第百六十八章 その頃の彼ら 1.「ワイルドフラワー」~パピィの場合~
草原にピーッという笛の音が響き、それに続けて少女が「パピィ!」と叫ぶと、何もいなかった筈の空間から小さな獣――ハイディフォックスの子供――の姿が現れ、嬉しそうに駆け寄って来る。
その首には円いメダルが誇らしげに光っている。使役獣である事を示す冒険者ギルドのタグである。大型の、或いは成長すると大型になる使役獣には、誤認と混乱を避ける見地から着用が推奨されているもので、形には幾つかのヴァリエーションがあるのだが、なぜかミモザが執拗にメダル型を推してきたのだ。
パピィの主であるサフランも、少し訝しみはしたものの、別段タグの形に拘りは無かったので、そのままミモザの推しを受け容れたのであった。
(「理想を言えば、五芒星が刻印されていれば完璧だった。画龍点睛を欠いた形なのが惜しい……」)
「何か言った? ミモザ」
「ううん、何でもない」
傍観者たちがそんな他愛も無い(?)会話を交わしているのを尻目に、パピィが或る程度の距離まで近寄って来たところで、サフランは次の指示を下す。
「パピィ!」
「キャウン!」
サフランの声を聞いたパピィは、万事解っているというように、嬉々として一気にサフランの許へと飛び込んで来た。……そう、文字どおり飛び込んで。
「おー、お見事」
「風魔法による滑空……可能じゃないかとは言われていたけど、現実にそれを目にする機会があるとはね」
「まだ子供に過ぎませぬ故、滑空距離は短ぅございますが、切り札的に使う事は可能でございましょうな」
その様子を少し離れた位置から眺めていたセン・カナ・サンチェスも、揃って感心の体であった。
今更ながらに説明しておくなら、「ワイルドフラワー」の面々は、新たに加えた使役獣三体――正確に言うなら召喚獣二体(パピィ&アラシ)と従魔一体(ミック)――の能力確認にやって来ていた。
その一番手としてサフランがパピィを召喚し、ハイディフォックスの能力を確認していた訳なのだが、
「【隠蔽】の他に【風魔法】まで持っている個体だとはね」
「サフランてば、持ってるよねー」
まだ幼体のくせしてこのパピィ、ハイディフォックスの種族固有スキル【隠蔽】に加えて、【風魔法】による滑空を達者に使い熟したのだ。
頼れる事情通にして解説役のサンチェスが教えてくれたところでは、同じ肉食獣でもハイディフォックスとミミックジャガーは、狩りの遣り方に違いがあるのだと言う。
ハイディフォックスの場合、種族固有スキルの【隠蔽】は初撃の奇襲――致命率は高くない――と、逃走時に用いるくらいで、基本的には追跡型の狩りを行なう。その関係なのか、種族特性として風属性を持っており、風魔法による滑空を使う個体も少なくない。まぁ、幼体時から使い熟すというのは珍しいそうだが、パピィはその少数派であったらしい。しかも、
「あの歳にしてはかなり使い込んでおりますな」
「ねー、Lvも2になってるそうだし」
「滑空できる距離はまだ短いのよね?」
「然様で。ただ、使い慣れている分だけ発動がスムーズのようですな。そのアドバンテージは大きいので、実戦でも充分に使えようかと」
「重ねて言うけど、サフランは良い拾い物……うぅん、良い縁を拾ったわね」




