフの村長なら鬼ヶ島や魔王のことも知っているだろうか?
◇◆◇
「あれが村長の家だ」
トゥリンが集落の端にある一番大きな木造家屋を指さす。
「村長、シバタを連れてきましたー」
トゥリンが村長の家の戸をノックすると、中から低い女性の声が聞こえてきた。
「入れ」
緊張しながら中に入ると、中には椅子に腰掛けた二十七、八歳くらいの外見の美女がいた。
艶やかになびく絹糸のような銀髪。
その気品、優雅な佇まいは、まるでロシア貴族が飼っていたという大型犬・ボルゾイのようだ。
この人が村長なのか?
「ようこそ。妾が村長で長老のマルザじゃ」
マルザ村長がうやうやしく挨拶をすると、髪をサラリとかきあげた。
さすが不老長寿と言われるエルフ、歳をとっても美しい。
「シバタです。こっちは柴犬のサブローさん」
俺が挨拶をするとサブローさんはキリッとした顔で座布団の上にお座りする。トゥリンは緊張した面持ちでその横に据わった。
「そうか、これが噂の獣か」
マルザ村長が脚を組み替える。スリットの入ったロングドレスからチラリと美脚がのぞいた。
「噂通り神々しい獣じゃ」
いや、ただの犬なんだけど。
マルザは美しい切れ長の瞳でじっとサブローさんを見つめた。
「妾も今までこんなにも人に慣れる獣を見たことがない。それにこの毛の色、耳や尻尾の形……言い伝えに出てくる『伝説の黄金獣』にそっくりじゃ」
「伝説の黄金獣?」
なんだ、それ?
◼ボルゾイ
長い手足と口吻美しい長毛を持ち、優雅な佇まいが特徴の超大型犬。後ろ足で立ち上がると成人男性同じくらいの身長になる。元々狼狩りに用いられた犬で、昔はロシアの王侯貴族しか買うことが許されていなかった。非常に足が速く時速50kmで走る。




