第百六十七章 カンチャン村滞在記(二日目) 19.宿泊所自室~イヤリング問題~
【人形遣い】の話が興味深くて忘れていたが、抑は自分の質問があってナントに連絡を取ったのだ。危うく本末転倒に陥るところだった――と、反省する事頻りのシュウイ。改めて自分の疑問を投げかけてみたところが、
『いや……ワイルドビーの蜂蜜って、割と市場にも流通してるけど?』
「え? そうなんですか?」
――そうなると話の様相は変わってくる。
件の蜂蜜が普通に市場に流通しているとすると、それは当然どこからか調達されている事になる。商品名に「ワイルドビー」と銘打っている以上、飼養されているミツバチから得たものだとは考えにくいから、だとすると冒険者相手に採集依頼が出ている公算が大きくなる。
そして、ギルドに採集依頼が出ているのなら一般のプレイヤーでも……
『その――子熊だっけ? 出会う機会はあるんじゃないかな?』
……と言うか、寧ろそっちこそが本筋と考えた方が良い気がしてきた。
つまり、そこまで〝森の中〟に固執する必要は無いという事か?
『て言うかさ、シュウイ君。ギルドには顔を出したんだよね? 蜂蜜採集の依頼って、出てなかった?』
「あはは……気が付きませんでした」
長らくトンの町でボッチ冒険者をやってきたシュウイは、この手の依頼は住民から直接引き受けるのが習い性になっている。なのでギルドで依頼をチェックするという発想にすら至らず、張り出された依頼票もナチュラルにスルーしたため、依頼が有ったか無かったかすらノーチェックなのであった。
冒険者稼業の根本を蔑ろにするようなシュウイの挙動に、通話機の向こうのナントも呆れているようだったが、
『それよりも……落とし主が今も村にいるとは限らないかもしれないよ?』
……などと、不穏な事を言い出した。それは一体どういう事なのか?
『イヤリングを見た住人が、それぞれ〝悪くないものに思える〟〝子供のもののように思える〟ってサジェスチョンをくれたんだよね? それって、聞き流さない方が良いと思うよ』
「そうなんですか?」
単なるフレーバーテキストのように思っていたが……そうではなくて「手懸かり」だったのか?
『そこの村ってさ、子供向けのアクセとか売ってるの? そんな店がある?』
「え……どうでしょう……」
……言われてみるまで気付かなかったが、確かにその点があやふやである。
これは、シュウイがまだカンチャン村の全貌を把握していないというのが大きいが、
(……だとしても……もしもアクセサリーを扱ってる店があったら、そういうアドバイスをくれてもおかしくないよね?)
商店主二人に冒険者ギルドの職員まで揃っていて、誰一人そういったアドバイスをくれなかったというのは、その手の店が無い事を意味しているのではないか?
抑の話、カンチャン村が巡礼者のための村だという点を考えるなら、巡礼者や旅芸人、或いは芸能プレイヤー向けの品なら扱っているだろうが、子供向けのアクセサリーというのは守備範囲外なのではないか?
『だとしたらだよ? 偶々村を訪れたセレブの子供が落とした――っていう可能性もある訳で、だったらその子供は、家族と一緒に既に村を発っている可能性だってある訳だよね?』
……確かにそういう可能性はある。今まで気付かなかっただけだ。
セレブの子供が森へ入った理由が少し気懸かりだが、森には入らなかった可能性もある。
例えば、森の手前の原っぱで家族がピクニックしていて、少女が少し森へ入って落としたとか。それを子熊が拾ったのかもしれない。
或いはまた、子熊が遊ぼうと寄って来たのに、少女が怯えて逃げ出したとか? 大人たちがそれを笑って見ていたというなら、ギルドに報告が出ていなくてもおかしくはない。
まずはそういった話が無かったかどうか、村で訊き込んでみた方が良いだろう。
セレブが家族で村を訪れたというなら、技芸神の神殿詣でが目的だった可能性は高い。そっちの方向から訊き込んでみるのも有望だろう。何なら神殿へ行った時に訊いてみてもいい。
それにイヤリングの品質や材質からだって、何かの情報が得られるかもしれない。
何にせよ、訊き込みの対象は子供に限らない方が良さそうだ。




