第百六十七章 カンチャン村滞在記(二日目) 4.人形遣い(パペットマスター)の目覚め(その2)
具体的な指針の前に基本的な注意が表示されて戸惑ったが、ヘルプファイルを読み込んでみると、そこに具体的な手順がちゃんと記載されていた事に安心する。それによると、
「やっぱり基本はクレイゴーレムなのかぁ」
まずはチュートリアル用に、コアを使わないゴーレムを作り、それを動かす感覚を養成するところから始めるらしい。そしてそのチュートリアル用のゴーレムは、土で作るのが基本のようだ。それもできれば……
「あー……魔力の滲み込んだ土の方が良いんだな」
初っ端から贅沢な注文のような気がするが、把握のし易さ・扱い易さが段違いであるらしい。寧ろ最初だからこそ、扱い易い素材を奢って、感覚を養う方が早道である……と、ヘルプファイルは力説している。
そして〝魔力の滲み込んだ土〟というなら、心当たりが無いでもない。
二度に亘ってシュウイが見えたクレイゴーレム。あの原料となっていた土なら条件に適う筈だ。
ただし――そこに一抹の懸念が無い訳でもない。
「……マジックバッグに仕舞ってあるけど……もう〝堆肥化〟しちゃってるんだよなぁ……」
――そう。
シュウイを襲って返り討ちにされたクレイゴーレム二体は、既にその身を「堆肥」に変えられている。シュウイの持つ【堆肥作り】のスキルによって。
孰れ何かの役に立つだろう、否、役立ててみせようとの決意と思惑によってマジックバッグの〝肥やし〟となっているのだが……まさかゴーレムの建材という選択肢が出て来るとは思わなかった。
幾ら「クレイゴーレム」だからと言って、「堆肥」をその材料に使っていいものだろうか? 出来上がったクレイゴーレムに、雑草が繁茂したりしないのか?
「……止めといた方が良いのかな?」
ゴーレム作成の練習用に使うだけだし、雑草塗れになったりはしないとは思うが、敢えて危ない橋を渡る事も無いだろう。実習用のテキストにはちゃんと、〝魔力の滲み込んだ土〟の調達法も載っているし。
「あー……『土』はそこらの土に【魔力浸潤】を使えばよくって、『水』は【霊水】か【聖水】でいけそうだな。……どっちにしようか?」
何となく【聖水】の方が有り難そうな気はするが、【聖水】のレベルがLv2なのに対して、【霊水】はLv5となっている。スキルのレベルが効果に影響するというのは定番の設定なだけに、どちらを使うか地味に悩みどころではある……の・だ・が、
「……うん、よし。両方あるんだから、両方使っちゃえばいいよね」
……そんな些事に頓着するようなシュウイではない。
この時も〝どうせ練習用なんだし♪〟という軽~いノリで、「聖水」と「霊水」を混ぜて使う事を決める。いつぞやズートの木を治療した時も、予後の回復を考えて両方を与えておいたではないか。それで何の不都合も起きなかったのだから、ゴーレムに使ったっていい筈だ。
これが実際のゴーレム作成に使うというなら、もう少し悩む時間もあったかもしれないが、今回作るのは所詮スキルの練習用である。悩む必要など無いではないか。
……というノリと勢いで、〝たかがスキルの練習台〟には贅沢千万な素材を手に、シュウイは勇んでゴーレム作成の練習に取りかかったのだが……
「……駄目だ。とてもじゃないけど『フォースメイド』なんて無理だよ、これ」
シュウイは〝魔力を用いたフォースメイドで形成する〟のに苦戦していた。
シルたちの指導宜しきを得て、毎夜の訓練に励んでいたシュウイであったが、高々三日間の練習でどうにかなるほど、「魔力操作」は甘くはなかったようだ……というのは間違いではなかったが、然りとて事実の全てを言い表してはいなかった。
実は、シュウイの魔力が存分に滲み込んだ泥土は、シュウイの魔力の動きにきっちりと、期待以上に応えてくれていた……ほんの僅かな心の揺れにも鋭敏に反応するくらいに(笑)。
シュウイが余計な色気を出して、「聖水」と「霊水」を混ぜて使う……なんて暴挙に走らなかったら、泥土もここまで鋭敏な反応は示さなかったかもしれない。謂わばシュウイの自業自得である。まぁ、運営もこういうケースまでは想定し得なかっただろうし。
ともあれ、(シュウイ視点で)非生産的な「フォースメイド」にすっぱり見切りを付けたシュウイは、今度は「ハンドメイド」によるゴーレム作成に取りかかった。一応はアドバイスに従って、〝ゴーレムが形作られていく過程を魔力で捉える〟ようにして。
こちらの方がシュウイの性に合っていたのか、今度は(比較的)スムーズに、ゴーレム作成の作業が進む。
「……て言うか、能く考えるとこれって、視覚と触覚による力加減のフィードバックをVRで再現して、なおかつ『フォースメイド』との差別化もしてるって事だよね?」
それは地味に凄いのではないかと、CANTEC社の技術に内心で驚き呆れもしたが……そんなのはゲームを楽しむ上では単なる不純物。今は〝「ハンドメイド」でなら上手く作れた〟事だけを問題にしていればいい。
とにかくこの力加減を肌感覚で理解して、孰れは「フォースメイド」での作成も――と、技術の習得に余念が無いシュウイ。【魔力操作】修得へ向けての経験値も地味に稼いでいたりするが、
「……とは言え、この分だとゴーレムの入手はまだ遠そうだな」
自らの使役獣構成に鑑みて、不足している偵察戦力をゴーレムで補完できないか――と、密かに考えていたのだが、この態では何時の事になるやら知れたものではない。空を飛べる鳥型のゴーレムなど、今のシュウイには夢のまた夢、それも見果てぬ夢というやつでしかない。
――計画の見直しが必要だろう。




